Love story Chapter two-8

Chapter two -8

  

朝方、私はお兄ちゃんの腕の中で目を覚ました。

何時なんだろう?ちょっと寒い。お兄ちゃんの温もりを求めて体をくっつける。

温かいお兄ちゃんの肌。いつも変わらず優しく私を抱きしめてくれるお兄ちゃんの腕。

この快適なお兄ちゃんの胸の中が私の安らぎの場所だった。

ずーっとこうしていたい…そう思った時、ジャックの顔が頭に浮かんだ。

ちゃんと布団で寝てるかなあ…ソファーで寒くて凍えてたりして。

私は温かいお兄ちゃんの腕の中から離れて部屋を出た。

家の中でも吐く息が白く見えるくらい冷えていた。

1階に降りてリビングルームを覗いてみたらソファーにジャックの姿は無かったのでホッ。

念のため客間をチェック。

高く積まれた布団の上?中に埋もれてジャックは寝ていた。

よかった、ちゃんと言うこと聞いてくれたんだ。

私は掛け布団がちょっとずれていたので直そうと寝ているジャックに近づいた。

その瞬間、寝ているとばっかり思っていたジャックが飛び起きて私を抱きしめ、そして布団の中に私を引っ張り込んだ。

真っ暗な布団の中で顔に息がかかるくらい近くにいるジャック…

私を抱きしめる腕の力を緩めることも無く…

「ジャック、息できないよ。寝ぼけてるの?」

私は小さい声でジャックの息がするほうに向かって言った。

あっ…私の唇はジャックの唇でふさがれた。

お互いの顔の表情もなにも見えない中でジャックの唇から伝わる熱い吐息で頭がくらくらしてきた。

「寒かった、エリィに暖めてもらいたかった。ジェイムズのように。あー温かい、エリィは本当に温かいな」

そう言ってジャックは私の足に自分の足を絡めた。

「ジェイムズのようにって、一緒になんか寝てないもん。私、行かなきゃ、お兄ちゃんにこんな所見られたらとんでもないわ」

「どうしてそんなにリョウを気にするんだ」

「私のためじゃないわ、ジャックのため。お兄ちゃんは私のお父さん代わりでもあるんだから。ちょっと考えてみて。娘が男の子と一つの布団の中に居たら、それも自分の家で。お父さん爆発するって。なにするかわかったもんじゃない。お兄ちゃんもなにするかわからないよ。だからジャックのためって言ったの」

私がそう言って布団から出て部屋を出ようとしたら2階から誰かが降りてくる音がした。

急いでまたジャックの布団の中に潜り込んで息を潜めた。

足音はこの部屋の前で止まった。そして扉がすーっと開く音がかすかにした。

お兄ちゃんだ、なにしてるんだろう…私がベッドにいないので探しに来たとか…

でもなんでジャックの部屋ってわかったのかなあ。まさかみんなの部屋を見て回ったとか…

ジャックが寝がえりをするフリをして扉のほうに体を向けた感じ…すると扉が静かに閉まった。

あぁよかった…お兄ちゃんに見つからずに済んだけど…これからどうやってベッドに戻ったらいいんだろう…

「エリィ…そこをそんなに力入れて掴まれてると変な気になってくるんだけど…俺的にはうれしいけどな」

ジャックが布団の中に顔を入れて囁いた。

慌てて布団に潜り込んだのでジャックの腰にしがみついてたの気づかなかった…やだぁ

パッとジャックの体を突き放して言った。

「もう、ジャックのせいだよ。慌ててたから…なんだかわからなくて…もう知らない。それよりも私…どうやって2階に戻ったらいいの?」

「俺がリョウを引き止めておくからその間に2階に戻れよ」

そう言ってジャックは部屋を出て台所に居たお兄ちゃんと話を始めた。

私はその隙に2階のお兄ちゃんの部屋に戻ってベッドに滑り込んだ。

あとはなんて言い訳したらいいかなあ。うーん。どうしようー。

部屋のドアが開いてお兄ちゃんが入ってきた。

私は寝ぼけたフリをして顔が見えないよう布団の中に潜った。

冷たい…布団の中に入ってきたお兄ちゃんの体はすっかり冷え切っていた。

お兄ちゃん、私を探してたのかな…もしそうだったら…私はお兄ちゃんに対して罪悪感でいっぱいになった。

「お兄ちゃん、体冷たいよ。えりが温めてあげる」

私はそう言ってお兄ちゃんの体を抱きしめた。

「…えり…えりはあったかいな…」

なにか言いたげなお兄ちゃんはそれだけ言って私の頭を引き寄せて額に唇を強く押し付けた。

お兄ちゃんの胸の鼓動の激しさに、私の胸もドキドキした。

なにかいけないことをしているような気がしたけど、でもその胸のぬくもりから離れることができなかった。

 

日が昇って少し暖かくなった頃、みんなが布団からやっと這い出てきた。

今朝は本当に寒かった。

私は朝ご飯の準備のためみんなよりちょっとだけ早く起きて台所で仕度をしていた。

でも本当のところ、あの後ぜんぜん寝れなくて。

ジェイムズやジャックはちゃんと寝れたのかしら。

あっ、忘れてた。ジェイムズの夜ご飯。後で食べるって言ってたよなあ、昨日の夜。

自分で食べた形跡も無いし。お腹空いて眠れなかったかも…

急いでまだ寝ているジェイムズの様子を見に行った。

「おはよう、ジェイムズ。夜ご飯…ごめんなさい。私…」

ジェイムズはもう起きていた。

「いいんだよ。朝ご飯いっぱい食べるから」

ジェイムズはいつものように優しく微笑んで言った。

「どうしよう、消毒したほうがいいかなあ。でも寒いよね。もう少し暖かくなってからのほうがいいかな」

「うん、そうしよう。みんなはどうしてる?」

「ご飯食べるところだよ。」

「じゃあ、僕も起きてみんなと一緒に食べるよ」

「大丈夫?体痛くない?」

「大丈夫だよ。着替えたら降りて行くから」

「うん、それじゃゆっくりね。急がなくていいから」

私は部屋のドアを閉めて、小さく溜息をついた。

ジェイムズはいつものジェイムズに戻ってた。昨日の夜のことなんて無かったように。

そうだね、昨日の夜のことはきっと夢だったんだ。

そう思うほうがいい。

 

みんなが朝ご飯を食べ終わって寛いでいる時に3人の両親が空港から到着した。

お隣のお母さんは無事だった3人をひとり、ひとり抱きしめた。

私はジェイムズの傷の具合やお薬、消毒のことなどをお母さんに説明して、後をお願いした。

「リョウ君やカケル君、エリちゃんには本当にお世話になってしまってありがとう」

お母さんはジェイムズと同じアイスグレーの瞳に涙をためてそう言った。

私はお隣の玄関まで薬とかを持って行った。

3人の両親は変わり果てた家の中を見てびっくりした様子で、本当に3人が無事でよかったと思ったようだった。

私が玄関で帰ろうとしたらお母さんに呼び止められた。

「エリちゃん、もし時間があったらちょっといいかしら」

家族水入らずのところにいいのかしら。私はちょっと遠慮して返事に困ってしまった。

「エリちゃんが居てくれると私もほっとするの」

お母さんはジェイムズと同じアイスグレーの瞳で私を見つめる。

「それじゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します」

この瞳に弱いんだよなあ。

リビングルームではお父さんと男3人が地震の時の話をしていた。

キッチンでお茶の用意をしているお母さんの所に行ってなにかお手伝いすることはないか聞いてみた。

「じゃあ、これをリビングルームまで運んでもらえるかしら」

お母さんはそう言って私に紅茶のカップが乗ったトレイを渡した。

お母さんはお湯の入ったポットとカナダから持ち帰ったお菓子の箱を持って私の後にリビングルームに入って来た。

お母さんは紅茶をカップに注ぎながら言った。

「エリちゃん、3人の面倒を見てくれて本当にありがとう。特にジェイムズの怪我で病院まで一緒に行ってくれて。ジェイムズもどんなに心強かったことか」

その時だった、お母さんがジェイムズの顔をさりげなく見たような気がした。

「そんな、大したことしてませんので。それにこういう時にお隣同士で助け合うのは日本では当たり前ですから」

「それってすごくいいことよね。私達はすぐに飛んで来れなかったけど、リョウ君から電話をもらってすごく安心できたの。家のほうもリョウ君のお陰でこんなに片付いて。リョウ君ってすごく頼りになるわね。エリちゃんもあんな素敵なお兄さんがいていいわね。でもエリちゃんのボーイフレンドになる子は大変だろうけど」

お母さんはおいしそうなお菓子を私に勧めながら言った。

「そうだね、リョウ君やカケル君、エリちゃんには本当にお世話になった。今度あらためて3人のお母さんにお礼をしに伺うつもりだよ」

お父さんにまでそう言われてちょっと照れちゃう。

「みんな無事で本当によかったです。兄も弟もそう思ってます」

みんなでお茶を飲みながら話をした後、私は家に帰った。

なんか気になるなー、お母さんが言ったこと。

私に素敵なお兄ちゃんがいるって、そしてボーイフレンドになる子は大変だろうって。

お母さんがそう言った時にまたさり気なく見たんだよなあ、ジェイムズとジャックを。

そのさり気なさがなんか気になる…

 

お隣から帰って家でお昼の準備をしている時にお父さんの所に行ってたお母さんが帰って来た。

家の中はすべてお兄ちゃんと翔が片付けていたのでお母さんはちょっと拍子抜けしたみたいだったけど、でもさすがお兄ちゃんとニコニコ顔だった。

そしてその日の午後には電気もガスも復旧して私達は2日ぶりにお風呂に入った。