Love story Chapter two-9

Chapter two -9

  

うーん、手作りチョコって結構難しい!

チョコレートを上手に溶かして口当たりを良くするのが。

でもこれが大事なところだから手抜きはできないぞ。

バレンタインデー用のチョコをがんばって作ってる。

これでベースはできた。あとは男の子達が好みそうな中身を加えてと…

ジェイムズとお兄ちゃんにはダークチョコにラム酒につけたレーズンとナッツを混ぜて。

翔とジョシュアにはミルクチョコのグミ、マシュマロ入り。

ジャックにはトリュフチョコ。1番手が掛かる。

手で丸めていったん冷蔵庫で冷やしてそれから1個づつとかしたチョコをからめてココアをまぶして。

抹茶味も作ってみようかな。それにチョコベースにちょっとだけアルコールを入れてみようか。

ジャックのイメージだとウィスキー?って感じだけど、でもここはレシピー通りコアントローにしておこう。

なんか体中からチョコレートの甘い香りがしてそうなくらい私はチョコまみれだった。

どうしよう、いつ渡そうかなあ。学校で渡すのもなんだから帰って来てからにしよう。

でもバレンタインデーって男の子にとってキツイ日かも。

なん個チョコもらえるかって期待したりして。1個ももらえなかったら超悲しいかも。

ラッキーにも(?)うちの2人はその心配はなさそうだけど。

 

今日はバレンタインデー当日。

男の子も女の子も朝からソワソワしてる。

学校に行く途中、ジャックやジェイムズに日本的バレンタインデーの説明をした。

「女の子から男の子にチョコを渡して気持ちを伝える日なんだよ、日本では」

「そうなんだ、チョコレート会社の陰謀って感じだけどね」

ジェイムズが分析するように言った。

ジェイムズ…でもよかった…怪我もかなり良くなって。顔にも傷、残らなかったし。

「エリィは渡さないのか」

ジャックに聞かれてハッとした。私、ジェイムズの顔じっと見てたかも。

それを誤魔化すようにおどけて言った。

「もちろん、渡すよ。手作りしたのを…」

 

休み時間になると、‘‘~君いますかー’’とか‘‘~先輩いますかー’’

そのたびに誰の名前が呼ばれるのか気になってクラス女の子達は教室のドアに視線釘付け。

「あのー、ジャック先輩いますかー?」

1年生が固まって私達の教室の中を覗いてる。

ジャックは隣にいた男の子に押されて教室の入り口に立っている女の子達の所に行った。

そしてもらったチョコを両手で抱えながら戻って来た。

他の男の子達にからかわれてちょっと戸惑いながら、ちょっと嬉しそうなジャック。やっぱり男の子よね。

「ねえ、えり。焼いちゃったりしないの?ジャックがあんなにモテて」

「ど、どうして私がヤキモチ焼かなきゃいけないのかなあ。まぁ、そりゃ、ちょっとチョコもらいすぎって思うけどね。でもそれを言ったら祐美だってジェイムズがどれくらいもらってるか心配でしょうが…」

祐美は不敵な笑みを浮かべて言った。

「放課後に渡すつもりだけど、私のは特別よ!」

うっ、ちょっとコワイ。祐美がジェイムズにあげるチョコってどんなんだろう!

特別ってまさか自分にチョコ塗ってタラーなんてことはしないよねー。

そこまでは…でも祐美だったらやりかねないかもなあ。

「ジャック先輩いますかー?」

またジャックを呼ぶ声が。あれ全部食べれるのかなー、ジャック。

 

放課後になって祐美はジェイムズにチョコを渡しに行った。

私は隣でチョコがいっぱい入ったバッグを重そうに持つジャックに声をかけた。

「いっぱいもらったね。全部食べられるの?!」

「うーん、エリィが手伝ってくれるのか」

「遠慮しておく。だって女の子達のジャックへの気持ちがいっぱい詰まったチョコだもん。恐くて食べられないよー。がんばって1人で食べてね。それに3月にはホワイトデーって言って、今度は男の子がチョコをもらった女の子にお返しをする日があるんだよ。ちゃんと誰にもらったか覚えてる?!お返し忘れたら怖いかもよーっ」

私が脅かすように言ったのでジャックはそんなの知らなかったと焦って、どれが誰からのチョコか必死に思い出そうとしている。

「ジャック、ほらっ、名前書いてるよ。これで誰からもらったかわかるだろうから…」

「でも名前はわかるけど顔が思い出せない」

「大丈夫、私が誰か教えてあげるから」

やっとジャックはホッとした顔をして言った。

「エリィ、助かる」

ジャックは教室から校門を出るまでにまた何個かチョコをもらった。

私はそれを横目で見ながら学校を後にした。

どうしようー…私が作ったチョコ。

他の子のチョコを見たら義理チョコにしてもあまりに手を抜いたって感じかなあ。

まあいいや。

「おい、なんで先に行っちゃうんだよ」

ジャックが走って私を追いかけてきた。

「だって女の子に囲まれて忙しそう、邪魔したら悪いと思って。ぷ、ぷ」

「なんだよー!」

ジャックをからかうとおもしろーい!いつも私がからかわれてるからたまにはいいかな。

「なあ、エリィ。オマエはもう渡したのか。手作りのチョコ」

えっ、朝の会話、覚えてたんだ。

「うーん、まだ。タイミングが合わなくて。でも後で渡そうかなあ、どうしようかなあ」

ジャックはなにか考えてるようで黙ってしまった。

家に帰って冷蔵庫のチョコを確認してるとお兄ちゃんと翔がチョコをたくさん持って学校から帰ってきた。

以前、お兄ちゃんは女の子からのチョコを受け取らなかった。でも目の前で女の子に泣かれてかなり困ったみたい。

それからは黙ってもらって来るようになった。お兄ちゃんらしいけど。

ジェイムズやジョシュアも帰って来たみたい。窓から2人が家の中に入っていくところが見えた。

じゃあ、渡してこようかな。私はかわいくラッピングしたチョコを持ってお隣さんへ。

お隣のお母さんは外出中で3人に家の中に通された。

「バレンタインデーのチョコ、持ってきたんだけど…3人ともいっぱいもらったようだからいらないかなって。どうしようかと思ったんだけど…」

私はちょっと恥ずかしくて持ってきたチョコをすぐに出せなかった。

「エリ、それ自分で作ったの?」

ジェイムズがチョコを覗き込みながら言った。

「うん。3人をイメージして作ってみたの。だから好きじゃないかも…」

私は思い切ってチョコを3人に渡した。

「これはジェイムズに。ダークチョコとラムレーズンとナッツをミックスしてみたの。

ジャックにはトリュフチョコ。前に柔らかいチョコが好きだって言ってたと思って。

ジョシュアにはミルクチョコにグミとマシュマロをミックスしたのだよー」

3人は袋を開けて私の作ったチョコをそれぞれ口に入れた。

「おいしーよ」「うん、おいしい」

ジョシュアとジェイムズはそう言ってくれた。

でもジャックは無言のまま。

「ジャック、あんまり好みじゃなかったかな…ジェイムズやジョシュアみたいのにしておけばよかったね。ごめん、2人からわけてもらって」

「俺はまだなにも言って無い」

「じゃあ、なにか言ったらどーなんだよ。もったいつけてさ」

ジョシュアがジャックにつっ込む。

ジャックは黙ってチョコを持って2階に上がって行ってしまった。

「ほんと、素直じゃないんだよ。ジャックは」

ジョシュアが珍しく怒ったように言った。

「嬉しかったんだよ、ジャック。あいつはああ見えても実は恥ずかしがり屋だから」

ジェイムズがジャックを庇って言った。

「ねえ、チョコのお礼と言ってはなんだけどさぁー。明日みんなで映画でも見に行こーよ」

「なんでお礼で映画なんだよ、ジョシュア」

「まあ、口実はなんでも。みんなで出かけるのもいいかなと思って」

「エリはどう?明日空いてる?」

「うん、大丈夫だけど。せっかくだからお兄ちゃんや翔も誘っていいかなあ」

「それいいかも。みんなで楽しくやろーよ。僕がリョウやカケルに聞いてくるよ」

そう言ってジョシュアが嬉しそうに出て行った。

残されたジェイムズと私。

「ジェイムズは体、大丈夫?もう傷治った?出かけたりして痛くならない?」

「映画くらいだったら大丈夫だよ。もうかなり良くなったから。僕もエリと出かけるの楽しみだな…エリ、こうやって2人で話すのも久し振りだよね。朝のジョギングも一緒に行けなくなってたから」

そう言ってジェイムズは私を優しい眼差しで見つめた。

ジェイムズってどうしてこんなに優しい瞳をしてるんだろう。

私はいつもその瞳に見つめられて動けなくなってしまう。

「やったー。二人とも大丈夫だって!」

ジョシュアが玄関のドアをバーンと音を立てて開けて入って来た。

「なにが大丈夫なんだ?」

声のほうを振り向くとジャックが階段に立っていた。

知らなかった…ジャックがそこにいたこと。

「ジャック、明日、みんあで映画にでも行こうって話してたんだよ。ジャックももちろん行くよね」

ジョシュアは有無を言わせない口調でジャックに言った。

ジャックは私とジェイムズを見て言った。

「俺も行くよ」

「やった!これで楽しくなるぞー。ジェイムズ、ジャック、時間とかエリと決めておいてね」

ジョシュアはなんかすごく楽しそうな顔をして2階に上がって行った。

「エリはなにが見たいの?」

「うーん、コワイのがいいかな。楽しいのとかは友達と行けるけどコワイのはみんなでじゃないと行けないから」

ジェイムズはじゃあ、ちょっと待ってねと言って携帯から映画の情報を出した。

「コワイのだよね。それだったらこれかなあ…」

それはホラー映画でオリジナルがゲームだったもの。恐さも皆で見るのにはちょうどいいかも。

でもこれって好き嫌いありそう。どうだろう。

「本当にこれでいいのか?」

ジャックが信じられないって顔で私を見る。

「私、このゲーム結構好きだったりするんだよね」

「エリ、ゲームするんだ?」

ジェイムズも驚きの顔をしてる。

「するよー!小さい頃はドラクエとか冒険物が好きだったなあ。今はもっぱらホラー系だけど」

「オマエがゲームオタクだったとはな」

「そう言うジャックだってゲームするでしょ。今度一緒にゲームしようよ、1番コワイの。恐くて私に抱きついてもいいよ」

なんか途中からゲームの話になっちゃったけど、とりあえず明日はホラー映画を見に行くことに落ち着いた。

 

朝、みんなで映画館に向かう。

映画館では誰がどこに座るか迷っていたらジョシュアが言った。

「エリは誰と座りたいの?希望は無いわけ?」

「うーん、私は両隣に誰か座ってくれるんだったら誰でもいいよ。ちょっとトラウマがあって、映画館の」

みんなが何事かという顔で私を見た。

「そ、そんなすごいことじゃないんだけど。祐美と2人で映画を見に来た時だったんだけど、すごく空いてたのに私の隣に男の人が座ったの。ちょっと嫌だなって思ったんだけど、席を動くのもなんか恥ずかしくて。他の人がなんて思うか考えたら。そのうちその人が私の足を触ってきたの。嫌だから足を離してもそれでも触ってきて。そのうちすごくムカついて爪で思いっきり手をひっかいて席を移動したの。でもその人に後でなにかされるかと思ってハラハラしてた。それから映画館ってちょっと怖いの。だから両隣にだれかが座ってくれれば安心できる。それと私の後ろにも座ってもらえるともっと安心できるかなあ。でも、大丈夫だから。気にしないで」

「そんなことがあったのか、えり。どうして言わなかった?」

お兄ちゃんがちょっと恐い顔をして言った。

「だって、お兄ちゃんに話したら2度と映画館に行かせてくれなくなると思ったんだもん」

「それじゃー、エリを挟んで誰が座る?」

ジョシュアが翔を見た。

「それじゃ、僕とお兄ちゃんとジョシュアがお姉ちゃんの後ろに座って背後を守るから、ジェイムズとジャックはお姉ちゃんの横に座って誰も手を出せないようにちゃんと見張ってよ」

翔が早口で言ってジェイムズとジャックを私の両端に座らせた。

「早く座って、座って。映画が始まるよ」

ジョシュアがウキウキしたような声で言ったのが気になる。

なんか翔とジョシュア、変。

映画が始まった。

私は2人が横に座ってくれて安心して、ホラー映画を楽しんじゃった。

私がそれ行けーゾンビーなんて声をあげちゃったりしたから、横の2人はかなり引いてたけど。

あー、楽しかった。映画を見て思いっきり声を出したのでお腹が空いちゃった。

「お昼にしようよ、お腹すいたよー」

「確かにあれだけ叫べばお腹も空くよ、エリ」

ジェイムズが笑った。

「あー、耳痛っ。まだオマエの声が響いてる」

ジャックが耳を摩りながら私を睨んだ。

「恥ずかしいから、早くここ出ようよ」

翔とジョシュアが私達を置いて行こうとする。

「なによー、ホラー映画なんだもの。みんな叫んだりするのが当たり前だよね、お兄ちゃん」

「ノーコメントだ」

私は唯一味方だと思っていたお兄ちゃんにまでそう言われてちょっとイジケテしまった。

「ふん、みんなイジワルなんだから」

私が拗ねているとジェイムズが優しく肩を抱いて言った。

「いいんだよ、エリはそれで。そういうエリがみんな好きなんだから」

ジェイムズは優しいんだもん。ちょっと機嫌を直して私はレストランの席に座った。

うーん、なにを食べようかなー。どれもおいしそうで迷っちゃう。

メニューと睨めっこしてたらなんか視線を感じて顔を上げるとレストランにいる女の子達が私達を見てる。

そうだよね。男の子5人に女の子私1人。

事情を知らない子が見たらなーにって思うだろうけど。

そのうち2人は兄弟なのになー。

「エリ、決まったのかい?」

またぼーっとしてしまった。

隣に座っているジェイムズが私の顔を覗き込んで言った。

「みんな決まったよ。エリだけだよ。どうするの?」

お兄ちゃんがウエイトレスさんを呼ぶベルに手をかけた。

「みんなはなににしたの?」

なんか、ジェイムズとジャックがそれぞれ選んだのがおいしそう。

「ジェイムズとジャックの選んだのがおいしそうだなあ。どっちがいいかなあ。うーん迷っちゃう」

「エリ、目閉じて」

ジョシュアが言った。

「最初に頭に浮かんだのはジェイムズが選んだの?それともジャックの選んだの?どっち?」

私は言われた通り、目を閉じた。

「見えた!」

「なにが見えたの?ジェイムズ?ジャック?」

「………」

「フルーツパフェ!」

「えーっなんだそれ?」

「デザートも食べたいなって考えてたから…」

「そうきたか…」

ジョシュアはこれは駄目だというように頭を振ってる。

他のみんなには笑われてしまった。

結局私は2人とは別のを頼んで無事食事を済ませた。

「食後の運動にボウリングでもしようよ。ジェイムズは無理しないでね。私がお助けします。ねえ!」

それじゃあということでみんなでボウリングをすることになった。

みんなすごく上手で私だけがガターを連発してまた笑われてしまった。

でもよかった。みんな楽しそう。いろいろあってこんなに笑ったのも久し振り。

珍しくジャックも笑ってる。笑顔のジャックのほうがぜんぜん素敵だよ。

もっとジャックが笑ってくれるといいんだけどなあ。

帰りにボウリング場にあったプリでみんなで写真を撮った。

写真の中のみんなは楽しそうですごくよく映ってる。

また宝物が出来た。うれしいなあ。

これ、後でみんなの携帯に送ってあげよう。