Love story Chapter two-10

Chapter two -10

 

今年の雪はさらさらのパウダースノー。   

地震の後、やっとスキー場にも活気が戻ってきたみたい。

祐美の計画でクラスの仲間とスキー場に来ている。

…と言っても集合場所にいるのは私とジャックだけ。

約束の時間をかなり過ぎてるのに誰も来ない。

「どうしちゃったんだろうね、集合場所間違えたかなあ」

私は祐美からもらったメモを見返した。

「あってるんだけどなあ。ちょっと祐美に電話してみるね」

携帯から聞こえる呼び出し音が長く感じた。

「もしもし」

祐美がいつもの調子で言った。

「ねえ、祐美。今どこにいるの?私達、集合場所で待ってるんだけど誰もいないよ」

「えっ、集合場所ってまさか、スキーのこと?」

「うん、スキー場にいるよ」

少しの沈黙の後、祐美が悪そうに言った。

「スキー、来週になったんだよ。すっかりえりに伝えたと思ったのに…ごめん」

「えーっ。誰も来ないの?どうしよう」

私はことの成り行きに戸惑ってしまった。

「でもせっかくだからジャックと2人で楽しんできてよ。じゃーね」

祐美が明るく言って電話を切ってしまった。

呆然としてる私の横でジャックがやれやれという顔をした。

「祐美から聞いてないよ、本当に。祐美、ボケちゃったんだよ」

「わかった、わかった。せっかくここまで来たんだから楽しもう」

ジャックは2人のほうが面倒が無くてよかったと言いながらスキー場の建物の方へ歩いていく。

今日1日ジャックと一緒にスキーかあ。それもいいかな。

振り返って早く来いと手を振ってるジャックに向かって私は走った。

 

「ジャック、スキー上手。さすがカナダ仕込みだねえ」

ゲレンデを華麗にすべるジャックの姿に見惚れて私は溜息をついた。

「そう?ありがとう。でもジェイムズのほうが上手いんだけどさ」

きっとカナダではみんなスキーが上手なのは当たり前なのかも。

恐る恐るすべる私の姿がよっぽどひどかったのか、それからジャックの鬼のような(?)特訓がお昼まで続いた。

「ジャック、お腹空いたよー。ちょっと休憩しようよー」

「そうだな。ちょっと休むか」

ちょっと疲れたような表情をしてるジャック。

それはそうだよなあ。ずっと私のように非常に手のかかる生徒の相手をしてたんだから。

でも、かなり上手くなったよ。エリィ」

「そうかなあ。コーチのおかげだよね。ありがとう、ジャック」

私はココアの入ったカップで手を温めながら向かいに座ってコーヒーを飲んでいるジャックを見つめた。

「午後はジャック好きなように滑ってね。私と一緒だと上のコースに行けないでしょ」

私は本当に悪いなと思っていた。思いっきり上級者コースを滑りたいはずなのに。

それを我慢して私に付き合ってくれてるジャック。

「私、ここで温まってるから行ってきて。それにここからゲレンデが見えるから。ジャックのカッコいい姿見たい」

ジャックは最初滑らなくてもいいって言い張っていたけど、私に席から追い立てられてゲレンデの方に向かった。

「ありがとう、エリィ。すぐに戻ってくるから。ここから見てて」

窓からゲレンデを眺める。家族連れや友達のグループ、カップルが楽しそうにしてるのが見える。

上級者コースを簡単に滑り降りてくるジャックの姿を見つけて手を振った。

もう1回と手を振るジャックにもっと滑ってと私は親指を立てて手を振った。

ジャックが寒そうにリフトで上に上がっていくのが見える。

ジャックが帰って来たらお昼ご飯にしよう。

なに食べようかなあ。どれもおいしそう。

そう思ってレストランのメニューを見てる私の横に大学生くらいの男の子達が座った。

「席いっぱいだから、一緒に座ってもいいよね」

「それだったら、どうぞ」

席を立とうとした私の腕を横にいた男の子が掴んだ。

「どうして。女の子一人で寂しいでしょ。僕達と一緒にご飯食べようよ」

「私、独りじゃないです。それにお腹空いてませんので…」

「でもメニュー見てたじゃん。一緒に食べようよ」

その男の子があまりにもしつこいので黙ってその場から立ち去りたかった。

でも腕をしっかり掴まれていて離してくれそうにない。

「腕、離して下さい。ご飯、一緒に食べる気なんかありませんから」

私の言い方が気に入らなかったようでその子の言葉遣いが乱暴になった。

「なんだよ!一人でいるからかわいそうだと思って声をかけてやったのにお高くとまってさ。どうせ、連れがいるなんて見え張って言ってるんだろ。どこにもいないよなあー」

男の子達が馬鹿にするように私を見て笑った。

私は悔しくて下を向いて唇を噛みしめた。

「連れがなんだってんだ、このボケ野郎!」

顔を上げるとジャックが立っていた。

私の腕を掴んでる男の子を睨むとその手を振り解いて自分の体で私を庇った。

突然現れた連れが外国人で、その外国人に日本語で凄まれて男の子達は固まってしまったよう。

口を開けておバカ面をさらしてるその子達を後にしてレストランを出た。

「ごめんよ、エリィ。俺がオマエを独りにしたから、嫌な思いをさせてしまった」

ジャックは掴まれていたほうの私の腕を優しく摩りながら言った。

「ぜんぜん、大丈夫。助けてくれてありがとう。それよりご飯食べそこなっちゃった」

今まで険しい顔をしていたジャックが頬を緩めた。

「エリィは食いしん坊だな」

レストランに戻りたくなかったのでゲレンデで売っていたホットドックを食べた。

お昼を過ぎてまた雪が降ってきた。

丁度ご飯時でほとんど人がいない初心者用のコースをジャックの後に続いて滑る。

時々ジャックが私の横に並んだり、後ろに回ったりして、まるで雪の上でダンスをしてるよう。

その姿に見惚れてしまった私は足が絡まって転んでしまった。

心配そうに私を見るジャック。

私を引っ張りあげようとするジャックの手を掴んで自分の方に引き寄せた。

不意に私に引っ張られたのでジャックはバランスを崩して私の上に倒れた。

「やったな」

「へへへ。いつものお返しだよ」

顔を上げたジャックの瞳がキラっと光ってその瞬間私を抱きしめた。

そして雪の上を2人重なって転がる私達。

「もう、雪だらけになったよ。このまま2人一緒に雪だるまになったらどうするの?」

「俺はそれでもいい、エリィと一緒だったら」

ジャックが真面目な顔をして言ったので私は照れてしまった。

私もジャックとだったら一緒に雪だるまになってもいいかな。

私の顔の上にあるジャックの顔がだんだん近づいてきて私の鼻の上についた雪のかけらを舐めた。

そして寒さでちょっと赤くなった2人の鼻先が触れる。

お互いの白い息が混ざり合って2人の唇がひとつになる。

「このままでいたい」

ジャックが呟くように言って私を抱きしめる腕に力を入れた。

                 

雪が本格的に降ってきた。

このまま2人一緒に雪の中に埋もれてしまうかもしれないと思うくらい。

「そろそろ帰ったほうがいいかもしれないな。この分だと今晩降り続きそうだ」

ジャックが私を抱き起こして言った。

スキー場のゲストハウスで着替えをしていると館内アナウンスが聞こえてきた。

"大雪のため、列車が運休になりました。当分、復旧の見通しがありません"

えっ、家に帰れない!どうしよう。ジャックもアナウンスを聞いて困った顔をして更衣室から出てきた。

「どうしよう。帰れそうにないよ」

無理して駅まで行ってそこからどうしよう。それともスキー場のホテルに泊まって様子を見たほうがいいのかなあ。

「どうしたらいいと思う、ジャック?」

「そうだなあ。雪は止みそうにないし。ここで様子を見るのがいいと思う、でも…」

リゾートのフロントは急遽宿泊を希望する人達で混んでいた。

やっと私達の番が来て私がツインの希望を伝えると、スタッフはダブルの部屋が一部屋しか残っていないと言った。

私はもうなんでもよかったのでその部屋をお願いした。

料金を支払って部屋に向かいながら思った。

ダブルかあ。2人でどうやって寝たらいいのかなあ。

本当にダブルベッドしか置いてない部屋を見たら溜息が出てきた。

「家に連絡しないとまずいよな」

ジャックにそういわれてハッとした。

そうだよー、連絡しなきゃ。でもなんて言ったらいいのかなあ。お母さんは友達と一緒だと思ってるし、正直にジャックと2人だなんて言ったら大変なことになっちゃうかも。

先にジャックが家に連絡をした。手短に状況を伝えて電話を切った。

私もジャックみたいに簡単にいくといいんだけど。緊張しながら家に電話をかけたらお母さんが出た。

雪で列車が運休になって帰れないのでスキー場から動かずここに泊まることにしたと早口で説明した。

お母さんもそのほうがいいと言って私がお金を持ってるか心配してくれた。

お金のほうは大丈夫なのでまた状況がわかったら連絡するからと言って電話を切った。

電話を切る前にお母さんが言った。

「祐美ちゃんにも気をつけるように言ってね」

うーん。

ホテルのレストランは混んでいたので売店でパンとカップラーメンを買って部屋で食べた。

部屋の窓から見える景色は猛吹雪…明日帰れるのかな…

なんとなくテレビを2人で見て時間が過ぎていった。

「そろそろ寝ようか」

そう言ってジャックはソファーにごろんと横になった。

「一緒に一つのベッドに寝るわけにはいかないだろ。でも毛布は貸してくれよ」

私は予備の毛布をクローゼットの棚から取ってジャックに渡した。

「ジャック、ソファーになんか寝たら風邪ひくよ。暖房いっぱいにしてるけどぜんぜん暖かく無いし。私、ジャック信用してるからベッドで寝て」

そう言ってソファーに横になってるジャックの手を取った。

本当にいいのかという顔でジャックが見たので大丈夫と大きく頷いてみせた。

着替えを持ってないジャックは着ていたTシャツとジーンズで寝るみたい…窮屈そうだけど仕方ないよね…パジャマもないし。

私の体は冷えていてこの分だと寒くて眠れそうに無かった。

「お風呂に入ってもいいかなあ。体が冷えて寝れそうに無いの」

「エリィはそんなに寒がりだったんだ。入ってきたらいい。それか一緒に入ろうか…冗談だよ、覗いたりもしないからさ」

さらっと際どいこと言うんだから、ジャックは。

信用してるって言ったの撤回するよ、もう。 

「あー、気持ちいい」

熱めのお湯に体を沈めて血液が体中を元気に流れまわるのを感じた。

ベッドにジャックが寝てる部屋でお風呂に入ってる私。大胆といえば大胆か。

でも止むを得ない理由によりだからと自分に言い訳をする。

ハッとして時計を見る。長湯しちゃった。

持ってきた予備の下着と服を急いで着た。役にたったなあ。

1日でも遠くに出かける時は予備の下着と洋服を持って行くようにいつもお母さんに言われていた。

バスルームから出てベッドに潜り込んでるジャックを見つめる。

ジャックと反対側のベッドの隅っこに体を横たえて息を潜めた。

眠いはずなのに男の子と同じベッドで寝るなんて初めてだから緊張して目が冴えてしまう。

ジャックも寝れないのか小さく溜息をついているのが聞こえる。

「私、眠れないよ。ジャックは?

「俺も眠れない」

2人で溜息をついてしまう。

「じゃあ、なにか話そうよ。黙ってると辛いもの」

「そうだな、じゃあエリィからなんか話して」

私達はいろんな話をした。いつも無口のジャックが私に話をしてくれるのが嬉しかった。

いつの間にかジャックのほうに体を向けて話を聞きながら頷いている私。

ジャックも私のほう見て楽しそうに話を続ける。

どれくらい時間が経ったのかなあ。だんだん瞼が重くなってきて、私達はどちらからとも無く眠りに落ちていった。