Love story Chapter three-3

Chapter three -3

  

春のうららかな日差しの中、私達は山間の温泉に向かうバスの窓から新芽が出始めた木々が元気そうに枝を伸ばしている山並みを眺めていた。

約束通り2人で旅行に出た。

あの日以来、私達は双方の家族から公認の仲になっていたので2人で旅行に行くと言っても反対はされなかった。

ただお兄ちゃんがなにも言わず悲しそうに私を見たのが頭から離れない。

お兄ちゃんはあの日から遠くへ行ってしまったように感じる。

大学に進学して毎日忙しいみたいで家にもほとんど居ないし、顔を合わせることがほとんど無くなってしまった。

あの日、私がジャックを追いかけようとした時にお兄ちゃんは叫んだ。

ジェイムズだから諦めたって、ジャックは絶対に許さないって。

でも卒業してから私とジャックのことを認めてくれたような気がするんだけど。

翔が言ってたように、今私達を見守ってくれているんだよね。

私はジャックが好き。ジャックとだったらいつまでも一緒にいられる、そんな気がする。

お母さんから自分を大事にしなきゃ駄目よと言われた。その意味、よくわかってる。

でもジャックと心も体もひとつになりたいっていう自分の気持ちを抑え切れない。

ジャックも私を求めてる。でもそれをずっと抑えてるの、わかってる。

2人が求め合ってるのにそれを抑えなければいけないのってどうなんだろう。

結婚するまでバージンを守る、こんな言葉が今の時代に残ってるのかどうかわからないけど。

私達がまだ高校生だから、大人から見たら子供のままごとに映るのかもしれない。

でも私達が本気でお互いを思い合ってるこの気持ちに偽りなんか無い。

でも…お父さんに面と向かって言えるかと聞かれたら…

お母さん、お父さんに何も言ってないみたい。

旅行のこと、お父さんが知ったらなんて言うだろう。

私、お父さんにちゃんと言えるかなあ…ジャックが好きだからって。

そんなことを考えながらバスに揺られていたら温泉に着いた。

ジャックはなにを考えてバスに揺られていたのかしら…

 

フロントでなにか言われるかと思ったけど大丈夫だった。

きっと私達だけじゃないんだろうなあ…彼氏彼女で泊まりに来るのって。

仲居さんにお部屋まで案内してもらってちょっと緊張しちゃった。

いつもお母さんが心づけを渡していたので私もお金を紙に包んで用意しておいた。

でも渡そうとしたら仲居さんは笑って受け取らなかった。

やっぱり私はまだまだ子供なんだ…

部屋はジャックが気兼ねしないで入れるように個別の露天風呂がついてるのにした。

高かっただけあって広くてベッドと布団、どちらでも休めるようになってる。

露天風呂からの景色は最高!お風呂が楽しみ。

温泉デビューのジャックがなんでも珍しそうにチェックしてる。

その後姿を眺めながらきっと浴衣が似合うだろうなー、なんて想像してたらちょっと顔が緩んでしまった。

でもベッドルームのダブルベッドを見たらちょっと怖くなった。

ジャックと私はここでひとつになるんだ…

ベッドの前で私、固まってしまってたみたい。

気付いたら後ろにジャックが立っていた。

「無理しなくていいんだよ、俺はいつまでも待つから。エリィがいいって言うまで」

どうしてこう私の気持ちがわかるんだろう。それって私があまりにも単純でわかり易い人間ってことかなあ。

でも女の子の気持ち、ジャックはわかってないよ。

好きな人に奪われたいって気持ち。

私はジャックの胸に飛び込んで小さい声で言った。

I … want …  you

日本語では恥ずかしくてとっても言えない言葉。

英語なら言えた。

でもジャックにはストレートに届いたはず。

ジャックは私の瞳を覗き込み優しく微笑んでありがとうって言った。

 

 

窓から見える景色はすっかり夕焼けに染まっていた。

私達はその景色をひとつになったままの体で見つめていた。

ジャックの体の重みを愛おしく思いながらゆっくり指でジャックの髪をすく。

私の指の動きに合わせて気持ちよさそうに目を細めるジャック。

ずっとこうしていたい、このまま時間が止まってしまったらいいのに。

ジャックがなにかを思い出したように私から体を離して、脱いだシャツのポケットからなにかを取り出して私の手に乗せた。

目で開けてみてと合図するジャック。

かわいいリボンのついたフタを開けると中にはシルバーのピアスが入っていた。

「これ、おそろいだよね。お誕生日にもらったネックレスと。かわいい!」

私はジャックに抱きついてジャックの頬にキスをした。

「どう?」

私は早速ピアスをつけてみた耳をジャックに向けた。

「すごく似合ってるよ。食べてしまいそうなくらい」

ジャックが私の耳たぶを口に含んで舌でピアスを転がしながら軽く噛んだ。

うーん、やだー。なんかまた体が熱くなってきちゃったよ…

‘‘グー、キュル、キュル、キュル’’

なんでこんな時にお腹が鳴るのよー!私はお腹を押さえた。まったく!

クスっとジャックが笑って言った。

「色気より食い気だよなあ、エリィは」

だってお昼からなにも食べてないんだもん。

女子高校生はやたらお腹が空くんだってば。

「もう、夜ご飯食べに行こうーよ。どうせ私は色気ないもん」

「そう拗ねるなよ、そこがエリィのかわいいとこなんだからさ」

夕食はお部屋じゃなくてレストランだったのでちょっと落ち着かなかったけど、

メニューの中にジャックが食べれる物が結構あったのでよかった。

私はご馳走でお腹がいっぱいになってニコニコ。

やっぱり色気ないのかもー。でもいいの。

色気はもうちょっと歳をとってからでも十分。

もう少し食い気のままでいよう。

レストランでの食事を終え、部屋に戻った。

2人ともお腹がいっぱいになったのと1日の疲れが出たのもあって、ベッドにちょっと横になって休むつもりが寝入ってしまった。