Love story Chapter three-14

Chapter three -14

  

朝、ジェイムズが時間通りに迎えに来た。

私はぜんぜん眠れなかった…やっぱりあんな事を聞いて。

 2人のアパートに着く。

心配そうに私を見るジェイムズに大丈夫と言って車から降りる。

ここに住んでるんだ、エミリーと2人で…私の胸が痛んだ。

本当だったら私がジャックと日本で一緒に住むはずだったのに。

そんな思いを胸に2人の住む部屋のベルを鳴らした。

出てきたエミリーはジャックが好きになるのがわかるような、かわいらしい子だった。

なにも言えずに立ち尽くす私に中に入るように促すエミリー。

リビングルームに通された私は緊張で息をするのがやっとだった。

やっぱりなにも言えなくて黙ったままの私に彼女が早口で言った。

「私とジャックは昔から本当に愛し合っていてあなたの入る隙間なんてないのよ。ジャックを理解してるのは私なの。ジャックはあなたじゃなくて私を選んだのよ。だから今更ジャックに会ってどうするの?本当にあなたがジャックを愛してるんだったらこのまま黙って日本に帰るべきだわ。私はジャックを愛していたわ。どんなことがあっても。ずっとずっと前から、あなたがジャックに会うずっと前から…」

エミリーはそう言って目に涙を浮かべた。

私、彼女を誤解してた…ジャックのことなんかぜんぜん好きじゃなくて、ただ困らせるだけでこんなことしたんだと思ってた…でも…違った。

彼女もずっとジャックを愛してたんだ…手首を切ってしまうくらい…

私はエミリーの悲しみが痛いほどわかった。

彼女もジャックを愛してる…そしてジャックも彼女を忘れられないでいる。

「エミリー、約束して欲しいの。ジャックを愛してあげて、自殺したり脅したりしないで」

「私だってそんなことしたくなんかない。でもそうしなきゃ、ジャックを繋ぎとめておけないのよ」

エミリーはその綺麗な緑色の瞳から大粒の涙を流した。

「そんなことないよ。ジャックもあなたを忘れられないでいる。私にはわかる。だからそんなことしないで」

どうしてわかるのよと言うように私を見るエミリーに言った。

「これ、ジャックからもらったんでしょ」

私はそう言って本棚に飾ってあった、かわいい日本人形を手に取った。

「これね、修学旅行で京都に行った時、ジャックが真剣にあなたのために選んだの。私が誰にって聞いても教えてくれなかった。これを選んでた時のジャック、すごくうれしそうだった」

私は人形をエミリーの手のひらに乗せた。

「大事にしてね。ジャックの気持ちだから。それじゃ、今日は会えてよかった。ありがとう」

私はそう言って歩き出した。

「そんなこと言っても私は騙されないわ。ジャックは渡さないから」

エミリーは言った。

でも私にはわかった…エミリーは私の気持ち、わかってくれたこと。

これでいい…二人がうまくいってくれれば。

本当だったら2年前、なにもなかったら2人はきっと離れることなんて無かったはずだから。

2人の部屋を出ようと玄関に向かった私の前にジャックが立っていた。

いつからそこにいたのか気付かなかった。

久し振りに会ったジャックはちょっと痩せて大人っぽくなっていた。

私はなにも言わず玄関のドアを開けて外に出た。

ジャックも私の後を追って外に出てきた。

なにか言おうとしたジャックを私は止めた。

「なにも言わなくて大丈夫だよ…ジャック。全てわかったから…今までありがとね…」

私はそれだけ言ってジャックに微笑んで階段を降りた。

ジャックは階段を降りる私の手を掴んで苦しそうに私の名前を呼んだ…。

「やめて…私を…私を好きだったのなら、なにも言わないで…」

私は必死に泣くのをこらえて言った。

「彼女、大事にしてあげてね、さようなら」

絶対、振り返らない…振り返っちゃ駄目。

そんなことしたら別れられなくなる。

走って2人のアパートの入った建物を出る。

そのまま行くあても無く走っていた時、車のクラクションが鳴った。

ジェイムズが私を待っててくれた。

助手席に乗ってホテルに連れて行ってと頼んだ。

すぐにここから離れたかった。

じゃなかったら戻ってジャックの胸で泣いてしまいそうだったから。

泣いちゃ駄目だよ、えり。

我慢しなきゃ、ここで泣いちゃ駄目。

車の中で必死に泣かないように涙を堪えた。

やっとホテルに着いて私はジェイムズに日本行きのフライトの変更を頼んだ。

「ジェイムズ、出来れば今晩の飛行機で帰ろうと思うの。ここに来た用事も済んだし。ジェイムズに私のお守りしてもらうのも悪いし」

「エリ、もう少しいたらいいのに、街を案内するよ」

ジェイムズはそう言ってくれるけど私の居場所はここには無いってこと、わかってる。

「ごめんなさい。私、帰りたいの」

スーツケースを取り出してほとんど無い荷物をしまった。

「ここには私、居れないよ。居ちゃいけないんだよ、ジェイムズ」

泣いちゃいけないのに涙がこぼれてきて止まらない。

我慢しようと思ったのに、ジェイムズの前で泣いたりしないように。

「ごめんね、泣いたりして」

涙を拭いて振り向いた私をジェイムズは抱きしめて言った。

「エリ、泣いたらいい。僕の胸で思いっきり…」

「ジェイムズ、私…」

もう涙を止められなかった。

私はジェイムズの胸にすがって泣いた…

「言えなかった。私もジャックを愛してるって。ジャックを自由にしてあげてって」

ジェイムズは私の髪を撫でながら抱きしめる。

「エリ、ジャックを愛してくれてありがとう」

「ジェイムズ…」

ジェイムズの胸ってなんでも受け止めてくれる。

私の悲しみも苦しみも。

ジェイムズ、今だけは甘えさせてね。

私、元気になるから…

 

空港まで送ってくれたジェイムズ。

別れ際に、次会う時は私の笑顔が見たいと言ったジェイムズ。

私、次会う時にはきっと笑顔になってるから。

飛行機が日本に向かって飛び立った。

さようなら、ジェイムズ…

さようなら、ジャック…

もしまた会うことがあったらその時は笑顔で…