Love story Chapter four-1

Chapter four -1

  

今日、久し振りに朝早く起きてみた。

ジャックと別れてから学校に行く以外はずっと家にこもっていた。

なにもする気が起きなかったから…

散歩にでも行ってみようかな…ジェイムズとの朝のジョギングを思い出した。

楽しかったこともあったよなあ。悲しいことばっかりじゃなかった。

ジャックと別れたことはすごく辛い。

でもだからって大切な今をこれ以上無駄にしちゃいけないように思えて。

いつもジェイムズとジョギングしたコースをゆっくり歩いた。

前から新聞配達の男の子がやってくる。

エライなー、新聞配達。

その男の子が私の前に来て停まった。

あれっ、どこかで見たことあるこの顔!

そうだ!あの時の不良。

私とジャックに絡んできて私が突き飛ばしたアイツだ。

私は無視して歩き続けた。

アイツは振り返って私を見たようだったけど、配達がまだあるようで行ってしまった。

河原の手前まで行って家に戻ってきた。

家の近くまで来た時にアイツがバイクに乗って電柱の側にいるのが見えた。

「よっ、元気か」

馴れ馴れしく声をかけてきたので私は無視して歩き続けた。

「この頃、アイツ見かけないな」

体が強ばって足が止まった。

「学校があるから…」

私はそう言うのが精一杯だった。

涙が出そうになるのを抑えて家に駆け込んだ。

 

放課後になって祐美が一緒に帰ろうと誘ってくれる。

ジャックと別れてから祐美がいたから学校にも来れた。

祐美もジェイムズがカナダに帰ってしまって淋しいはずなのに一生懸命私を慰めてくれた。

今こうしていられるのは祐美のおかげだよ、ありがとう。

2人で校門の方に歩き出した。

なんか校門のあたりが騒がしい様子。

どうしたんだろう。

「喧嘩だよ。うちの学校の子と他の学校の子」

みんなが野次馬化して回りを囲んでる。

側を通ってびっくり、アイツ!あの不良!

「こんな所でなにしてるの?」

思わず声が出てしまった。

その声を聞いてアイツが顔を上げた。

「よう、おまえを待ってたんだよ。それなのにこいつらが絡んできてさ。ちょっと付き合ってやってたところ」

そう言うとアイツはさっと身をかわしてうちの学校の子達から離れて私の手を取って走り出した。

「ちょっと待ってよ!友達と帰るところなんだから!」

私がそう言うとアイツは走りながら振り返って祐美に言った。

「ちょっと友達借りるよ。悪いけど独りで帰ってね。じゃー!」

「ちょっと!私はいいって言ってないのに。強引すぎるー」

私はアイツに引っ張られながら走った。

「これくらい走ればあいつ等も追いかけてこないだろうな」

そう言って走るのをやめたアイツの手を振り解いて私は立ち止まった。

「どうしてうちの学校になんか来てるわけ?私は話なんてないから、これで帰る」

「なんだよ、冷たいな。ちょっと心配してるのによ。この頃アイツと一緒にいないようだからさ」

「あなたには関係ないでしょ」

「いや、おまえらに絡んだのもなんかの縁だろうからさ。あっ、もしかしておまえ、振られたとか…」

私は黙って下を向いた。だって涙が出てきてムカついてきたから。

なんでこんな奴にそんなこと言われなきゃいけないのよ!

「そうよ、あなたが言うように別れたわ。これで満足した?」

私はそう言って走った。

もうほっといてよ!

河原まで走って土手に腰をかけた。

秋の少し冷たい風が顔にあたって気持ちいい。

ここに来るのも久し振りだなあ。

思い出がありすぎて来るのが辛かったから。

やだな、また涙が出てきちゃった。

ほんと、泣き虫になっちゃった、私。

もう泣かないって決めたのに、やっぱり泣いちゃうよ。

ドサッ!

膝を抱えて泣いてる私の横に誰かが座った。

顔を上げるとアイツがいた。

「悪かったよ、ごめん。おまえを泣かせるつもりは無かったんだ」

アイツが心配して言ってるのは本当みたい…雰囲気からわかった。

「俺、そうって言うんだ。草冠に倉って書くほう。俺な、おまえのこと前から知ってた。っていうか見たことあったって言うか。たまにここに独りで座ってるとこ、見たことあるんだよ。危ないなーって思ってさ。俺みたいに良識のある不良ばっかりじゃないからさ」

私は蒼が言った、良識のある不良っていうのに思わず笑ってしまった。

「なんだよ、笑うなよな。マジな話してるんだからさ」

私は頷いて蒼の話を聞いた。

「だから、おまえがここに独りで座ってて危ないなーって思ってたらそこにアイツが現れて、おまえいつもアイツとここにいるようになってさ。まあ、そういう仲なのかと思ったらおまえさあ、朝はアイツの兄ちゃんといつも一緒で。まあ、ずいぶんよろしくやってんじゃんって思ってたんだ。だから街でおまえがアイツといる所を見てさ、ちょっとからかってやろうと思ったんだ。でもアイツのパンチを受けたときマジになっちゃって。でもあの時さ、俺をぶっ飛ばしておまえ言ったよな。アイツを傷つける奴は私が許さないって。俺さ、あのおまえの姿に惚れたんだ。でもおまえらの間に入るのは無理だと思ったから諦めたんだけど」

蒼の話を聞きながら思った。

私もジャックとずっと一緒にいられるって、別れることになるなんてこれっぽちも思ってみなかった。

蒼が心配そうに私を見つめる。

「私ね、カナダまで行って振られて帰って来たの。バカだよね…」

私は向こうであったことを蒼に話した。

蒼は黙って私が話し終えるまで聞いていた。

「よくわからないけど、俺は誰かの代わりに人を好きになったりしないよ」

そう言って立ち上がった。

「えり、送るよ」

私の名前!どうして知ってるんだろう!

私が不思議そうな顔をしたので蒼が説明するように言った。

「えり達に絡んだ時にアイツ…ジャックが叫んだよな。おまえの名前。その時に知ったんだよ」

そうだったんだ。私の名前、覚えてたんだ。

「えり、えりってひらがな?それとも漢字?」

「ひらがなだよ。簡単でしょ。蒼っていい漢字だよね。青いって意味でしょ。うちのお兄ちゃんは凌駕の凌で、弟は飛翔の翔でかける。1文字で蒼と同じだよ」

ふーんと蒼が頷く。

歩きながらそんな話をしていたら家に着いた。

別れ際に今まで見せたことの無い真面目な顔をして蒼が言った。

「辛いことを話させてしまって悪かった。ごめんな。もしよかったら朝会おう。俺は毎日新聞配ってるから」

 

次の朝、蒼の言葉が頭に浮かんだ。

"朝、会おう"

でも私は臆病になっていた。蒼とはいい友達になれそう。

でもそれだけ?

また悲しい思いをすることになるんじゃないかって。

それだったらなにも始めないほうがいいのかも。

そしたら悲しい思い…することない。

私は散歩に行かなかった。

次の日も、その次の日も。

そしてその次の日の朝…

ピンボーン!玄関のベルがなった。

ドアを開けると蒼が新聞を持って立っていた。

「特別サービスの新聞配達です!ど~ぞ。でもこれはおまえのうちだけだからお隣さんには言わないように。俺が怒られちゃうからね」

蒼はそれだけ言って帰ろうとした。

「待って、ありがとう。でも明日は持って来なくていいからね」

「いいよ、特別サービスだからさ。それにおまえの顔も見たいし…」

ちょっと照れて蒼が横を向く。

「そうじゃなくて、ちゃんと散歩に行くからどこかで待ってて、じゃあ明日」

そう言って私はドアを閉めた。

その閉めたドアの向こう側で蒼の声が聞こえた。

「やったー!」