Love story Chapter four-3

Chapter four -3

  

どんなに辛いことがあっても時間は流れていく…

そしてまたこの季節がやってきた。

去年の今頃はこんな風になってるなんて思いもしなかった。

お兄ちゃんやジェイムズがまだ学校にいて、毎日が楽しくて、楽しくて。

幸せな思い出ばっかりだった。

みんなで行った修学旅行、最高だった体育祭。

どれを思い出しても勝手に頬がゆるんでくる。

でもその後に、もうあの日は戻って来ないっていうことに涙が出てしまう。

わかってる、後ろを振り返ってばっかりいられないって。

ちゃんと前を向いてがんばらなくちゃって。

でもやっぱり思い出しちゃう。あの楽しかった日々を。

ジャック…私が初めて好きになった人。

そして初めて心も体もひとつになった人。

大好きだった。

ジャック…

祐美は私とジャックにケミストリーを感じたって言ってたけど、ハズレちゃったよ。

私達は赤い糸では結ばれてなかったみたい。

ちょっと糸が絡まっていたみたいで、それをほどいたら私の糸の先にはなにも無かった……そう思ってた。

でも蒼と出会って、もしかしたら私の赤い糸は誰かと繋がっているかも知れないって思えるようになった。

また人を好きになれるかもしないって。

 

久し振りに佐々木先生の所に来ている…ジャックと別れてから生理が来なくなってしまったから。

「先生、生理来なくなっちゃった…」

先生はそう言った私の顔をじっと見て言った。

「ジャック君となにかあったの?」

「……」

私は言葉に詰まってしまった。

「顔見たらわかる、なにかあったって。話せる?」

先生の顔を見ていたら涙が流れてきた。

もう泣かないって決めたのに、もうジャックのことなんかなんとも無いって…

「えりちゃん、よかったら待合室で待っててくれる?あとそんなに患者さんいないようだから、終わったら話聞かせて欲しいの」

私は黙って頷いた。

最後の患者さんと受付のお姉さんが帰って、先生と私は紅茶を飲んでいる。

私はなんて言い出したらいいのかわからなくて黙っていた。

先生は私が言葉を見つけるまでずっと待っててくれる。

「先生…私…ジャックと別れちゃいました」

そういうのが精一杯で私は泣かないように唇を噛みしめた。

先生はそんな私を抱きしめて言った。

「辛かったのね、泣いたっていいのよ。えりちゃん…」

「せんせー、私…」

 

目が腫れて重い。泣きすぎたかも。

「大丈夫?落ち着いたかな?」

先生は優しい目をして私の顔を覗き込む。

「すみませんでした。でも大丈夫です」

私は先生にジャックとエミリーのことを話した。

先生は黙りこんでなにかを考えてるようだった。

「えりちゃんに話したほうがいいかもしれない…」

先生は思い切った様に話し始めた。

「私ね、ジャック君と初めて会った時に思い出したことがあったの。私がまだインターンだった頃のこと。ジャック君ってその頃私が付き合ってた人と同じ目をしてた…私、ジャック君がカナダに行く前に何回か会って話しをしたの。1回目は偶然コンビ二で会って、それじゃってことで。ジャック君もなにか私に聞きたいことがあったみたい…でもなかなか言い出せなかったみたいで私から彼に聞いたの。前の彼女となにかあったんじゃないかって。そしたらすごく驚いた顔をして…どうしてわかるって聞かれた。だって私の前の彼氏とジャック君が同じ目をしてたから…そうかなって思った。私ね、不倫してたの。インターンをしてた時の上司と。若気の至りってのかな、子供ができちゃったの。私、子供産むなんて考えられなかったし、相手にもその選択肢は無かった。だから…全てが終わって病室に戻った時、独りで泣いたわ。もちろん相手は一度も病室に来てくれなかった。仕事に復帰してなにも無かったように相手は私に接してたけど、でも彼の瞳が…私を見る彼の瞳の中に私を哀れむような、悲しいものが…きっと罪悪感かな。ジャック君は私の話を黙って聞いていたわ。涙が彼の瞳から流れたのを見て無理をして言わなくていいから、ただえりちゃんを大事にしてねって。そう言ってその時はなにも聞かずにジャック君と別れたわ。そしてそれから少し経ってまた偶然ジャック君と会ったの。でもその時の彼は違っていた。なにかが彼の中で変わったみたいだったわ。どうしたのって言ったら、ジャック君話してくれた、エミリーさんのこと。ジャック君が言ったわ。えりちゃんにちゃんと全てを話すべきなのはわかってる。でもえりちゃんに拒絶されるのが恐いって。えりちゃんに会って、自分も、もう一度人を好きになれるかも知れないって。そういう気持ちにさせてくれたのがえりちゃんだったって。なんかね、男の子達に絡まれたことがあったんでしょ。その時えりちゃん、一人の子を突き飛ばしたんだって!?ジャック君、えりちゃんが俺を守ってくれたって。ジャックを傷つける奴は許さないって仁王立ちになって男の子達に怒鳴ったって。すごく感激したみたいよ、ジャック君。今までずっと守ることが男の子だって考えてたって。エミリーさんのことも独りで抱えてがんばってきたんだよね、ジャック君…でもエリちゃんの姿を見てえりちゃんに甘えてもいいんだ…独りじゃないんだって思ったって。ジャック君、本当にえりちゃんのこと…だから、カナダに行ってエミリーさんとのことにケジメをつけて日本に帰って来たらえりちゃんに全てを話すって言ってた…ジャック君。だからエリちゃんには自分から話すまでなにも言わないでくれって」

先生は心配そうに私の顔を見る。

「先生、話してくださってありがとうございました。なんか少しジャックを理解できたような気がします。去年の楽しかったことを思い出してしまって泣いちゃったけど、もう大丈夫です。ジャックとのことは辛い思い出になっちゃったけど、楽しいこともいっぱいありました。だからそれを胸に大事にしまって前を向いてがんばります」

先生は私の手をきつく握って黙って頷いた。

 

そして…少ししてからまた生理が来るようになった…