Love story Chapter four-4
Chapter four -4
「えり、もうすぐ誕生日だよな。どうするんだ?まあ、用事が無かったらデートでもしようか」
蒼に言われて自分の誕生日がもうすぐなのに気付いた。
「すごく忙しいかなあ、その日は。うーん、でも蒼だったら無理して都合つけようかな」
「わかった、わかった。見栄張らなくてもいいからさ」
もう、そんなに経つんだなあ…蒼と出会ってこうして毎朝新聞配達の手伝いをするようになって。
そして少しずつだけど私の心の中に蒼が…
「なあ、俺に任せろよ。特別な誕生日にするからさ」
「わかった、蒼にお願いするね。楽しみしてるから。ありがとう」
蒼、どこに行くつもりなのかなあ。1人でニヤニヤしてる。
ちょっと心配かも…
「あっ、そうだ。今日空いてるか?一緒に俺んちの本屋に行こうかと思って…」
蒼がほとんどお願いの目をして私の返事を待ってる。
もうこの目に弱いんだよなー、でも私も行ってみたかったし…
「うん、大丈夫。すごく楽しみにしてたよ。前に蒼が話してくれた時から」
「それじゃあ、放課後、えりの学校まで迎えに行くよ」
「学校でまた喧嘩なんかされたら嫌だから学校の近くにあるコンビニで待ってて…ねっ」
「なんだよー、もう…」
蒼は不満そうに口を尖らせてる。
「蒼…かわいい!」
私は蒼の頬を指でつついた。
放課後、待ち合わせのコンビニに急いだ。
蒼は私の姿を見つけてお店の中から手を振った。
「蒼、ごめんね!待たせちゃった」
お店の中から出てきた蒼は手にコンビニの袋を提げていた。
「大丈夫、俺も今来たところだからさっ。じゃあ行こうか」
今来たばっかりって言ったけど、コンビニの袋にはいろいろ入ってる。
待ってる時間で買い物してたんだ。
それでも待ってないって言うところが蒼なんだよなぁ。
私達は駅前にある蒼っちの本屋さんまで歩いた。
「おっ、親父。お疲れ!」
蒼がレジにいたお父さんに向かって言った。
「蒼、今日は手伝いに来たって感じじゃないな」
そう言ってお父さんは私を見た。
蒼のお父さんだ。ちょっと緊張する。
「あっ、と・と…友達のえり…さん。本が好きだって言うんで…」
蒼、耳まで赤くなってるよー。
「こんにちは、えりです。お邪魔します。今日は蒼君にお勧めの本を教えてもらいに来ました」
お父さんは優しく微笑んで言った。
「ゆっくりしてってね」
お父さんに挨拶をし終えて蒼はホッとしたようで、私の手を掴んで奥のほうへ引っ張って行った。
蒼はいろいろなジャンルの本を私に見せてくれた。
どれもすぐに読んでみたくなるようなものばかりでやっぱり本屋さんの子は見る目があるなぁ。
「蒼が子供の頃に読んでた本ってまだある?古くなっちゃってお店には置いてないのかなあ」
「うん、もう無い。でも俺の頭の中にちゃんと残ってる。1番好きだったのは特に」
「蒼が1番好きだった本ってどんなお話だったの?」
「それは1人の男の子が一本の道をただ真っ直ぐ歩いて行く話なんだ」
なんか意味深の内容っぽそう。
「その子が歩き始めた時はまだ小さな子供なんだよ。歩いてる道は細くて、でもちゃんと舗装してて問題無くどんどん先に進めるんだ。でもだんだん男の子が成長していくにしたがって道がガタボコしてきたり、小さな穴が開いてたりするんだ。それでもその子は歩き続ける。そして目の前に壁が出てきて道が塞がれてる。でもその壁は低いからなんとか乗り越えるんだ。そしてまた成長して道は広くなったけどボコボコが酷くなった。それに今度はちょっと高めの壁が道を塞いでたりして、その子はどうしようって考えるんだ。そして無理をしてよじ登って怪我をしながらも向こう側へ超えて行く。歩いていく度に壁になんども当たるんだ。もう超えられないくらいの高さの壁になってどうしようかと考えるんだ。触ってみると柔らかそうなので思いっきりぶち当たって突き抜けていく。そうやって次の壁もその次の壁も正面からぶち当たって突き抜けて行った。でも次の壁はちょっと前の壁より硬くてその子は大怪我をしてしまうんだ。それでも突き抜けて道の真ん中で倒れてしまう。倒れている時に声を聞くんだ。誰かがその子に話しかけてるんだけど見えないんだ。ただ声がするだけで。"時には真っ直ぐ当たるだけじゃなくて横を向いて見るのも必要だよ"って。その子はただ前だけを見て道を進んでた。いつも障害物には真正面からぶち当たってた。その声は続けて言った。"超えられない高さだったら他に迂回することはできないか、なにか道具を使えないか、考えることも必要だ。そうやって体当たりしてたら、次に硬い硬い壁が出てきたら自分が壊れちゃうよ"って。またその子は歩き出した。でもやっぱりその子は体当たりしかできなかった。そしてとうとう硬い、硬い壁に当たってその子は壊れてしまったんだ…」
蒼の目に薄っすらと涙が…
「ごめん、ごめん。なんか面白くなかったよな、この話」
私に背を向けて目をゴシゴシ擦ってる蒼。
私の中でなにか暖かいものが芽生えた。
「蒼…」
私は蒼の背中に顔を寄せてそっと蒼を抱きしめた。
「あっ、えり…」
蒼が焦って振り向こうとする。
「もう少しこうさせてて…」
頬から、そして蒼の胸にある私の両手から蒼の心臓の音が伝わってくる。
心がほっとする。やっぱり人って独りじゃ生きられないのかもしれない。
蒼の温もりがこんなにうれしくて、離したくない。
「えり…、俺のこと…」
蒼の声ではっとして体を離した。
「あっ、ごめん…私も感動しちゃって、思わず…」
私は誤魔化すように言ってお店の出口に向かって歩き出した。
「またおいでね、えりちゃん」
「はい。ありがとうございました」
レジで蒼のお父さんに挨拶をしてお店を出た。
黙って歩いてる蒼。なにか言ったほうがいいんだよね。
「ねえ、蒼。さっきのお話の男の子、蒼とちょっとイメージが重なる感じがするんだけど…なににでも真っ直ぐなところが」
蒼は急に立ち止まって私の手を掴んだ。
「えり、ちょっと付き合ってくれないか」
蒼に引っ張られながら商店街の細い道を歩く。
こんな道、蒼と一緒じゃなかったら絶対に迷って、表通りに出られないかも…
細い道を何度も曲がったそこに公園があった。
それは、真ん中に滑り台とベンチがあるだけのとっても小さな公園だった。
蒼はベンチに腰をかけて繋いだままの私の手をじっと見つめる。
私は蒼の隣に腰をかけた。
「俺、あの本の話をしたの、おまえが初めてなんだ。小さい頃はよくわからなかったけど、少し大きくなって思い出した時になんか俺自身のことが書いてあるみたいでさ。俺も真っ直ぐぶち当たるしかできないから…いつか壊れちゃうのかなって…」
私は蒼と繋がれたままの手に力を入れた。
「そんなことないよ。蒼は強いもん。それに賢いから」
「賢くなるって大人になるってことだよな。それってずるくなるってことなのかもしれない。それは俺は嫌だよ」
蒼は曇りの無い澄んだ瞳で私を見つめる。
「心配しないで。蒼は真っ直ぐ行けばいいよ。私が蒼が壊れちゃわないように手伝うから。なんだったら肩車でもして一緒に壁を越えればいいじゃん。それってずるしてることにならないと思う」
ふーっと息を吐いて空を見上げる蒼。
「そういうのもありってことか…」
ずっと繋がれたままの私達の手…離さなきゃと思ってもできない。
蒼の手の温もりが私の心にしみてくる…
甘えちゃ駄目だよ。蒼は優しすぎるから…
ふと見るとコンビニの袋。
無意識のうちに蒼が持ってきたのかな。
「ねえ、蒼。そのコンビニの袋の中になにが入ってるの?」
蒼は驚いて繋いでいた手を離した。
そしてもう片方の腕の手首にぶら下がってるコンビニの袋を見た。
「これ、えりと一緒に食べようと思って…」
袋を開けて中からスナック菓子や飲み物を取り出す蒼。
「うれしー、お腹空いてたんだ。食べてもいい?」
蒼から飲み物とお菓子を受け取る。
「今日は連れて来てくれてありがとう。蒼の大好きだった本も教えてもらってうれしかった」
「俺さ、実は…物書きになりたいんだよ。あの本みたいなのが書けたらなって。ずっと人の心に残るような…」
蒼のなりたいものって物書きさんだったんだ。でも蒼だったら人の心に残る素敵にお話が書けると思う。
「蒼だったら大丈夫。がんばってね、応援してるから。有名になってもちゃんと友達でいてよね」
ちょっと淋しそうに蒼が微笑んで言った。
「ありがとう、えり。俺達、ずっと友達だから…」