Love story Chapter four-7

Chapter four -7

  

「おはようー!偉いよね、今日も新聞配達。起きれた?」

昨日2人でディズニーランドに行って遅くまで遊んできたから、ちょっと心配したんだけど。

「もちろんだよ。どんなに夜更かししてもちゃんと目が覚めるんだ」

「すごい。蒼はほんと、偉いよ」

「なんだよ、今日はやけに褒めるじゃないかよ」

「だってそう思うから。ねえ、蒼の誕生日っていつなの?蒼のもお祝いしないとね」

「聞いて驚くなよ。俺の誕生日はめでたい元旦さ。俺っぽいだろ」

「ホント。蒼っぽいね。新年早々お騒がせしますって感じで。じゃあ、元旦にお祝いしないとね」

「本当に祝ってくれるのか、えり。じゃあ、2人でどこに行こうか?!楽しみだよ。マジでうれし!」

蒼は本当にうれしそうに目を輝かせてる。

こういうところが蒼のいいところなんだよね。

小さな子供のようにうれしいことを素直に喜べる蒼が私は好き。

「あっ、そうだ、これ」

蒼は私の手を掴んで手のひらになにかを乗せた。

「えっ、これって」

「俺の制服の第2ボタン。競争率高いんだぜ。だからえりに渡しておく」

「ホントにあるんだ…第2ボタンもらうの…聞いたことはあったけど見たことなかったよ~。それにしてもまだ早くない?卒業式にもらうんじゃなかった?これって」

「まあ、いいから持ってろよ。お守りにもなるぞ」

お守りになる?なんだかわからないけど受け取っておこう。蒼の気持ちだもんね。

「ありがとう。でもどうして?」

「昨日、渡しそびれた。誕生日のプレゼントだよ」

そして蒼は向こうを見ながら言った。

「俺はお前…、えりのものだ…」

……

昨日、いつまでも待ってるって言った蒼。

私がまだジャックのこと、忘れられないの知ってて第2ボタンをくれた。

蒼だったら本当にずっと私を待っててくれるかもしれない。

私はどうしたらいいの?本当にこのまま蒼を待たせていいの?

すごくひどいことを蒼にしてるようで自分が嫌になる。

……

「えり…俺はいいんだ」

蒼が俯きながら言った。

「お前がアイツのこと、まだ忘れられないのわかってるからさ。でもいつかは俺の所に来てくれるかなってちょっと期待してるんだ」

ストレートに蒼の気持ちが伝わってくる。

「それまでお前の側にいさせてくれないか…」

蒼…、こんな私でいいの?

「蒼…そばにいてくれてありがとう…元気くれてありがとう」

 

朝の新聞配達の後に蒼が言った。

「なあ、えり。今日、学校の後、会えないか?」

今日は補修があって時間が取れそうに無かった。

「明日はどうかな?今日は補修があるの」

「明日でもいいよ。えりに合わせる。じゃあ、放課後、学校に迎えに行くよ。あっ、コンビニのほうがいいんだったよな…」

「コンビニじゃなくて、学校に迎えに来てくれる?」

蒼はちょっと驚いた表情を浮かべたけど、すぐに顔をくしゃくしゃにして笑って言った。

「わかった、学校に迎えに行くよ!」

「うん、でも喧嘩しないでね。ちゃんと大人しく待っててね」

私達は明日会う約束をして別れた。

 

放課後の補修が終わって私は家に帰る途中だった。

なぜかわからないけど、むしょうに河川公園に寄って行きたくなった。

河原を歩いていると人だかりが出来ていた。

なにがあったんだろう…

大声で救急車呼んだのかと誰かが叫んだ。

「高校生が刺されたんだって。恐いねー」

そんな声が聞こえた。

人だかりの近くに寄ると男の子が倒れていた。

蒼の学校の制服…

「なんか、絡まれてた女の子を助けようとしたんだって。可哀想だよね」

まさか…蒼じゃぁ…

私は周りの人達をかきわけて倒れている男の子に近づいた。

「蒼?」

恐くて声をかけるのが精一杯だった。

「うーん」

そう唸って男の子が顔をこちらに向けた。

「え・り?あれ、約束…今日じゃ…なかったよね…」

蒼は私を見て弱弱しく微笑んだ。

「蒼…どうして…」

目の前で起きていることが理解できなくて頭がくらくらしてきた。

でも確かにこれは現実…

怪我をして倒れているのは間違いなく蒼…

なんとかしなくちゃ、蒼を助けなくちゃ。

私は蒼の体を起こそうとして気付いた。

蒼のシャツが血で真っ赤に染まっているのに。

「すごい出血してるよぉ。なにかで押さえないと」

私はハンカチで傷を押さえた。

「救急車まだですか?すごく出血してるんです!」

私は周りの人に叫んだ。

「え…り…、俺…明日…これを…渡そうと…思って…たんだ」

蒼はポケットに持っていたお守りを私の手に乗せた。

それは合格祈願のお守りだった。

「一緒の…大学…に行ければ…俺にも…まだ…チャンス…あるかもって」

蒼…こんなに私のこと、思ってくれてた。

「悲し…そうな…顔…するなよ、俺は…えりの…笑顔…好きなんだ…」

私は泣きそうになるのを必死にこらえて笑おうとしたけど、無理。

「なんか…寒いなぁ…まあ…11月…だから…寒い…のは…当たり前…だけどな」

私は膝の上に蒼の頭を乗せて抱きかかえた。

私の頬に触れている冷たい蒼の頬…出血のせい…体も冷たくて…

わたしは上着を脱いで蒼の体を包んで言った。

「まだですか!救急車!」

遠くからサイレンの音が近づいてくる。

「蒼、もうすぐだよ。がんばって」

ほとんど意識の無い蒼を抱きしめた。

「え…り…の…笑顔…み…た…い…よ…」

呟くように言った蒼。

「蒼、私はここにいるよ。見て!私を見て!」

私は泣きながら微笑んだ。

微かに目を開けた蒼の口元がありがとうって言ったように見えて、蒼がまぶたをゆっくり閉じた…

そして…蒼の瞳は2度と私を見つめることはなかった…

その後はよく覚えてない…

救急隊の人が私から蒼を離そうとした時…救急車に乗せられて病院に連れて行かれた時…

目の前でいろんなことが起こっててもまるで映画でも見てるような感覚で私はただ立ち尽くしていた。

警察の人に蒼のことを聞かれてる時にお母さんとお兄ちゃんが病院に来た。

「えり、大丈夫か。怪我はしてないんだな」

お兄ちゃんが蒼白な顔をして言った。

「お兄ちゃん、蒼が…蒼が目を開けてくれないの…こんなにいっぱい血が…蒼の胸から流れてた…私にお守りくれたの…一緒に大学に行こうって…そして、そして…私の笑顔が好きだって…蒼!」

……私の中でなにかが粉々に崩れていく音が聞こえたような気がした…

そして…全てが暗闇に包まれていった…