Love story Afterwards-1(James)

 Afterwards -1 (James)

 

久し振りに逢ったエリはジャックの葬式の時よりまた痩せてしまっていた。

大丈夫なんだろうか…

「私は大丈夫…」

俺の気持ちを察したのかエリが言う。

「ちょっと痩せたんじゃないかい?」

「うん。でも病気とかじゃなくて…」

なにか言おうとして口ごもるエリ…

俺は彼女の言葉を待った。

大きく息を吸って思い切ったようにエリが話し始めた。

「私、ジャックが逝ってしまってからずっと独りぼっちになってしまったと思ってたの。でも違った…ジャックは私にとても素晴らしいことを残していってくれた…」  

そう言って俺の顔を真っ直ぐ見つめるエリの顔は女神のように美しかった。

そしてエリは言った…

「私のお腹にはジャックの赤ちゃんがいるの」

一瞬、ガツンと殴られたかのように頭の中が真っ白になった。

「ジャックの子が…」

そう言うのが精一杯だった。

エリがジャックの子を身ごもっている。

そして彼女は産む気だ。

エリは俺の心を見通したかのように悲しい表情になる。

「私の両親にも言われたわ。なにを考えてるんだって。でも私の中にジャックが生きている。この子が私とジャックが出会って愛し合って一生懸命生きた証なの。私には産まないなんて考えれられない。2人が愛し合った記憶の中でしかジャックを求めることができなかったの。私はとても耐えられなかった。けど…今、お腹にジャックの命が、生きた証が宿ってる。そう思うと明日を生きる希望が感じられるの。だからジェイムズやジェイムズの家族にもわかって欲しくて…結婚はもちろん法律上認められないの、わかってる。でも私はジャックのお嫁さんになりたかった。この指輪をジャックが私の指にはめてくれたらどんなにうれしかったか」

そう言ってエリは左手の薬指に輝くダイヤモンドのエンゲージリングを見つめる。

この指輪は俺とジャックが男二人で苦労して選んだものだった。

懐かしいジャックとの思い出が蘇る…

 

 

心を閉ざしてしまったエリを救えるのはジャックしかいないとリョウから聞かされた時、俺の心臓は止まってしまったようだった。                  

俺にはなにもできない…無力な自分に憤りを覚えた。

君を救えるのはジャックで俺じゃない…

エリ…、君の心には俺の入る隙間は無かったんだね…

溢れ出る涙を堪えてジャックの携帯の番号を押す…

しっかりしなければ…

連絡を取ったジャックにはエリの状態は知らせなかった。

ジャックが知ったらなにをするかわからなかったから…

会った時、直に話そうと思った。

 

ジャックが日本に旅立つ前に頼みがあると言ってきた。

指輪を選びたいと…

エリが自分を許してくれたら結婚を申しこみたいと言った。

エリをカナダに呼んで自分の生まれ育った街でプロポーズしたいと。

どうしよう…俺は言えなかった、本当のことが。

だから…リョウがオマエに話があるからって誤魔化したんだ。

それでオマエはエリが会ってくれると思ってしまったんだよな。

エリはオマエに会いたいって言ってるんじゃないんだよ…

そうだったらどんなによかったか…

 

俺達は恥ずかしい気持ちをこらえて、街のジュエリーショップに入った。

女性の店員は俺達の様子からすぐエンゲージリングを探しているのだと気付いた。

「どのようなものをお探しですか」

「うーん」

ジャックが言葉に詰まる。

「じゃあ、彼女はどんなタイプかしら?例えば石がいっぱいついていて華やかな感じがいいのか、それとも…」

店員が言い終わる前にジャックが言った。

「彼女はシンプルで量より質を好む感じかな…まるで彼女を象徴するような」

ではこれはどうでしょうと店員が見せてくれたのは、綺麗にカットされた1個の石がついたシンプルなものだった。

「このダイヤモンドはそんなに大きくはないけど、カットは綺麗だし、石全体のグレードが他のものとはぜんぜん違うのよ。華やかではないけど、この石の凛とした気高さが、彼女のイメージと合うと思う」

俺は店の端にジャックを連れて行って言った。

「ジャック、エリがなんて言うかまだわからないのに順番が逆じゃないのか?」

「あぁ、それはわかってる。でも、今見ておきたいんだ」

ジャックはそう言うとショーケースの前に戻って指輪を見つめた。

今思えばむしの知らせだったのか、まるでジャックは自分の運命を知っていたかのように "今、見ておきたいんだ。今じゃなきゃ駄目なような気がするんだ" そう繰り返して俺に訴えた。

「駄目って思って彼女に会いに行っても良い返事は聞けないわよ。指輪も用意して絶対彼女からOKもらうっていうぐらいの意気込みで行かなきゃ。本当だったらそういう理由でのお取り置きはしないけど、今回は特別に2週間だけ奥にしまっておいてあげるからがんばってね」 

店員はそう言ってウインクした。                        

そしてジャックは満足したようにエリのために選んだ指輪を長い間見つめていた…

そんなジャックの姿を見ていて俺の心は激しく痛んだ。

早く言わなければ…、真実を伝えなければ…

そう思いながら空港まできてしまった。

そしてジャックと別れる時、やっとエリのことを話すことができた。

本当のことを聞いて言葉を失ったままゲートに消えて行くジャック…

その後姿を黙って見送った。

 「リョウ、ジャックが今飛行機に乗った。明日には成田に着くはず。リョウ…、よろしく頼む。なにかあったら連絡してくれ…」 

ジャックが乗る成田行きの飛行機が飛んでいく…

ジャック…、エリを頼む…

俺はここで祈ることしかできないから… 

 

 

そして…事故の後、いろいろなことがあってこの指輪のことを思い出したのは、葬式でエリと話をした時だった。