Love story Afterwards -7 (Jack)

Afterwards -7 (Jack)

  

ファイル名   ERI

8月、東京のホテル…俺はなんでこんな所にいるんだ。

逃げた訳じゃない…俺は逃げたんじゃない…

 

これから住む家か…聞いてたけどほんと狭い…隣の家の窓がすぐそこだ。

そう言えば隣の子…エリィって言ったか…

ふと見た窓の向うに、こっちを見ているエリィがいた。

不意だったからびっくりした。

すぐ隣の部屋がエリィの部屋…

アイツ、挨拶してくれた…なのに俺は…

 

やっぱりここに来ても眠れない…

毎日、朝日が昇るのを溜息をついて見つめるたけだ。

そんな中、エリィが散歩に行くのが見えた。

その後にジェイムズが家を出て行ったのも。

そして2人で話しながら帰って来た。

なんだよ…このモヤモヤした気持ちは。

わかんないけど、腹が立つ。

学校に行く前に門の所でエリィと顔を合わせてもジェイムズのことがあって、それに自分の気持ちにも腹が立ってたのでエリィに八つ当たりしてしまった。

同じクラスになって、席も隣り…一日中エリィのことが気になった。

悪かったと思ったんだ…なぜならエリィが一日中泣きそうな顔をしてたから…

 

リョウとジェイムズが話してるのを聞いた。

エリィが学校を休むって。

熱が出たって…俺のせいだった。

学校の近くまで行ったけど、どうしても気になったから戻った。

家の傍まで来るとパジャマ姿のエリィが庭の木の横に立ってるのが見えた。

かわいい…そう思ってしまった自分に腹が立って、また酷いことを言ってしまった。

完璧に嫌われたようだ…エリィに。

謝りたかっただけなのに…素直になれない。

 

勇気を出して言ったんだ…エリィに。

言い過ぎたって…でも、その後のごめんを言えなかった。

だけど…オマエはわかってくれたようだった。

昨日、謝りたくて学校から戻ったことを。

エリィ…素直になれなくてごめんな。

  

適当に気持ちを書き殴っていただけだったのに…なんか日記化してる。

日記なんかって思ったけど…こうして自分の気持ちを書き出していると少し心が穏やかになれる。

やり場の無い気持ちをここに置いておくことができるから。

 

なんだよ!朝のジョギングの次はスピーチの練習か。

なんで俺じゃなくてジェイムズなんだよ、俺だって…それくらい手伝える。

家の前でジェイムズの肩なんかマッサージしやがって。

嬉しそうにしてるジェイムズやエリィの姿を見ていて息が苦しくなった。

どうしようも無い気持ちでいっぱいだった。

エリィ…

 学校の帰りにやっとエリィに伝わった。

マッサージのこと…バカバカしいってわかってたよ。

だけど…エリィに触れられてるのがすごく気持ち良くて、ずっとこのままでいたい…なんて思ってた。

そんな時…不意にエリィの指先が俺の肩甲骨の隙間に滑り込んだから、ビクッと体が反応してもう少しで声が出そうだった。

なに考えてんだよ…俺は…せっかくエリィがマッサージしてくれてたのに。

でも…ほんと、エリィ上手だった。あの小さな手のどこに、あんなに力があるのか。

それとも俺への憎しみでも込めてたのか…そうだったらちょっと恐いかもな…うーん…

 

月が綺麗な夜だった。

ベランダに出て眺めていたら涙が出てきてしまった。

泣いてなんかない…俺なんか泣く資格も無い。

でも…どうしてこんなことになってしまったのか…

エミリーのこと、それに自分の出生のこと…

俺が生まれてきたことが全ての間違いの元だった。

俺はなんのために生まれてきたんだよ。

なんのためにここに…日本にいるんだよ…

もう…全てがどうでもいいって思えてくる…

今更何だって言うんだよ…産みの親が今になって俺に会いたいだとさ。

俺が会いに行った時…冷たく玄関のドアを閉めたあの日のことを俺は忘れてはいないんだ。

笑わせてくれるぜ…

…隣で音がした。

見るとエリィが驚いたような顔をして立っていた。

そしてなにも言わず部屋に入って行ってしまった。

アイツは俺が泣いてたことに気付いてしまったか…

 

ファーストキスだったなんて…俺はどこまでバカなんだよ。

エリィを俺の公園に連れて行った。

ここは前に住んでいた町にある公園にどこか雰囲気が似ていた。

だからなんかあった時はいつもここに来ていた。

エリィが話があるって言うから…

あの夜のことだった。

俺は泣いていたことを知られたくなかった…

だからそれを隠そうとして、またエリィに酷いことをしてしまった。

泣きながら走って行ってしまったエリィに、どうして追いかけて行って謝らなかったんだ。

 

学校に行く前に家の前でばったり会った。

エリィは汚い物かのように俺を見た。

そうだよ…俺にはそのほうがあってる。

エリィに好かれようなんて…

学校でまた俺はエリィを傷つけた。

放課後、エリィは走って教室を出て行った。

俺はエリィをほっとけなかった…自分でやったことなのに…追いかけて行って謝ろうと思った。

でも…ジェイムズが出てきてエリィを連れて行ってしまった。

ジェイムズにすがって泣くエリィの姿を校舎の陰から見てた時、俺の胸の中に抑えきれないものが生まれた。

それは俺が1番望んではいけないこと…人を好きになること…

エリィがジェイムズと別れて河原を歩いていた。

ふと土手に座り込んだエリィは悲しい目をしてじっと川の流れを見つめていた。

エリィがなにをしたってんだ。

俺を見て心配してくれただけじゃないか…それを俺は…

素直に謝れず、またバカなことをしてしまった。

泣きながらエリィは言った…

ファーストキスだったって。

そんな…。

でも…奪ってしまったものはもう返せない…

こんな俺とのキスがこんなカタチでエリィのファーストキスになってしまったことを許して欲しい…

心を込めてエリィにキスをした。

もう2度とエリィを傷つけたりしないから…

"ファーストキスの責任、取ってもらうから。覚悟しててよ"…か。

エリィからのメッセージを小さくたたんで引き出しにしまった。

 

気付いたんだ。

この日記?の中にアイツの名前が溢れてることに。

出てこない日なんてないよ。

俺は…アイツのことが…

でも…俺だけじゃないんだ。

…なんか感じる…ジェイムズもアイツのことを…

修学旅行の準備のためにエリィが家に来て母さんに説明してくれた時…

自分の部屋にエリィを連れて行ったジェイムズ。

2人でなにを話していたのか。

エリィがジェイムズの部屋に行ってしまう前に俺の部屋で2人きりになれた。

心臓の音がエリィに聞こえてしまうんじゃないかって思うくらい、俺は緊張していたんだ。

エリィもちょっと居辛そうにベランダに出て行った。

きっとあの夜のことを思ってたんだろうな…手を繋いできた。

エリィの優しさを感じて涙が出そうになったよ。

エリィは初めから純粋に俺を心配してくれていた。

それなのにエリィにあんな酷いことをしてしまった。

こんなに捻くれてしまった俺の心…人の真心もわからないほどに。

母さんは気付いてる…エリィに対する俺の気持ちに。

エリィを部屋に案内するように言ったのも、帰りに送って行くように言ったのも…俺を思ってのことなんだろう…

でも…母さん…俺はエリィを好きになってはいけないんだよ。

そう思ったらエリィの顔を見れなかった。

家まで送って行ってもなにも言えず、黙って帰って来た。

エリィ…ごめんよ。

こんな俺なんて…好きになんかなってくれないよな。

ジェイムズのほうがエリィに合ってる…

ジェイムズのほうが…

 

思ったより楽しかった修学旅行。

エリィが一緒だったから。

同じ班になりたくて母さんをダシに使ったよ。

旅行中いつもエリィを追いかけていた。

でもなかなか2人きりにはなれなかった。

やっとエリィと顔を合わせてもクラスの女の子がいて、まともに話もできなかった。

縁結びとかいうお守りなんか買ってたエリィ。

素敵な人に巡り会えるようにって…言ってた。

俺じゃ…駄目なのか。

小さなお寺の境内でエリィが言ったこと。

今を生きてるか…。

俺と思い出を分かち合えたらうれしいって。

日本に来て少しずつエリィとの思い出が増えていく…。

いつか笑って思い出すことがあるのだろうか…。

あの日、俺の中ではっきりした俺はエリィが好きだ。

雨の中、濡れた俺の肌とオマエの肌が触れ合ったあの時…

もう…この気持ちを偽ることはできない…。

どんなに心の中からエリィのことを追い出そうとしても無理だよ。

溢れそうなこの想いを消し去ることなんてできないんだ。

でも…エミリーのことがあって、この気持ちをエリィに伝えることなんて…できない。

俺は一生をかけてでもエミリーに償っていかなきゃいけないことをしてしまったんだから…。

エミリーに人形を選んでいた。

俺が彼女にできることなんて…、こうしてプレゼントを贈るくらいしかない…。

会ってももらえないのだから、受け取ってくれるかどうかなんてわからないけど…。

エミリーはかわいい物が好きだった…。

だからこれだったら受け取ってくれるかもしれない。

でも目に留まったのはエリィに似た日本人形だった。

俺はなにをやってんだ…エミリーとエリィ…。

縁結びの神様か…本当にそんなのがあるんだったら…俺は…

 

体育祭…だった。

エリィと距離を置いてるワケじゃないけど気まずい。

修学旅行の時に気付いた自分の気持ち…

旅行中、地元の高校生みたいな奴がエリィの体に触れた。

今でも思い出すと体中の血が噴出しそうになる。

俺のエリィ、誰にも触れさせるもんか、ジェイムズにだって…

でも…この俺の心の中をエリィに伝えるなんてできないよ。

だから…どうしたらいいのかわからなくて、エリィの顔が見れなかった。

借り物レースで俺とジェイムズの前で立ち尽くしたオマエ。

オマエは俺を…それともジェイムズを…

結局、俺はあの2人を超えられない。

リョウとジェイムズ。

なにをやってもあの二人には敵わないのか…

リョウがジェイムズに言ったのを聞いた。

オマエなら許す、えりのことって。

俺にはエリィを幸せに出来ないってことなのか…

リョウは俺から何かを感じ取っている。

そんな気がする…

  

アイツのバースデー。

同じ11月生まれのジェイムズと一緒にパーティーをした。

俺達が準備をしてる間、2人は映画を見に行っていた。

2人でなにをしてるんだろうって思うと心が荒れた。

出かける前にジェイムズが鏡の前で着て行く服を選んでた。

うれしそうにして…ジェイムズもエリィを…

俺なんかよりジェイムズのほうがエリィのためにはいいのかもしれない。

何度そう思ってもやっぱり自分のエリィへの気持ちを抑えきれないんだ。

パーティーでのスピーチ…エリィとジェイムズ…2人でケーキのキャンドルを吹き消す姿…

見ていて辛くて胸がつぶれそうだった。

プレゼントのネックレスをエリィにかけるため、首筋に触れたジェイムズの指にまで俺は嫉妬していた。

でも…俺には人を…エリィを好きになる資格なんて…

エミリーのことから逃げた俺には無い。

パーティーの後、エリィと2人きりになれた。

俺のバースデーはいつと聞いたエリィ。

俺のバースデーなんて全ての間違いの始まりだった…

俺なんか生まれてこなければよかったんだ…

でも…そうしたらエリィに逢うことは無かった。

折り紙で鶴を折ってみた…エリィを思って。

抑えきれない胸の想いをこの鶴に託して…

エリィはよくできてるって感心してたな。

本当にうれしそうにもらってくれた。

エリィオマエは俺がこの鶴に託したメッセージを受け取ってくれたかい…

Dear E    Love you   J

  

エリィ…声が出せなくなるくらいまで走って俺を探しに来た。

バカがつくくらい可愛いヤツ。

背中を摩る手からエリィの心臓の響きが伝わって、俺の胸の鼓動も速まった。

俺達…生きてるんだよな、エリィ。

同じ時間の中をオマエと一緒に。

冬休み…クリスマスかぁ…

もちろんカナダに帰ってのんびりしたいって気持ちもあるけど、エリィと離れるのは淋しい。

日本の正月か…

一緒にソバだったか…夜中に食べるのも悪くないか。

それにエリィの着物姿…綺麗だろうな…そんなエリィを抱きしめて…

今晩はエリィの夢を見そうだよ…今晩もかぁ…

毎晩エリィを想って眠る…

気持ちが落ち着いて安心して眠れるんだ。

エリィに逢うまでは眠れなくて、朝までそのままって日々だった。

エリィ…許してくれ…

俺がオマエを想って毎晩眠ることを…

それしか俺にはできないんだ。

夢の中でしか俺はオマエを愛せないんだから…

 

エリィに風邪をうつしてしまったようだ。

カナダから戻って来て不覚にも風邪で寝込んでしまった。

おせっかいなエリィ…のおかげで俺はよくなったけど、そのせいでエリィが熱を出した。

俺がオマエを抱きしめてキスをしたせいだよな。

抑えきれなかったよ、具合が悪くて心細かったエリィに逢いたくて…

そんな時、オマエは俺を看病してくれた。

うれしかったんだ。

やっぱりエリィの所に帰って来てよかった。

一生懸命に世話をしてくれて…その上、無防備なあんな可愛い寝顔なんか見せられて…

薬を飲んで少し寝て目が覚めたらエリィの顔がすぐ横にあった。

愛しくてエリィの髪に触れていたらオマエはうーんて声を漏らした。

あんな声を聞かされて俺は…具合でも悪くなかったらお前は無事じゃなかったぞ。

エリィのおかげで熱が下がった。

久し振りのシャワーを浴びて、エリィが取り替えてくれた新しいシーツの敷かれたベッドに寝転がった。

あー、気持ちよかった。

早くよくならなきゃって思う反面、このまま…もう少しだけ病人でいたい…

エリィと一緒に居られるから…今は俺だけのエリィなんだって…

全て風邪のせいにしてエリィを抱きしめてしまったよ。

エリィ…エリィ…オマエを離したくなかった。

薄いパジャマを通してエリィの胸の膨らみ、腰、太ももの感触が生々しく伝わってきた。

やばかった…オマエに気付かれてしまっただろうか。

俺が…俺がエリィに感じてしまったことを。

…エリィ…俺は甘えてしまった。

オマエは言ったよな、俺が手のかかる患者だって…

母さんに言いつけるって…

あの時、夢から現実に引き戻された気がしたんだ。

エリィを好きになる資格なんて無い俺がなにをしてるんだって…

エリィに甘えて…なにを期待してんだよー。

そう思ったらオマエの体にそれ以上触れていられなかった…

オマエは驚いたような顔をして言った。

なにかしたって…

俺なんだよ…悪いのは…全て…

エミリーに言われた通り、俺はしょうも無いヤツなんだよ…

会ってももらえないくらい、しょうも無いんだ。

バンクーバーに住んでるって人に聞いて会いに行ったんだ。

でも…手紙でこれ以上一切関わらないで欲しいって。

エミリーに…そうさっ…それで逃げ帰って来たんだよ。

こんな弱虫の俺がエリィを好きになることなんて…

 

エリィのお父さんに会った。

一見、人当たりはソフトだったけど、なかなか厳しそうな人だった。

どうしてリョウやエリィ、カケルがあんなにしっかりしてるかってわかったような気がした。

でも俺とは合わないタイプか…

どっちかって言ったら…ジェイムズとだったら話が合うんじゃないか…

やっぱり俺はエリィには向いてないのか。

心配して様子を見に行ったこともエリィは知らなかったみたいだ。

リョウは俺をエリィから遠ざけようとしてる。

でも仕方ないよな…こんな俺に大事な妹を預けようなんて思う兄貴なんかいないさ。

俺はエリィと2人きりになりたかった。

エリィは立ち上がって俺を送るって突然皆の前で言った。

父親になにか言われるかと思ったんだろうなぁ…

エリィの父親もなにか感じたんだろうか…俺のこと。

エリィに送られて家の前で俺はエリィにまた甘えてしまった。

俺がこんなこと言えるのってエリィしかいないんだ。

エリィ…俺にウソなんかつかないでくれ…

エリィはそんな弱い俺を甘えさせてくれる。

エリィのために強くならなきゃ…エリィを守れるように。

エリィ…エリィの柔らかい唇に包まれながら俺はそう思ったんだ。

  

綺麗だった…ほんとに。

エリィの着物姿。

本音が出てしまった…脱がせてみたいって。

エリィに怒られちゃたよ!自分は安っぽくないって。

そんなつもりは無かったんだよ、エリィ。

わかってもらえないと思うけど、好きな子があんなに綺麗だったら…

抱きしめたい…全てを自分のモノにしたいって…

男だったら絶対にそう思うって。

俺はナイトでもプリンスでも無い。

俺は俺のやり方でしかエリィを愛せないんだ。

エリィ…エリィの全てが欲しいんだ。

オマエは思い切ったように聞いた。

俺が予定より早く日本に戻って来たワケを。

泣きそうになってるエリィを胸に抱いていたら、ほんとのことが胸の中からこぼれそうになった。

俺だって…全てをエリィに話せたら。

そして好きだって伝えられたら。

どんなに幸せだろうか。

…でも…できないよ。

俺はオマエを失うのが恐いんだ。

だから…

エリィの着物姿…見たかったよ。

ほんとだよ、ウソじゃない…。

 

初夢か…

エリィは現実になるなんて言ってた。

ほんとかな…

そうだったらどんなにうれしいか。

俺の初夢…

朝、目が覚めると横にエリィがいた。

あの可愛い寝顔を俺に向けてすやすやと眠っている。

俺はそんなエリィを抱きしめる。

まだ眠そうに薄く目を開けて嬉しそうに微笑むエリィ。

"愛してる、ジャック。ずっと一緒だよ"

"俺もエリィを愛してるよ。離すもんか"

夢から目が覚めた時…俺は泣いていた。

夢の中のことだったけどうれしくて…

 

エリィの寝言には参ったよ。

授業中に居眠りして、まさか俺の名前を呼ぶとは。

ちょっとからかってやろうって思って、家の前で待ち伏せした。

でもなかなか帰ってこなかった。

やっと来たと思ったら、オマエはジェイムズと一緒だった。

そして…オマエのバックに揺れるアンモライトのキーホルダー。

この石の言葉を知ってるかい…過去を手放すっていうんだ。

過去に縛られず七色の光で前に進めるようにって。

人生の暗闇に希望の光を照らす…

それをエリィに渡したジェイムズ…

ジェイムズ…オマエも本気なんだ、エリィのことを。

エリィが希望の光になってくれることを望んだんだよな。

オマエ…の、俺達の過去を捨て去って、エリィと新しく始めたいっていう気持ち…

そう思ったらどうしようも無く苦しくなって、家の中に駆け込んでしまった。

ジェイムズが俺の後を追ってきて、なんか言い訳をしようとした。

でも…そんなの聞きたくなかった。

 

どしても眠れない…

エリィの窓に洗濯バサミをぶつけた。

顔を出したエリィを見て、傍によって抱きしめたくなった。

エリィの寝言の内容を教えてやるって言って、外に出てくるように仕向けたんだ。

ごめんよ…エリィ。

俺は…エリィを抱きしめたかった。

ジェイムズにオマエをとられるんじゃないかって思ったら心が張り裂けそうだった。

だからエリィをこの腕の中にしっかりと抱きしめておきたかった。

俺に聞きたいことがあるって言ったよな、エリィ。

それってなんだったんだ。

邪魔が入って聞けなかった。

俺のなにを知りたいんだエリィ。

 

このまま3人で仲良くなんてできないよ。

エリィ…

俺はそんなに嫌なヤツか…

雪だるまにデビルの尻尾をつけられるくらい!?

  

地震がきた。

あんな大きなのは初めてだった。

ジェイムズが怪我をしたのでエリィが病院に付き添いで行った。

怪我は大事には至らなかったけど、体中の傷が痛々しかった。

でも…病院でなにがあったのか…ジェイムズの様子でわかる。

激しいジェラシーに包まれてエリィにそれを向けた。

オマエは俺のモノだ。

そんな気持ちを抑えきれず、エリィを抱きしめてキスをしてしまった。

ずっとこのままでいられたら…

エリィは戸惑っていたようだけど、拒絶はしなかった。

心のどこかで俺を受け入れてくれてるのか

期待してもいいのか…エリィ…

でも…リョウ…

エリィを守ろうとするリョウの態度…

親父代わりとは言え…

両親が慌ててカナダから戻って来た日。

母さんは言った。

エリィのボーイフレンドは大変だって。

そして俺とジェイムズを見たんだ。

母さんは全てわかってる。

俺とジェイムズとエリィのこと…

  

手作りのチョコ。

俺が好きなタイプを覚えてくれてた。

素直にありがとうって言いたかった。

でもそんなことをしたら自分の気持ちを抑えきれないで、エリィをその場で抱きしめてしまっただろう。

エリィとジェイムズは俺が居たことに気付いていなかった。

ジェイムズと見詰め合ってるオマエを見て心が痛んだ。

誰かの手の中で握りつぶされてるかのように。

エリィ…そんな優しい瞳で俺以外の男を見ないでくれ。

例えそれがジェイムズでも…俺は…俺は耐えられないんだ。

 

映画館でエリィの横に座った。

これが2人だけだったらどんなにうれしいか。

ホラー映画だったからちょっと期待したんだ。

エリィが恐がって俺に抱きついてくれるかもしれないって。

それなのにオマエは抱きつくどころか、楽しそうに叫びやがってさ。

だから食事の後に行ったボウリングでガターを連発するエリィを笑ってやった。

でも…そんな俺を見てオマエは微笑んだよな。

凄く幸せそうに…

 

日本でスキーをすることになるとはな。

スキー場も雪質も大したこと無いだろうって思ってたけど、まあまあだった。

それよりも…ラッキーなんて喜んでよかったのか。

クラスの皆と一緒のはずが、祐美の連絡ミスで俺とエリィの2人きり。

エリィとひと晩過ごした。

でも…なにもできずに終わった。

ただ…オマエを抱きしめて眠った。

それほど俺にとってエリィは大事なんだよ。

大切な宝物なんだ。

あんなバカ面の男なんかに俺のエリィを触れさせてしまったなんて。

俺は…エリィと2人だったら雪の中に埋もれて消えてしまってもいいと思ったんだ。

このまま…エリィと…雪のように融けて2人でどこかへ行ってしまえたら…。

朝、雪景色の中でエリィはカナダに行ってみたいと言った。

行こう…いつか…2人で。

俺がエリィとスキー場から帰って来た時に見せたジェイムズの悲しそうな顔。

そして…アイツは辛さを隠して笑った…

いつもそうなんだよ、いい子でいようとする。

ジェイムズ…言ったらどうなんだよ。

オマエもエリィが欲しいって。

  

俺は泣いた…

エリィの柔らかい胸の中に顔を埋めて

もう…エリィにウソなんかつかなくて済む。

自分の気持ちにも…

エリィ…言ってしまったんだよな。

エリィを好きだって。

………

授業中、エリィが呟いた。

ジェイムズ…って。

オマエの心の中には俺じゃなくて、ジェイムズがいるのか。

どうしてだよ…

あの日のキスには意味は無かったってことだったのか。

スキー場のゲレンデの雪の中で抱き合った。

2人一緒に埋もれそうになりながら。

俺はエリィの気持ちを感じられたと思ったのに。

そう思ったら、もう自分を抑えることができなかった。

体育の授業の後、片付けをしてるエリィを傷つけてしまった。

そんなつもりは無かったんだよ。

ただ…エリィから聞きたかった。

どうして俺の名前を言ってくれなかったんだって。

保健室の近くまで行ったけど、恐くて中に入れなかった。

エリィに拒絶されたらって思って。

家の前で待ってたらオマエはジェイムズとリョウに大事そうに…守られるように帰ってきた。

それに引き換え…俺はオマエを傷つけて。

謝りたかったんだ。

リョウに殴られることで自分のしたことが消えてくれればって思ったんだ。

だから…もっと俺を殴ってくれって。

そんな俺の気持ちをジェイムズは察していた。

でもどんなに殴られても俺のしたこと…してきたことが無くなるなんてことなんか無い。

そう思ったら走り出していた。

エリィも俺の後を追いかけてきた。

俺が大事だって叫んだエリィ…

なにも言わず俺とエリィは体を寄せ合った。

もう…隠すことなんてない。

これ以上、無くす物なんか無い。

俺は出生の秘密をエリィに話した。

エリィは泣きながら俺に謝った。

そっとして置くべきだったって…思いやりが無かったって。

俺のほうが悪いのに…

エリィ…オマエは俺の全てを受け入れてくれるのか。

全て…エミリーのことも。

話すなら今だって思った…

でも…勇気が無かった。

エリィの唇に包まれた俺の唇からはエリィへの気持ちしか出てこなかった。

エリィも俺を求めてくれた。

こんな俺を…

エリィを連れてこのままどこかへ行ってしまいたい。

そこで2人きりで暮らせたら

そんなこと…できないよな。

家の前で離れたくなくて…エリィも同じ気持ちみたいでうれしかった。

…エリィはいつも俺の隣にいる。

だから今は辛くても我慢しなくては。

それに今日までとは違った明日が待ってる。

…俺は言ってしまったんだから、エリィを好きだって。

 

学校で俺とエリィのことを知らないヤツはいないだろう。

俺はエリィの手を離さなかった。

学校に着いても…教室に入っても…

皆に教えてやるよ…エリィは俺のだ。

エリィ…覚悟しろよ。

嫌だなんて言わせないから…

卒業式の後、リョウに言われた。

エリィを泣かせるようなことをしたら、ただじゃおかないって。

リョウは俺を認めてくれたのか…それとも仕方無くて…そんなことを言ったのか。

俺は…エリィを泣かせたりなんかするもんか。

アイツは大事な宝物なんだ。

愛しくて…どうしようも無いんだ。

エリィを壊してしまわないように、両手の中にそっと包んでしまいたいほど。

  

会ってみようと思った…産みの親に。

春休みにカナダに行ってくるってエリィに伝えた。

エリィは笑顔で送ってくれた。

2人で旅行することにしたから、早く戻って来なきゃな。

なにも感じなかったと言ったらウソになるだろう。

でも初めて会ってすぐに普通の親子の関係にはなれない。

産みの親と話しをした。

前に冷たく接したことを許して欲しいと言われた。

いろいろなことがこの人達にもあったんだ。

俺の知らなかったことが

そう思ったら、ずっと俺の心の中にあった重く冷たいものが消えていくような気がした。

そして笑顔で2人と別れることができた

…エリィ…

俺の心に浮かんだのは愛しいエリィの笑顔。

エリィ…会いたい。

でも…もうひとつ、俺にはやらなきゃいけないことがある。

エミリーのこと。

でもどうしたらいいのかわからないんだ。

エミリーから2度と会いたくないって言われてる…

エリィ…もう少し時間をくれないか。

きっと、きっとエリィに話せるようにするから。

 

エリィに逢いたくて予定を早めて帰って来た。

いつもの河原に居たエリィ。

もう抱きしめて離しはしない。

エリィ…俺を好きだと言ってくれた。

その言葉が無いと俺は不安なんだよ。

エリィの存在…俺の全て。

  

4月、3年生になった。

ジェイムズには悪いと思ってる。

でもエリィとの幸せな生活がうれしい。

入学式の最中、俺の耳元で好きだと囁いたエリィ。

無意識のうちにそうしてたようだった。

そこまでオマエは俺を想ってくれてるのか

抱きしめても、なにをしても足りないよー。

何千回、オマエを好きだって言っても。

プリクラとかってやつを撮ってる時に幸せ過ぎて止められなくなった。

俺のエリィ…

  

そして旅行。

もう偽らずにこの気持ちをエリィにぶつけてもいいんだよな。

エリィの全てが欲しい…エリィが俺の…俺だけのエリィなんだって感じたい…

…でも、どうしてもエミリーのことが頭から離れないんだよ。

また…あんなことになってしまうんじゃないかって。

…恐いんだよ…

エリィ…

オマエが俺にとってどんなにかけがいの無いものなのかって、言葉では言い表せない。

エリィの肌に触れた俺の指先に残る柔らかくて温かい感触。

思い出すだけでまた体が熱くなってきた。

エリィ…でも…

ベッドの前で固まってしまったエリィ。

俺はいつまでも待つつもりだったエリィがいいって言うまで。

でもオマエは欲しいって言ってくれた…

初めてのエリィを壊してしまわないように、ゆっくりと体を沈める俺の背中にしっかりと腕を回して苦痛に耐えていたエリィ。

俺を受け止めたエリィは深く息を吐いてそっと目を開けて俺を見た。

そして嬉しそうに微笑んで言った。

"私達ひとつになれたんだね…うれしい" って。

俺は温かいエリィの中で溶けてしまいそうな感覚に酔っていた。

でも…その喜びも自分でぶち壊してしまった。

やっぱりエミリーのことがトラウマになっている。

エリィを驚かせてしまったよな。

俺が突然シャワールームに閉じこもったりなんかしたから。

エリィがどう思ったのか…考えたら体が震えてきて立っていられなかった。

泣き声を聞かれたくなくて流していた水の冷たさなんか感じなかった。

そんな中、エリィはシャワールームの中に入ってきた。

そして温かいお湯が注がれ、俺は裸のエリィの体に抱きしめられていた。

こんなどうしようも無い俺にどうしてそんなに優しいんだよ。

石鹸で全てを洗い流せたら…

エミリーのことや、その後ヤケになって体を重ねた女の子達のこと。

そう思って石鹸を握り締めていた。

エリィは俺の体をその石鹸で洗ってくれた。

たくさんの泡に包まれた俺の体…そしてお湯できれいに流されていく。

エリィ…オマエは俺のエンジェルだよ。

俺を闇の中から救ってくれる…

背中に残るアイツの体の感触。

…小さいくせに腕をいっぱい回して俺を後ろから抱きしめてくれた。

テイラースウィフトか…

そういえば…エリィ、この曲を歌いながら踊ってた。

俺が引越して来た頃…夏だったから窓を開けてたんだ。

だから…見えたっていうか、見えてしまったというか。

そんなこともあったな…

 

俺とエリィは出逢ったばかりだ。

でも少しずつ2人の思い出が増えていく。

エリィは俺と旅行できてうれしかったって言ってくれた。

そして…俺でよかったって。

初めての相手が俺で…でもほんとに良かったのか。

朝まで抱き合って眠ったアイツの腕の中は温かくて、1番の安らぎの場所だよ。

エリィ…言ってしまった。

俺はエリィを愛してるって。

その言葉の重み…

  

幸せそうなエリィの姿を見ていると俺までうれしくなってくる。

登下校、学校での時間…いつも一緒だ。

でも2人きりっていう時間が無い。

3年になって勉強が大変になってきた。

皆に遅れないように補修やなんかでめちゃくちゃ忙しい。

でも…エリィと一緒の大学に行くためだよ。

がんばらなきゃな。

久し振りにエリィと出かけた。

花見にはちょっと遅かったようだけど、それでも十分綺麗だった。

エリィは桜が散るのがキライだと言った。

俺も桜の木が泣いてるように思えた。

悲しそうな顔をして、もうどこへも行くなと言ったエリィ。

俺の心の中を感じ取ってしまっているのだろうか。

オマエだけって思っていても、どこかでエミリーを気にしている俺の心の暗闇を。

  

ほんと…エリィってヤツは…

可愛いことをしてくれる…俺の匂いに包まれて眠りたいなんて…

勉強をしようって誘われたのでエリィの家に行った。

カケルが気を利かせてくれたおかげで、エリィの部屋に逃げ込むことができた。

ずっとエリィのお母さんと一緒だと緊張して窒息しそうだった。

いつも俺達のことに理解を示してくれるエリィのお母さんの信頼を裏切ることだけはしてはいけない。

そう思うプレッシャーからだった。

すみません…エリィのお母さん、ほんとは感謝の気持ちを伝えるべきなのに…

でも…信じてください、命をかけてエリィを愛していることを。

俺は2階に上がりながらそう思っていた。

部屋の中はエリィの匂いでいっぱいだった。

エリィの部屋から見える俺の部屋。

結構中まで見えていた。

ちょっと気をつけたほうがいいかもなー。

そんなことを思いながら椅子に座って部屋の中を見渡した。

でも…エリィのべッドを見て地震の時のことを思い出した。

ジェイムズがエリィのベッドで寝たこと。

そしてそのベッドでエリィが毎晩眠ることに嫉妬している…

俺にはわかるから…ジェイムズがどんな想いでひと晩ここで過ごしたかって。

  

エリィ…オマエが欲しく無いわけなんてあるか。

ましてエリィに興味が無くなるなんて…

本気で言ったのかエリィ。

俺の前に黒のレースの下着姿でいるオマエを見て、理性がぶっ飛びそうになるのを抑えたことがどんなに辛かったか…わからないよな。

窓から見える街の灯りに見せ付けてやる…

エリィは俺のだ。

こうしてエリィに触れられるのは俺だけだ。

エリィの心にも体にもそれを刻んでおくんだ。

どんなに愛しても愛しても十分なんてこと無い。

もっと欲しくて…エリィに無理をさせてしまった…

気を失いかけて立っていられなくなったオマエを抱えたまま俺も果てた。

 

エリィには言えないけど、俺は今まで覚えていないくらい女の子達と寝てきた。

それはhaving sex  making loveじゃなかった。

初めてがあんなことになってしまった後、その行為自体になにも感じなくなってしまっていた。

だけど…心から愛し合うことがこんなにもうれしいことだって…エリィが感じさせてくれたんだ。

エリィの柔らかい膨らみの中に顔を埋めて、そっとお腹に触れた。

ここに赤ちゃんが宿るんだよな…

エリィが妊娠することは無いはず…ピルを飲んでるから…

でも100%ってことは無い…

エリィは自分の体のことは自分の責任だって言ってた。

でも…心配なんだよ。

もし…エリィになんかあったら…

学校で腹が痛そうにしていたエリィ。

エリィはただの生理痛だって言ったけど、俺はどうしてもそれだけでは納得できなかった。

エリィはしょうがないって顔をしたけど先生の所に行ってくれた。

家で待ってろって言われたけど、気付いたらクリニックの前に来ていた。

そんなところを先生に見られてたらしくて中に呼ばれてしまった。

会って話しをした佐々木先生は、以前風邪を引いた時に診てもらった時の医者とはぜんぜん感じが違った。

優しいお姉さんって雰囲気でこれだったらエリィも安心して話が出来るって思った。

この先生が居てくれればエリィは大丈夫だ…

エミリーのようなことには…エリィは守る…

あんなことになんかならないように…

  

あの小さな体のどこにそんな力があったんだ。

エリィが男をぶっ飛ばした。

俺を傷つける奴は許さないって、オマエは体を張って俺を守ろうとしてくれた。

逃げろって言ったのに、アイツは戻ってきて…

頭に血が上ったからなんてさ…見かけによらず気、強いんだな。

本気で怒らせるのは止めたほうがいいかも…

でも…マジでうれしかった。

俺にはエリィしか居ないって…思う…

  

こんなに誕生日がうれしく思えたのは何年ぶりだろうか。

今までは自分の誕生日なんて祝うことなんてなにも無いって思ってた。

エリィと母さんが作ってくれたケーキに揺れる18本のキャンドルの灯り。

あんな温かい気持ちになれるなんて。

エリィが傍にいてくれる…

そう思うだけで心が満たされる…

生まれてきて…よかった。

エリィに会えてよかった。

でも…バースデーパーティーの最中にエミリーからの荷物が届くなんて…

独りになって箱を開けてみたら中には俺がエミリーに贈ったあの指輪が入っていた。

あの日、キャンプ場の湖でエミリーの指に俺がはめたものだった。

それをエミリーが送ってよこした。

どういう意味なんだろうか…俺を許してくれるっていうのか。

それとも…

 

エリィはストレートにエミリーの事を聞いてきた。

もう…これ以上、偽りたくない。

エリィ…俺を信じて…きっと話すから。

信じるって言ってくれたエリィ…

俺と佐々木先生が話してるとこを見かけたらしい。

先生とのことを疑ったみたいで泣きそうな顔をして抱きついてきた。

エミリーのこともあったからだろうな…

真剣に俺を信じてるからって言うエリィの姿に胸が押しつぶされそうだった。

俺は…俺はエリィの前に立って、恥ずかしくない男でありたい。

ちゃんとケジメをつけなければ…

エミリーのこと…そして自分にも。

そして…その後に…俺の全てをエリィに捧げるよ。

  

夏休みに入ってカナダに帰った。

心に決めたことをやるために…

俺がカナダに行ってくるって言ったらエリィは淋しそうな顔をした。

でも笑顔で早く帰って来いって。

2人で海に行く約束…エリィ、待っててくれ。

すぐ戻るから…

 

高校の時のクラスメートに偶然会った。

仲の良かった友達…だったと思ってた奴らはエミリーのことがあってから、誰も俺と関わろうとしなかった。

街で会ってもよそよそしく、顔を背けて通り過ぎるだけで…

でも…今日声をかけてくれたコイツはクラスでもぜんぜん目立たなくて一度も話したことも無かった。

…そういうもんなんだろうな。

その名前も覚えていなかった(悪い!)友達に言われた。

なんか雰囲気が変わったって。

そしてもうそろそろ自分を許したらどうだって…

きっと俺とエミリーのことはまだ噂になってるんだろう…

別れ際に黙って俺の肩を叩いて歩き去ったアイツ…

…目の前の霞が消えていく…

勇気を出してちゃんとエミリーと向かい合える…今、はっきりそう思える。

 

明日、指輪を持ってエミリーに会いに行くよ。

どうしても話しがしたいと言った俺にエミリーは会ってもいいと言ってくれた。

俺はエミリーに一生癒えることの無い傷を残してしまった。

その責任から逃れるつもりは無い…

自分の出来る限り、償っていきたいと思ってる。

どういうカタチになるかわからないけど…

これから俺は新しい明日に向かって生きたい。

エミリーも同じ気持ちであってくれたら…

エリィの笑顔を思い出す…

エリィ待っててくれ…

  

もうエリィのところには帰れないよ…

別れの言葉をメールにしたこと…

辛くてとても電話なんてできなかった。

意気地なしの俺を許して欲しい。

発作的に手首を切ってしまったエミリーを置いて、エリィの所へは行けない。

エミリーは俺に会う前に誰かからエリィのことを聞いていた。

日本で俺がご気楽にやってるって…

だから…俺がエリィとのことを話したことであんなことをしてしまった。

久し振りに会ったエミリーはあの頃と同じで可愛いままだった。

こんな可愛いエミリーを俺は傷つけてしまったんだ。

だから…エミリーが言ったことは当たり前なんだ…

俺はエリィとは一緒にはなれないよ。

俺だけ幸せになるなんて…そんなこと…許されないんだ。

ごめん…エリィ。

  

 

エリィと別れてからの俺は生きてないと同じだった。

なんの希望も持てず…ここに残すものもなにも無くて…

でもやっと自分をまた取り戻すことができたよ。

ここまで来るのにいろいろなことがあった…

エリィとの再会。

一方的な別れの本当の理由を知りたいってバンクーバーまで来たエリィ。

でも俺とは話さず、エミリーに会って帰って行った。

こんなカタチで全てを知ることになってしまったエリィ。

それでも俺を責めることもせず、去っていったエリィ。

エリィは俺がエミリーと生きていくことを許してくれた…

でも…そうするしか無かったエリィの気持ち…

俺は…俺はエリィを幸せに出来なかった…

エリィが日本に帰ってから、俺はエミリーとやり直そうとした。

けど…駄目だった。

どうしてもエリィが忘れられなかった。

そして…いつからか吐くようになっていた。

吐くものがなにも残ってなくて、血が混ざった胃液を吐き出す。

それでも俺の体はなにかを吐き出そうとする。

わかってる…それは絶対に心の中から出せない、出すことの無い俺の気持ち…

気付いたら腕を切っていた。

腕の傷の痛みが激しいほど、俺の心は一時的に癒された。

そんなことを繰り返していたんだ。

でも現実に引き戻される度に自分の弱さが許せなくて…

そしてそのプレッシャーに耐えられなくなって倒れた俺はエミリーから三行半を押された。

もう終わりにしようって。

自分の不甲斐無さに情けなくって泣きたくなった…

でも…正直言ってホッとしたんだ。

これで自由になれる…

エリィの顔が浮かんだよ。

逢いたい…

でも…こんな姿でエリィに合わせる顔なんて無いってわかってた。

でも…どうしてももう1度だけ会って謝りたかった。

ジェイムズに頼んでリョウに連絡を取ってもらった。

リョウからのメールでエリィに彼氏ができたことを知った。

俺はウソだ…って叫んでいた。

自分のせいだから仕方無いと自分に言い聞かせたけどエリィへの想いは募るだけだった。

一ヶ月くらい経った時だったろうか…ジェイムズから電話があった。

リョウが俺に日本に来てくれないかって言ってるって。

エリィに逢える…

エリィが俺を許してくれたのかもしれない…

そう思ったら、エリィへの想いがあふれ出してきてもう抑えきれなかった。

前にエリィが言ってた…

"一緒の大学に行って…アパートを借りて一緒に住みたい"って。

俺の誕生日に日本では18歳で結婚できるんだって、恥ずかしそうに言ったエリィ。

もし今でも俺でいいって言ってくれたら…俺はエリィと一緒になりたい…

そのための指輪をジェイムズと一緒に選んだよ…エリィ。

 

 明日は日本だ。

エリィ…もうすぐ会える。

すぐに許して貰おうなんで思ってない。

今は会って話しができるだけで十分だよ…傍にいられるだけで…

目を閉じるとエリィの笑顔が浮かぶ…

エリィのことを想うだけでこんなにも幸せな気持ちになれる。

俺はきっと泣いてしまうだろう…エリィの顔を見たら…

エリィ…

USBメモリを持って行こうかと思ったけどやめた。

日本から戻って、次にここに何を記することになるんだろう…

どんなことになろうとも、それは俺とエリィの新しいチャプターの始まりのような気がする。

エリィ…俺のエリィ…

俺はオマエを愛し続ける…

この命が尽きても…ずっと…ずっと。