Love story Afterwards -12 (James)

Afterwards -12(James)

  

教会で祈る…

ジェイクのことがあってからエリと心が通じ合ってるって感じる。

エリが俺に見せてくれる微笑の中に前とは違うなにかがあるって。

でも…お互いそれがなんなのか言い出すことも無く毎日が過ぎていく。

確かめてしまったら…全てを失いそうでそれが恐いから。

それに…ジェイクを見つめるエリの瞳が頭から離れない…

エリがあんなにジャックを思い続けていること…

やっぱりジャックじゃないと駄目なのか。

俺では…やっぱりジャックの代わりにはなれないんだよな。

エリにはオマエが必要なんだよ、ジャック。

どうして逝ってしまったんだ…できるならジャックを連れ戻したい。

エリのためだったら何でもする…自分の命にかえても…

心がバラバラになりそうなんだ。

「エリ…」

抑えきれず愛しい人の名がこぼれる…

コツン…

音がしたので振り向くとエリが立っていた。

「ジェイムズ…お買い物が終わったから…私…」

焦って涙を拭く俺を見ないように下を向いたエリ。

こんな姿を見せてしまった。

エリには絶対に知られてはいけない俺の気持ち…

「ごめん…今行くよ」

立ち上がって席から離れようとする俺にエリは言った。

「ジェイムズ、お祈り続けて…邪魔しちゃってごめんなさい」

「いいんだ、もう済んだから。さあ、帰ろうか」

「ジェイムズ…」

突然エリが俺の胸に飛込んできた。

俺の名前を呼び続けながら泣きじゃくるエリ…

俺はそんなエリを抱きしめることしかできない。

それ以上は許されないんだ。

「ジェイムズ…私…私…」

涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて俺を見つめるエリをどうにかしてしまいそうになる衝動を抑える。

「エリ…俺は…」

 

自分の部屋で教会でのことを思い出す。

あの時、母さんとジャックソンが教会に入って来なかったら…

俺はエリに自分の気持ちを伝えてしまっていただろう。

今までずっと抑えてきた俺のエリへの想い。

俺の口から告げることは無い…

ジャックの…弟の愛した人と生きるなんて、そんなことは許されないんだ。

神様…どうか俺の心を石に変えてください。

そしたら、この痛みを感じなくて済むから…

 

だんだん寒くなってきた。

ジャックソンを連れて公園に来れるのも、そう長くはないかもしれないな…

元気に遊ぶジャックソンをエリと2人でベンチに座って眺めていると、隣の人が声をかけてきて親子と間違えられた。

この頃ジャックソンが俺のことをダディと呼ぶからだろう。

エリは訂正せずに微笑んでいた。

教会でのことにエリはなにも触れてこない。

でも…俺にはわかる。

エリと俺の間になにかが動き始めていること。

さり気なく俺の腕にエリが腕を絡めて体を寄せてくる。

エリ…

俺も黙ってエリの体を抱きしめる。

それだけで俺には十分過ぎるくらい…

「エリ、ちょっと寒いな。温かいコーヒーでも買ってくるよ」

エリの頬が冷たいのに気付いて飲み物を買いに行く。

戻ってきたら誰かがエリに怒鳴っているのが見えた。

エミリーだ…どうして彼女がここにいるんだ…

急いで二人に近づくとエミリーは俺の姿を見て行ってしまった。

「エリ…どうした。エミリーとなにかあったのか?」

なんでも無いと言うエリの顔は蒼白で、なにか酷いことを言われたに違いない…。

家に帰ってもエリは黙ったままで、そのことに触れようとはしなかった。

エミリー、エリになんて言ったんだよ…

 

エミリーのことがあってからだろうか…

エリが俺と距離を置いているように感じる。

そして…交わす言葉も少なくなり、ふれ合うことも無くなってしまった。

どうしたんだよ、エリ。

俺のことが嫌いになったのかい。

近づこうとしても突き放すようにしか接しないエリの気持ちが量りきれない…

どうしたらいいのかわからず思わずエリを責めるようなことを言ってしまった…

エリは心を閉ざしたかのようにまったく俺と話さなくなってしまった。

そして…エリのスリープウォークが始まってしまった。

家族と交替で起きてエリの様子を見る夜が続く。

今晩は俺の当番だ。

パソコンを取り出してゼミのレポートに取りかかる。

提出ギリギリのがいくつかあって昨晩もほとんど寝ていない。

だんだん瞼が重くなってくる。

駄目だよ…今晩は起きてなきゃいけないんだから。

そう思っても眠気は容赦なく襲ってくる。

…あれっ…

ここはどこだろう…

俺はあたり一面雪の中に立っていた。

机もパソコンもなにも無い…

どうしたんだろう、寝ぼけてるのか…

目を凝らすと雪の中に誰かが立っているのが見える。

あれは…ジャック。

ジャックはなにか言いたそうに氷が張った池を見つめている。

ジャック…なにが言いたいんだ。

俺になにを伝えたいんだよ。

ジャック!

ハッとして目が覚めた。

マズイ…寝てしまった。

どれくらい経ったんだろうか。

エリ…様子を見てこなくては。

ジャックの部屋のドアを静かに開けた。

でも…そこにエリの姿は無かった。

エリ…

2階を調べた後、1階に降りた。

中庭に通じるガラスドアが開いている。

エリはここから外に出たのかもしれない。

急いで中庭に出てエリの名前を呼んだ。

どこにいるんだよ、エリ。

庭を探してもエリの姿は無い…

考えるんだ、ジェイムズ…

池…夢の中でジャックが立っていた場所。

俺は池に向かって走った。

あれは…

雪が落ちてくる空を見上げたまま、パジャマ姿で立ち尽くしているエリを見つけた。

「エリ、なにしてるんだよ。エリになにかあったら俺は…」

責めるつもりは無かったのにエリは怯えたように体を震わせて言った。

「ごめんなさい…ジェイムズ。私はあなたと幸せになんかなれない。2人を愛してるなんてそんなの許されない。エミリーの言う通りなの。ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」

エリ…俺なんだよな…エリをこんなに苦しめてしまったのは。

俺が心無いことを言ったせいで…許してくれ、エリ。

そっと抱きしめたエリの体は氷のように冷たかった。

「エリ…家の中に戻ろうよ、風邪でも引いたら大変だよ」

「だめ…私…ジェイムズとは…エミリーが…いやーっ…」

池に向かって駆け出そうとするエリを抑えているところに、声を聞いた父親とジョシュアが駆けつけた。

暴れるエリを3人で抱えて家の中に運ぼうとした…その時…

「いやーっ、ジャーックっ…」

そう叫んでエリは崩れ落ちた。