JET LAG Crash Landing (第1話/3)
Crash Landing ( 第1話 / 3 )
やったー、今日からホリデー。
待ちに待った旅行だよー!
南半球を脱出して北半球へ。
太平洋を渡って北米大陸にGO!
ニュージーランドで現地ガイドをしている私は1年に1回長いお休みをもらって、いつも海外旅行に出かけている。
去年はお隣のオーストラリアへ行ってきた。
でもちょっとこの頃、北半球に戻ってみようかなって思うようになってきた。
もうすぐビジネスビザも切れるし‥
先のことを考えて、次に行ってみたいカナダを下見を兼ねて旅行することにした。
初めての太平洋横断…日付変更線を超えるのも初めて。
ワクワクして飛行機に乗り込んだのも束の間…
私のお隣には南米のプロレスラーみたいな体のデカイお兄さん2人が座った。
席を替えて欲しいとフライトアテンダントのお姉さんに交渉してみたけど、満席のため敢え無く却下。
仕方なくトボトボと自分の席に戻る。
隣の人のハムのような太い腕が私の席にはみ出してきて、私は窓の方に張り付くようにして8時間のフライトを耐えた。
信じられないけどトイレに1回だけ行ったたけで、それ以外は席の中に埋もれっぱなし。
食事の時に飲み物を勧められても、トイレに行く時の苦労を思い出して全て断っていた。
だって…横の2人の上を乗り越えるように自分の席から通路に這い出す時のあの格好…
戻って来た時も同じように2人の上を越えて自分の席に潜り込まなくちゃいけないんだもん。
そんなことをするくらいだったらちょっとぐらい水分取るの我慢か…
でもよかった、エコノミー症候群になんかならなくって。
こんな地獄のようなフライトでも海を越えて初めて北米大陸を目にした時には、感激して隣のお2人さんに陸が見えることを教えてあげたりして…
飛行機がバンクーバーの空港に無事到着して、のんびりと自分の降りる番を待つ。
満席だから結構時間がかかってる…でも私は横の2人の圧迫感から解放されてホッ。
やっと機体から出られてターミナルの中をちょっと朦朧としながら入国審査を目指してポチポチ歩く。
すでに長い列が出来ていて、同じ飛行機で来た人達が眠そうな目をして自分の番が来るのを待ってる。
私も列の最後尾に並んで前の人達のことを観察する。
なんか、入国審査をすっと通り過ぎる人とそうじゃない人がいるみたい…
やっぱり顔つきかなぁ…ちょっと心配になってきた。
だって…一人旅だし、海外居住だし…
カナダで彼氏見つけて居座ろうなんて考えてるって思われるかなぁ…
まあ…世界共通、笑顔で行きましょう!
人相は悪くないだろうから…愛想良くして…
ちょっと緊張しながら待って、もう少しで私の番。
前を見ると入国審査の係官が無愛想な顔をしてパスポートにスタンプを押している。
でも、よく見ると若くて結構カッコいいじゃないですかー!
制服姿がまたいいんだな…これが。
私の番が来て目の前にイケメン係官の顔が…
「ぷ、ぷーっ」
我慢できず噴出してしまった。
「なにがオカシイんですか?」
「いえ…なんでも…」
ぶーっ。
大笑いをしてしまった。
やばい!イケメン君の顔がマジで固まってる…と思った時には問答無用でセキュリティのおじさんに腕を掴まれて別室に連行…
きゃー、誰か助けてー。私、善良な日本人ですーっ!
私…酔っ払ってもいないし、ヤバイモノなんかもやってません…
これはマズイでしょー、ニュージーランドに帰れなくなるかもー!
もう…こんなことになったのは、全て汚れた友達のせいなのよー!
部屋では不審な行動の理由を尋問される。
ちゃんと説明しますから‥
でも…その前に出来れば女性の係官を…強面のお兄さんにお願いする。
とっても男性のアナタには言えないんです。
希望が叶って女性の係官が部屋に入って来た。
でも…ホントに女性ですかって感じのお姉さんにぶっ飛ばされるのを覚悟して、ことの成り行きを説明した。
女性係官はほとんど呆れ顔で私を見た後、頭を振って部屋を出て行った。
そして少ししてからスーパーバイザーと名乗る男性係官と戻って来た。
その男性係官に入国審査の重要性を聞かされた後、やっと無事解放される。
もう…日本人の恥と呼んでください…
かなりの脱力感と共にラウンジに座り込んで、暫くの間ぼーっと天井を見つめていた。
まずい…こんな所でぼーっとしてると、また別室行きになってしまうかもしれない。
重い体を引きずってスカイトレインの乗り場に急いだ。
無事に乗り込んでホッとする。
ぼーっと窓から見える景色を眺めていたらダウンタウンに着いた。
そしてスーツケースをゴロゴロと転がしながらやっとホテルに辿り着く。
重い荷物を抱えてロビーに入り、チェックインを済ませて部屋に案内される。
ちょっとがっかり…
このホテルにはちょっと期待してたんだ…
でも小さな窓がひとつ…見えるのは隣のホテルの部屋の窓。
なんか気が滅入る部屋だなぁ…
変えてもらおうか…でも疲れてるから早く眠りたい…
まあ…いいよ、ここは寝るだけのためだから。
シャワーを浴びてそのままベッドになだれ込んだ。
圧死しそうになりながら乗っていたフライトの疲れがドドーっと出た。
時差ボケ予防にはここで寝ちゃいけないのわかってるんだけど…
もう駄目だぁ…
フライトの疲れプラス入国審査時の心労のダブルパンチで私の思考回路はまったく機能してなかった…
枕に頭をつけた後のことは覚えていない。
やっと私が目を覚ましたのはその日の夜だった。
回復したぞー。
爆睡したので疲れが取れちゃった。
お腹が空いた…ご飯食べに行こうかな。
市内の地図を片手にバンクーバーで初めての食事にレッツゴー!
見慣れない収税がなんとかかんとか…面倒くさいなー。
もとの値段は安いのに税金とかいろいろプラスされてて、なんか凄く損してる気分。
最初から税金込みで値段が表示してあればそんなもんかって割り切れるんだけどねー。
まあ…いいか、食べないわけにはいかないし。
ふと見ると雰囲気の良さそうなカフェがあった。
今日はここにしようかな…あまり遠くまで行く気もしないので。
ウェイトレスのお姉さんに案内されて窓際の席に着いた。
オーダーしてから料理が運ばれて来るまでの間、外を歩いてる人達を眺めて楽しむ。
おもしろーい。
男の人のサンダル姿がヤケにうけてしまった。
だって靴下はいてるんだもん。
夏と言っても結構涼しいからサンダルの下に靴下…なのかなぁ。
これってバンクーバーで流行ってるオシャレなのかもしれない。
結構可愛いから許しちゃう…
また独りでニヤニヤしてるとこにオーダーしたBCロールが運ばれてきた。
やっぱ、バンクーバーに来たらこれでしょ!
海苔巻きなんだけど、中にカリカリのサーモンの皮が入ってるんだよね…これがBC風ってことか。
カリフォルニアロールに似てるけど…まあ、まあかな。
モグモグ…お腹が空いていたのでイッキに平らげた。
あー、栄養補給したぞー、頭に血が回ってきた感じ…
コーヒー飲んだらバッチリだよー。
ウェイトレスさんを探して周りを見渡す。
なんだ?…奥の席に座ってる男の人が私を見てる…のかな?
気のせい…気のせい。
お姉さんにコーヒーを頼んでまた窓の向こうを行きかう人達を見つめる。
人の気配を感じた…早いじゃん、お姉さんかな。
顔を向けた私の横に立っていたのは気のせいかと思った男…
うーん?見覚えのある顔だなぁ…
あーっ…
コイツ…空港のイミグレの係官だ!
私が別室から解放されて到着ロビーに出て行く時に、肩を震わせて笑いを堪えてた…
「なにかご用ですか?オフィサー」
「覚えてくれてたんだ?」
ムカつく、当たり前でしょうが…
「空港ではとってもお世話になりましたから…」
私が睨んでそう言ってもぜんぜん気にしないって顔をしてる。
カナダの男の人って打たれ強いのかなぁ。
そんなとこにお姉さんがコーヒーを持って来て、私達のことをチラッと見て戻って行った。
「まあ…その件はね。それよりここに座ってもいいかな」
なに?これってナンパ?それとも監視されてる?
「あのー、こういうのっていいんですか?今日着いたばっかりの観光客をナンパって?」
「プライベートだからOKさ」
そんなぁ…空港であんなことがあった後だから…
「それとも…そんなことを言って実は私の監視とか?!ちゃんとニュージーランドに帰りますから。ここに居座ったりなんかしません」
「あのねー、俺達はそんなにヒマじゃないよ。君が不法滞在なんかしないのはわかってるって」
ふーん、まったくのプライベートってことね。
じゃあ…空港でのお返しでもさせてもらいましょうか。
「そうですか…じゃあ、あの…私、ぜんぜんその気ありませんから。消えてください」
私は伝票を掴んであっけにとられてるイミグレ男を残してレジに向かった。
そして支払いを済ませて男を1度も見ずにカフェを後にした。
まだなんか言ってきたら怒りの鉄拳を一発って思ったけど、アイツは追いかけてこなかった。
ふん、やっぱりどこの国の男でもみんな同じ…そんなもん。
それはいいとして…夜も遅いのにぜんぜん眠くないよー。
ホテルの部屋のベッドに横になってテレビを眺める。
あーぁ、明日キツイな…これじゃ。
起きられないかも…明日の予定変更かなぁ…
でも…
思い起こせば今日1日、いろんなことがあったよー。
まさに、カナダにクラッシュランディング…ってかな。