Delicious Entree 5

Entree  5

  

うーん、どれにしようかなぁー。

この部屋がいいかも…DVDのコレクションがなんとかかんとか。

「じゃあ、これにしよう。早く、早く」

男の子を急かせて部屋に向かう。

私は男の子とはシティホテルにしか行かない。

今日は健太郎のトレーニング第1日目。

だからラブホ。

普通のトレーニングだったら公園かどこかでいいけど、鍛える体のパーツが場所だけにね。

まさかおじさんの所に住んでる健太郎の部屋でするわけにもいかないし。

まして私の部屋なんて冗談じゃない。

…となるとやっぱりここになる。

しかし…部屋に入っても2人でベッドに座り込んだまま…。

トレーニングと言ってもねぇ…

「ネットで調べてみたんだけど、やっぱりアレをコントロールするには地道な努力が必要みたいだよ。AV男優さんの域までいく必要は無いと思うけど…やっぱり3分より短いのって…」

健太郎の反応を見ながら言葉を選ぶ。

ここで傷つけてしまってカップラーメンができる以前の話になってはマズイ。

「今日はまず正確なデータをとってみようと思うの。高橋君がもう駄目ってところまでがんばってみて。その結果をみてこれからの対策を考えようと思うんだけど。」

じゃあDVDでも見てと、DVDのタイトルをチェックしている私をなにか言いたげに見つめる健太郎と目があった。

「どうしたの?あっ、自分で選ぶよね。失礼!」

私は慌ててリストを健太郎に渡した。

「違うよ。僕、DVDなんか見てそんなことしたくない」

はぁー?私に手伝えってこと?そんなの契約外!

「取り合えず自分で努力しないとね。家でもちゃんとトレーニングしてもらうから慣れてよ」

不服そうな顔をしながらもDVDのリストを見てる健太郎って素直なのよね。

「これにする」

なげやりに健太郎が指差したタイトルを見て思わず… えーっ、こういうのが趣味なの…と口から出かけた言葉を飲み込む。

" 日本史上最高のアダルトビデオ・かわいい高校生(?!)特集 "

そのかわいい?とても現役高校生には見えない女の子達がテレビの画面に映る。

それを健太郎の隣に座って一緒に見る。

私の横で健太郎が居づらそうにモゾモゾ。

そして堪らなそうに言った。

「横で見られてるとやり辛いよ」

ごめん、こういう機会なんて無いからと思って見てたけど…やっぱりマズイか。

しかしこの狭い部屋のどこにいればいいのかしら… まあ、ベッドにでも座らせてもらおう。

健太郎はソファに座って見てるし。

ベッドの真ん中に胡坐をかいて座る。

そしてパソコンを取り出してリポートの作成に取り掛かる。

カチ、カチ、カチ。

私のキーボードを叩く音に混ざって健太郎の息遣いが聞こえてくる。

「どう?」

「………」

応答なし。

キーボードから手を離してソファに座っている健太郎の様子を見に行く。

「どうしたの?」

前かがみになってソファに座っている健太郎を発見。

「うーん…。時間計ってる?」

えっ、まだでしょ。

「じゃあ、計るから。今からね。もうこれ以上駄目ってくらい我慢してよ」

1分…そして2分経過。

健太郎は座っていられないようでソファの上に丸くなってる。

そんな姿を見ていて可哀想になってしまった。

でも健太郎の未来のため。心を鬼にして鍛えなければ…。

第一に本人の希望だし…

もうすぐ3分…がんばれー。

「あっっ……」

健太郎がブルっと体を震わせた。

あともう少しのところだったのになぁ…。

「やっぱり…3分切っちゃったんだよね…」

健太郎は肩で息をしながらそう言った。

がっかりしてる健太郎を見て思った! トレーナーの私の出番かぁ!

「これで目標が決まったんだから、後はその目標を達成するようにがんばればいいじゃん。ねっ!」

頷いて、黙って後始末をしている健太郎の肩を叩く。

「次回までに今日のデータを元にトレーニング計画書を作ってくるから!」

パソコンを閉じて帰る仕度をする。

「もう帰るの?」

健太郎はちょっと不満そう。でも用事も済んだことだし、長居は無用。それに…

「ここ出よう!お腹空いた。なにか食べたくない?」

ラブホを出て繁華街を歩く。

「なに食べようか。高橋君はなにが食べたい?」

「僕は佐藤さんが食べたい物でいいよ」

「それじゃ、焼肉?中華?ラーメン?イタリアンとか?」

「どうしてそう高カロリーなのばっかりなのかなぁ。本当に佐藤さんは肉食系なんだね」

なんだそりゃ?肉食系?肉食女子ってやつ?

「だって高橋君、運動した後でお腹空いてるんじゃないかと思ったんだよー。なーに、その肉食系って。私が高橋君にくらいついてるとでも言いたい訳!?」

健太郎はクスクス笑ってる。

「僕はただ高カロリーの食べ物が好きなんだねって言いたかっただけだよ。なんでそんなに怒られなくちゃいけないんだよー。ちょっと怒りっぽいね、今日の佐藤さんは。あっ、もしかして佐藤さん。そっか…失礼」

なに独りで納得してるのよー。

「これは性格!なにを勘違いしてんだか知らないけど、余計なお世話!」

健太郎は何がそんなに面白いのか肩を揺らしながら笑いを堪えて言った。

「わかってる、わかってる。じゃあ、ここに入ろうか」

はっー!?今までの会話が無かったかのように健太郎は目の前のおそば屋さんに入っていく。

おそば?…もしかして私、健太郎にからかわれてたとか?!

ぼーっとお店の前で立ち尽くしてる私に向かって健太郎が言った。

「早くおいでよ」

慌てて健太郎の後に続いてお店に入る。

" いらっしゃい!"

健太郎はお店の人に軽く頭を下げてカウンター席についた。

なんかいつも来てるみたい…ここに。

「佐藤さん、早く座ってよ。お腹空いてるんでしょ」

もう、調子狂うのよねー、この男といると。いつも気がつくとこの男のペースにはまってる…。

健太郎の横に座ってお店の中を見渡す。小さいお店だけどなんかおいしそう…。

「なんでもおいしいんだよ。佐藤さんがそば好きだといいんだけど…。もう入っちゃった後に言うのもなんだけど」

そうなのよね、なんでもうちょっと前に気付かないのか、そこが不思議なとこなんだけど。

「高橋君のお勧めはなに?私はそれにするから」

「僕のお勧めは天ぷらそばかなぁ。肉食系の佐藤さんにはカロリー高い天ぷらで満足してもらってと…あっ、痛て。冗談だって、佐藤さん」

私にわき腹のあたりを思いっきり掴かまれて体をよじりながら健太郎が言った。

これ以上言うようだったら希望通り頭からかぶりついてあげてもいいんだけど…

「それじゃあ、その天ぷらそばにする。高橋君も同じでしょ。すみませーん、天ぷらそば2つお願いしまーす」

健太郎のおそばに関しての味覚は信用できそう。

お勧めの天ぷらそばはおいしかった。

「ねっ、おいしかったでしょ。そばに関してはちょっとうるさいんだよ」

「高橋君、おそば好きなんだ。いつも来るんでしょ、ここに。なんか馴染みの客って感じだもの」

「そうだね、よく来るかなぁ。なんかホッとできるんだよ、この店は」

確かになんかリラックスできる雰囲気のお店かな…

「佐藤さん、僕はハーフじゃないよ」

突然、健太郎が言った。

「えっ?違うの?皆そうだって言ってるけど…」

「大学ではそうしてる。この顔だからいろいろ聞かれるのが煩わしい…。その度に説明するのも面倒くさいから。母方の祖父母あたりに外国人のDNAが入ってるみたいなんだよ。隔世遺伝ってヤツで、突然僕に出たって感じ。父方のほうも顔つきが日本人離れしてるから実は外国人のDNAを持ってたりしてさっ」

なるほどね。

「でも…その時代って今みたいに外国人がそこら辺にいたわけじゃないでしょ」

「確かに。でも僕の生まれた所では結構あることなんだよ。難破した外国船の乗組員が流れ着くことがよくあったみたいなんだ。昔だから返れずにそのままそこで一生を終えたらしい」

ふーん、そうなんだ。確かに健太郎が言うようにいちいち説明するの面倒かも。

「ところで…佐藤さんってピュアな日本人じゃないよね」

健太郎の不意打ちに言葉が詰まる。

「エッ、それは…。どうしてわかったの?」

こういうのが健太郎の不思議なところ!

「やっぱり。僕のこと話したんだから今度は佐藤さんの番だよ」

うれしそうに目を輝かせてる健太郎を見てると溜息が出そうだけど、健太郎のことだけ聞いて自分のことを話さないのもフェアじゃないように思えるし。

「私の母親は日本人だけど父親はオーストラリア人。両親が離婚して高2の時に日本に来たの。その時に1学年下のクラスに編入したから私…20歳。皆より1つ上だよ」

「そうなんだー」

健太郎は納得って顔をしながら頷く。

「この前夜会った時にお酒飲んでたでしょ。よくお店でお酒飲めたよなって思ってたんだ。それに他の子に比べて大人っぽいし、落ち着いてるって言うか…雰囲気が違うって思ってたんだ。だから…子供なんか相手にしないって感じの佐藤さんに声をかけられた時ドキっとしたんだ」

大人っぽい、落ち着いてる…!?。イメージガタガタに壊しちゃったかもね。

健太郎も最初のイメージとはちょっと違ったかも。セクシーな声のようにもっとクールな感じだと思ってた。

お互い様かぁ、2人とも大学でのイメージとは違ってて…。

お店の前で健太郎と別れる。

「それじゃ、大学で。自主トレ忘れないでね」

家に帰って計画書を作りながら健太郎のことを思い出した。

ソファにうずくまって耐えてる姿…。

それまでしないと本当にいけないのかなぁ。全ての女の子がグルメ嗜好とは限らないと思うんだけど…。

カップヌードルでもいいって言ってくれる子だっているかもしれないし…。

私だったらどうだろうか…うーん…。