Delicious Main 9
Main 9
ゼミの関係で断れなかった温泉旅行…憂鬱…。
その原因…健太郎も一緒。
ずっと一緒にいたら、付き合ってないのバレちゃうかもしれない…。
それに…ラブホに呼び出された時、健太郎が言ったこと…。
" 僕は嫌だった。クラスの女の子からナオが外国人の男とホテルに入っていくのを見たって聞いた時…"
それってどういうつもりで言ったのかなぁ…。
あの時は細かいことにまで気が回ってなかったから。
私はどうだったんだろう…健太郎が女の子と寝たって聞いて…。
驚いたことは確かだけど、でも逆に安心したっていうのが本音だっただろうか…。
トラウマになってできなくなっちゃう…なんてことにならなかったということで。
「ナオ、なに黙ってるんだい?もうすぐ着くみたいだよ」
健太郎に声をかけられて、電車に健太郎と座っている現実に引き戻された。
「ごめん。ちょっと考え事してた。今年も残すは今月だけになっちゃったって」
そうなんだよなぁ…12月…。
「ナオ…10分だったよね、僕達の目標。クリスマス前に余裕で達成できそうだね」
健太郎が耳元に唇を寄せて囁く。
こんなところでもう…。
「あっ、駅に着いたようだね。降りないとっ」
席の上の棚に乗せた私の荷物を健太郎が降ろしてくれる。
そっか…。もうすぐ目標達成…。そしたら健太郎との契約も終了…。
そしてクリスマスかぁ…。私は誰と過ごすんだろう…。
旅館のフロントで幹事の子が困った顔をしてる。
" なんかオーバーブッキングなんだって "って話してる声が聞こえた。
部屋が足りないのかなぁ…皆で雑魚寝でも私は気にしないんだけど…。
それより早くお風呂に入りたいよー、ここに来るまで寒かったんだもん。
やっと幹事の子が戻ってきた。
「オーバーブッキングでどうしても部屋数が足りないんだってさぁ…お願いですって頼まれちゃって…人助けということで皆にも協力してもらいたいんだけど。もちろんそのお礼はあるよ。お料理をアップグレードしてくれるんだって。それからそこのカラオケバーの無料チケットももらったから。ということで…女の子と男の子に各一部屋ずつね。定員いっぱいに詰め込んじゃうようだけど、それも修学旅行のノリでかえって楽しいかも…。夜ご飯は7時に宴会場桜の間、それまでは自由行動ってことでよろしく!では解散でーす」
まあ、皆で楽しくってのもたまにはいいか。それにこういう機会に皆と交流しておくのも大事だろうし。
健太郎に手を振って他の女の子の後について歩き出した私の腕を幹事の子が掴んだ。
「佐藤さん、ちょっと…それから高橋君も」
なんだろう…
他の皆は私達のことなんか気にせずエレベーターに乗って行った。
それを見届けて幹事の子が言った。
「あのぅ…部屋のことなんだけど。1つの部屋には皆一緒に収まらないのよ。どうしても2人溢れてしまうんだよね。それでもう一部屋もらってるんだけど…それが洋室でダブルなのよ…」
ダブル?ってことはベッド1つしかないでしょ!マジ?
「私達の中でダブルの部屋に入れそうなのは高橋君と佐藤さんの2人しかいないんだよね。でもそのほうが2人もうれしいんじゃないかって思うんだけど…どうかな?」
やっぱりこんなことになってしまった…。
嫌な予感がしてたんだよなぁーまったく。
「大丈夫、皆には上手く言っておくから。無理矢理お願いしたって」
私が困惑してるのを見て幹事の子はそう言った。
「了解!僕達も協力しないとね。でも皆には誤解ないように上手く説明してね。2人だけ特別って皆に思われるのはマズイから」
健太郎!そんなにうれしそうに返事しなくても‥。
幹事の子はホッとした表情を浮かべて健太郎に部屋の鍵を渡した。
「オッケー!じゃあ後で…」
そう言って走り去る幹事の子の後姿を見送って私は溜息をついた。
健太郎と一晩一緒かぁ…ちょっと複雑な思いが…。
「ナオ、さあ行こう。お風呂に入りたいんでしょ?急がないと夕食までに間に合わなくなるよ」
そうだったー、お風呂に入りたかったのよー、私は。
そしておいしいものをいっぱい食べて、カラオケで盛り上がって…のはずが。
「ナオ!早く!エレベーター閉まっちゃうよ」
健太郎に言われてエレベーターに飛び乗った。
そしたらブーッツ!ブザーが鳴って停まってしまった。
まずいー。勢いよく乗りすぎたかも…。
係りの人が緊急停止を解除してくれてエレベーターはまた動きだした。
「ナオ、そんなに喜ばなくてもいいんじゃない。エレベーター止めちゃうくらい」
クスクス笑う健太郎に見つめられて私はエレベーターの角に縮みこんだ。
「そんなんじゃないってば…健太郎のイジワル…」
部屋の真ん中にドーンと見えるベッド。
やっぱりダブルなのねぇ…溜息が出てしまう…。
でも健太郎はそんなことお構いなしに部屋に付いているバスルームや冷蔵庫をチェックしてる。
「たいしてラブホテルと変わらないよ、カーテンやベッドカバーの色が地味なくらいを除けばね」
健太郎にあっけらかんと言われて、意識しすぎていた自分が恥ずかしくなった。
そうだよね。私達には恋愛感情は無いんだから…。
一晩添い寝しても問題なんか無いんだから…。
「お風呂行ってくるね。遅かったら先に宴会場に行ってていいよ」
「ナオ、それだったらお風呂まで一緒に行こうよ」
健太郎は素早くお風呂セットを掴んで嬉しそうに部屋のドアを開けた。
ハハハ…もうどうにでもなれだー。行くよー、健太郎!
男湯と女湯の暖簾の前で健太郎と別れて中に入る。
夕食前で混んでいる更衣室に一緒に来た仲間を見つけた。
「あっ、佐藤さん!お部屋、別って幹事さんから聞いたよー。ちょっとざんねーん!
いろいろ聞きたいこと、あったからー。でも私達の部屋に遊びに来てよね。ちょっとだけでいいからっ」
ハイハイ、しかし…なんだろう…。曖昧に頷いて急いで裸になった。
その私の体を横目でちらりと見る女の子達から逃げるようにガラスドアを開けて大浴場に滑り込んだ。
ふーっつ。今頃言われてるんだろうなぁ…。
胸垂れてるとか…毛深いとか…お尻が大きいとか…いろいろと…。
温泉は好きだけどこれだけはなかなか慣れない。
実際本人が気にするほど相手は気にして無いのかもしれないけど…。
さっさと体を洗って浴槽の1番奥の方に体を沈める。
あーっ、気持ちいいっ。
今頃、男湯の健太郎も裸でお風呂入ってるんだろうなぁ。
ゼミの男の子達と一緒に…。
うっ、のぼせてきた。
「のぼせそうなのでお先にー」
体を洗い終わって浴槽に入ってくる女の子達に声をかけて,少し冷たいシャワーを浴びて更衣室へ。
なんか慌しかった。もっと人に気兼ねしないでゆっくり入りたいなー。
そうだ、夜遅くにでもまた入りに来ようっと。
着替えを済ませて暖簾をくぐったらそこに健太郎がいた。
「健太郎、私を待っててくれたの?」
「うん、でも僕もちょっと前に出たばっかりだから」
ほんとかなぁ…ちょっと湯冷めしてるって感じだよ。
「どうだった?女湯のお風呂って?」
「う、うん、広かったかな。ところで健太郎は?ゼミの子達いた?」
「うん…」
「わかった…いろいろ聞かれたでしょ、部屋のこと。私も聞かれたもん。幹事の子、ちゃんとうまく説明してくれたのかなぁ…ほんとに…」
健太郎も聞かれちゃたんだぁ。そうだよね、私達だけ部屋別なんだもん。
「後で部屋に来いって言われたんだ。行かないとマズイよなぁ…」
「私も言われたから、お互いちょっとだけでも行ってきたほうがいいかもね」
これはいい…これで健太郎と2人だけで部屋にいる時間が短くなるし…。
でも…どうしてこんなに健太郎を意識しちゃってるんだろう…私。
おかしい…。
もう食べられない…浴衣の帯を緩めながらお腹をさする。
はしたないなぁーと思ってもどうしようもない。
旅館の人が約束したように私達に用意された夕食は超豪華だった。
とっても食べきれない数のお料理…。
いくら育ち盛り(ちょっと過ぎてるかも…かなり?)の私達でも無理、無理。
皆も宴会場の畳の上に横になってフーフー言っている。
「ねえ、この後どうする?カラオケ行くー?」
幹事の子が重そうに体を起こして皆に聞いた。
「じゃあ…もう少し休憩してから下のバーに集合ねぇー。では解散!」
幹事の子のかけ声で皆立ち上がって部屋に戻って行く。
あーあっ、私も行かないとマズイよねー。
もう…体が重くて立ち上がれないよー。
「ほら、手をかして。引っ張ってあげるからさ」
健太郎、ありがとー。
手を差し出して引っ張ってもらう。
「こんなになるまで食べるかなぁ?ナオって量より質だったよね」
「だって、おいしかったんだもん。おいしいものはいくらでも入っちゃうんだよ…でもやっぱり食べ過ぎたかも…グプッ」
「しょうがないなぁ、部屋に胃薬があるから飲んだほうがいいよ。でも部屋まで大丈夫?」
健太郎に支えられながらエレベーターに乗る。
なんか笑ってる…健太郎。
「今度は食べ過ぎの重量オーバーでブザーが鳴っちゃうかもよ…」
ひどーい。そんなに重くなってないってば。どうして今日はそんなにイジワルなの…。 私、またなんかしたのかなぁ…。
食べ過ぎて頭に酸素が回ってないのか考えれない。
部屋に戻って健太郎からもらった胃薬を飲んでベッドに横になった。
ちょっと楽になったみたい。
「もう大丈夫だから健太郎は皆とカラオケ楽しんできて」
「僕はいいよ。ナオのことも心配だし…」
「でも2人とも行かなかったらまた女の子達からなにか言われちゃう。ゼミ関係の子達と面倒くさいことになりたくないの。それは健太郎も同じでしょ。だから健太郎は私のためにも行って来て、お願い」
しぶしぶ部屋を出て行く健太郎に手を振って目を閉じた。
お腹もいっぱいで今度は眠くなってきちゃった。
健太郎もいないことだし、ちょっと寝ちゃお。
うーん、今何時だろう?時計を見る、11時過ぎ…。
健太郎はまだ帰って来て無いみたい。
あーっ、よく寝た。
お腹の調子もすっかり良くなってる。
どうしよう…カラオケ、のぞいてみようか…。
でも面倒くさいなー。
かと言ってここにいてもなにもすることないし。
そうだ、お風呂に入ってこよう!さっきあんまりゆっくり入れなかったから。
そうしよう。
はだけた浴衣を調えて部屋を出た。
ラッキー!あんまり人がいない。それにゼミの子も。
ゆっくり入れそー。
ちょっと気合を入れて体洗っちゃおかな…普段家ではほとんどシャワーだけだし。
それにいろんなボディソープが並んでてこれ全部試してみたいかな。
ゴシゴシ足の先から擦り始める。
やっと体全体を洗い終えた時にはお風呂場には私しか残ってなかった。
「あれーっ、誰もいないー。まあいいか、貸切、貸切」
誰もいない貸切状態の浴槽で体を伸ばす。
「気持ちいいー」
今頃、健太郎はカラオケ歌いまくってたりして…健太郎ってどんな曲が好きなのかなぁ。
ちょっと聞いてみたい気もするけどね。そんなことはいいとして…またのぼせてしまったかも。
でも、もう少し入ってよ。だって今部屋に戻ったら健太郎が帰ってきちゃってるかもしれないし。
頭に手ぬぐいを乗せて浴槽の端から見える外の景色に顔を向ける。
お母さんを温泉につれてきてあげたいなぁ。
おいしいお料理をいっぱい食べて、お風呂に入って。背中流してあげるんだ。
お母さん…。
あれっ、ちょっと体がヒリヒリする。さっき擦りすぎたのかも。
そろそろ出たほうがいいのかも。
まずい、ちょっとくらくらする…かなりのぼせてる。
フラフラと更衣室まで歩いていくその距離が長く感じた。
そしてガラスドアを開けて更衣室の中に入り、自分のタオルを掴んだ。
ふーっ、アブナイ、アブナイ。こんなとこで倒れてられないよね…。
タオルを体に巻いて頭を上げた瞬間、目の前が真っ暗になった…。
あーっ…。
あれ、私…今どこにいるんだろう…。
天井が見える。
ここって更衣室?
違う…、私…誰かの部屋に寝かされてるー。
どうして?飛び起きたら頭に鋭い痛みが…。
「イタタ…」
「ナオ、気がついたんだ?でもまだ横になってたほうがいいよ。もう…心配したよ」
健太郎の顔が見える…。
ということはここは私達の部屋?
さっき痛かった頭を触ってみたら大きなコブができていた。
「あれー、なんだこれ」
「ナオ…お風呂で倒れてたんだよ、その時に頭をぶつけたみたいなんだ。 どうしてそんなにのぼせて倒れるまでお風呂に入ってたの?」
私は健太郎に寝かされて天井を見つめた。
「お風呂場で倒れた?うーん、記憶無いなぁ…」
「ナオっ!旅館の人が倒れてるナオを見つけて僕に連絡してくれたんだ。カラオケが終わって1度部屋に戻ったらナオがいなくて…ゼミの子達の部屋にでも行ってるのかと思ってた。部屋で待ってたら係りの人が大慌てでやってきて、ナオが倒れたって聞いて心臓が止まるかと思ったよ。係りの人とお風呂に走って行ったらナオがでーんと大の字に倒れてて。気をきかせて仲居さんが浴衣をかけてくれてたからよかったけど、超びっくりだったよ。でも…ただのぼせただけでよかった」
健太郎は私の横に座って冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを私の口に寄せた。
「ほら、水分取らないと。それにもう少ししたら水枕を新しいのにかえてもらうから。頭のコブも冷やさないとね。ほんと心配かけるよなぁ…ナオは」
黙ってミネラルウォーターを飲ませてもらいながら健太郎の顔を見つめた。
そう、この笑顔を見てると心がホッとするんだよなぁ…。
「健太郎の手、冷たくて気持ちいいよ」
私の頬を優しくふれる健太郎の手に自分の手を重ねた。
「健太郎、そんなに優しくしないでよ…私、甘えちゃうよ…」
自然と涙が流れていた…バカ…!なんで泣くのよ!
泣いてる顔なんて見せられないよー…。私は手で顔を隠した。
「ごめん…変だよね、こんなことで泣くなんて…もう…健太郎、ゴメンね。酔っ払ってるんだよ…気にしないで…」
「…ナオ…、話して欲しい…。心の中にしまい込んでいるナオの気持ち…僕達…友達じゃないか…」
健太郎は顔を隠す私の手を優しく掴んで涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を覗き込んだ。
「…健太郎…、私…、私…」
背中に腕を回して引き寄せた健太郎の胸で私は泣いた。
長湯してのぼせてしまった原因は健太郎以外にもあった。
この旅行に出る前に母親から彼氏と再婚を考えてるって聞かされた。
笑顔で祝福したいのに、心のどこかで嫌だと思う自分がいることが悲しくて…心が混乱してた。
それに加え、音信不通だった父親からカードが届いた。
今更なんで…今までなにも無かったのに…。
そんなことを考えていたらのぼせるくらい長湯していた。
…私の気持ち…聞いてくれるんだよね、健太郎…。
私がどうして恋愛…男の子に対してドライなのか…。
離婚した父親の影響…かな。
小さい頃は優しくて大好きだった。
その頃の両親はすごく仲が良くて私も幸せだった。
なのに、父親が浮気して。
まあ、お決まりのバターンだよね‥。
喧嘩、怒鳴りあい、泣き叫ぶ母親、弁護士…離婚調停…。
それでも父親は私に対して変わらず優しかった。
けど母親を裏切った父親をどうしても許せなかった。
そのトラウマなのかな…恋愛、男の子に対してなんの期待もない。
添い寝をするように寄り添って私の髪を優しく撫でながら聞いてくれる健太郎…。
その腕の中で優しく波打つ健太郎の胸の鼓動を感じながら私は話を続けた。
「私、自分の存在ってなんなのかわからなくなる時がある。なんのために生まれてきたんだろうって。私は愛されたかった。小さい頃と同じように…ずっと変わらず…」
私の髪をなでる健太郎の腕の動きが止まった。
そして…健太郎は私をぎゅっと抱きしめてとっても優しい声で言った。
「ナオ、お父さんとお母さんが本気で愛し合って誕生したのがナオなんだよ。君は愛されて生まれてきたんだよ。それはこれからもずっと変わらない」
「健太郎…」
あんなに泣いたのに健太郎の言葉でまた涙が溢れ出した。
「ナオ…って泣き虫だったんだね!ワンダーウーマンのように強いナオしか知らなかったから」
もう…こういう時にも笑わせてくれるんだから…。
私、泣き虫なんかじゃない…健太郎が優しすぎるから悪いんだよぉ…。
「あっ、笑った。というか泣き笑いか…」
泣きすぎて目が腫れてる…。ちゃんと冷やさないと明日の朝、とんでもない顔になっちゃう。
タオルを取りに行こうと体を起こした私の肩を健太郎が抱いた。
「まだ動かないほうがいいよ。なにが欲しいの?僕が取ってくるから言って」
そんなに甘やかすと後で大変だよー、いいのかなぁ
「目を冷やすタオルが欲しいの、お願いしてもいいの?」
健太郎はもちろんって顔をしてベッドから降りると冷蔵庫に冷やしてあったタオルを私の顔の上に乗せて言った。
「ナオ、お父さんからカードが来たんだよね。今までずっとなにも無かったのに…。ナオ…君の知らない事情がお父さんとお母さんの間にあるのかもしれないよ…。ナオも成人したんだ、知る権利はあると思う。ナオ、大丈夫だよね」
健太郎が言うように突然父親からカードが届いたのはなにかありそう…。
それって母親の再婚と関係があるのかもしれない。
健太郎が私の頭を抱き寄せてコブのあたりに冷やしたタオルを当てた。
「ナオには僕がいるよ。あんまり頼りにならないかもしれないけどね。でもこうやってナオを抱きしめることはできるから」
なんかいつもと逆みたい…。
今日は私が健太郎に甘えてる。
ごめんね…今日だけは思い切り甘えさせてもらおうかな…。
だって、健太郎の腕の中がこんなに心地いいなんて…。
健太郎の腕の中でこんなにも心が穏やかでいられる…。
「健太郎…。お願いがあるの…。私が眠るまで抱きしめていて…」
そう言って私は健太郎を見つめた。
「ナオ…安心して目を閉じて…」
柔らかい健太郎の唇の感触を額に感じた。
健太郎…ありがとう…。