Delicious Dessert 11
Dessert 11
ふーぅ…飲みすぎたかもしれない…というか飲みすぎた。
始発の電車に乗って家に帰って来た。
健太郎のお祝いに付き合ってたんだけど、結構盛り上がっちゃったから。
カラオケに行って思いっきり歌ったような…それも健太郎とデュエットなんかしちゃったりして…。
イタッ…頭がガンガンする。
ラッキーなことに講義は午後から…。ちょっと寝ないと駄目かも。
うわーっ、寝過ごした!急がないと遅れるー。
滑り込みで講義には間に合った!
でも、二日酔いの体にムチを打って無理矢理走ったおかげで頭の中の回路はぶつぶつに切れちゃったみたい。
講義の内容なんてぜんぜん覚えてないよー。
体の方も軟体動物のようにフニャフニャ…よく椅子から転げ落ちずにいれたもんだわ…。
ほんと、バイトが無くてよかった。
こんなんじゃとっても授業なんて出来なかったもの。
今日はさっさと家に帰って寝よう…。
そう思いながら大学の構内を歩いていると清々しい顔をした健太郎に遭遇した。
なんでそんな顔をしてられるのよー。
健太郎だってあんなに飲んだでしょー。
「ナオ、大丈夫?なんかすごい顔してるよ」
すごい顔って誰のせいでこうなったと思ってんのよー。もう!
「ちょっと質問なんだけどー。どうして健太郎はそう清々しい顔をしてられるわけ?あんなに飲んだじゃん?!人間じゃないんじゃないの…ほんとは」
健太郎はクスクス笑いながらカバンからなんかの薬とボトル入りの水を取り出した。
「ほら、二日酔いの薬。まだ飲んで無いでしょ」
確かにまだ薬は飲んで無かった…というかそんなこと考える暇なかったもの。
講義に遅れそうになって慌てて出てきたんだから。
「ありがとう。でもなんで薬まで持ってるわけ?」
薬までもらってるくせにそういうことを言ってしまう。
「ナオが必要じゃないかなって思ったから持ってきた。それに最初の質問だけどね。こう見えても結構強いんだよ、お酒。あれくらいじゃあ二日酔いにはならないかな」
そうなんだー、また健太郎の意外な一面が…。
それより…。
もう別れたことになってるんだから…あんまり仲良くし過ぎてると健太郎に女の子達が寄って来なくなっちゃうよ。
そんなこともお構いなしに健太郎は私の背中を摩ってくれたり、いつもと同じように優しい…。
でも…このままじゃいけないよね…。
健太郎にもらった薬が効いたのか朝には元気になっていた。
いやー若いっていいもんだわ。歳を取ったらこうもいかないよね。
なーんて、朝からオバサンくさいことを考えながら家を出た。
大学に着いて講義がある建物に近づいてびっくり。
健太郎の周りに女の子達が…。
さすがだわー、あの子。
昨日、大学で1番おしゃべりと噂される彼女と話をした。
健太郎に振られてしまったと。
二日酔いでボロボロだった私の姿が丁度よかったみたい。
私と健太郎が別れたという噂はあっという間に広まったようで、同情のこもった皆の視線が私に向けられる。
これでいいんだ…健太郎がしたかったことだもの…。
" 見返したい!"そう言ったよね。
がんばってよ。そしてもっとイイ男になってね、健太郎。
講義が終わった後、女の子達に囲まれてうれしそうな健太郎を横目で見ながらバイト先に向かった。
「どうしたの、さっきから溜息ばっかり。健太郎のこと?それとも電車の彼?」
「ジェシー!違うってば…私は健太郎のこと恋愛対象としてみて無かったし‥電車の彼とは会いたいなって思ってるけどその後なにも無いし…」
「健太郎を恋愛対象として見てなかった?ってことは過去形で今はどうってこと?」
ジェシー!追求厳しすぎる!
でも大学で皆言ってる…健太郎…素敵になったって。
私もそう思う…。
「ねえ、ちょっと惜しいと思ってない?ナオミが育てたようなもんじゃん。それを他の子に持っていかれてもいいのかなぁ?」
「それは違うよー。第一、健太郎はモノじゃないんだから…持って行かれるとか…そういうの嫌だよ。私は、健太郎が幸せだったらそれでいいんだから。だってトレーナーだったんだもの」
ジェシーは真っ直ぐ私の瞳を見て言った。
「表現が悪かったね、ごめん。ナオミがそう言うなら僕はもうなにも言わないよ。さっ行こうか、授業が始まるよ」
ジェシーの後姿…私のことを心配して言ってくれるんだよね、ありがとう…。
あれから一週間が経った。
健太郎の周りにはいつも女の子達が。
それを見ていてうれしい気持ちと、そうじゃない別の気持ちが存在することに溜息が出る。
私、どうしちゃったんだろう。
こんなに自分の気持ちがわからないなんてこと、今まで無かった。
もう…詰まるところ…健太郎を好きか、そうじゃないかなのに。
どうしてはっきりしないんだろう…。
考えてみた…。
思い当たるのはやっぱりあのことかも…。
興味本位で健太郎を誘ってホテルに行ったこと…。
どうにも言い訳できないよね。
最初の動機が不純だったんだもん。
それを今になって…好きかも知れないなんて…そんなこと。
私は言えないよ…だからだと思う…。
でも…
ちゃんと健太郎に話しておいたほうがいいのかもしれない。
こんな気持ちを引きずっているよりは…。
始まりから全てを…。