Delicious Dessert 15

Dessert  15

  

窓からカラフルなクリスマスの飾り付けが見える。

その中を肩を寄り添って歩くたくさんのカップルの姿が…。

そうなんだよね、今日はクリスマスイヴ。

世の中はラブラブモード一色でなんかムカつく。

私はバイト…。

イヴを過ごす相手もいないから休みを取った同僚の分も働いてる。

でも、こういう日なので授業もあまり入ってなくて次のでおしまい。

この後どうしようかなぁ…。

ジェシーもこの前逢ったばかりの彼氏とデートでお休みだし。

ジェシーったら昨日も私のことを心配してた。

" ナオミ…本当にいいの?なんだか僕だけ休むの心苦しいよ。やっぱり付き合うよ。ナオミを独りにしておけない "

" 私は大丈夫だってば!せっかく素敵な人見つけたんだもん、デートしてきてよ。そのかわり後でちゃんと報告してよね "

心配かけちゃってるんだよなぁ…しっかりしないと。

" ねえ、ナオミ…後悔してないんだよね。僕にはナオミの本当の気持ちがわかる…。健太郎に会ってみたらどうだろう…。今だったら彼も落ち着いてナオミの話を聞いてくれると思うよ。僕はナオミのこんな姿、見ていたくないんだよ "

ジェシー…私だって健太郎に会って全てを伝えられたら…そう思ってる。

でも…もう遅いんだもん。かなり嫌われちゃってる。

" ジェシー、もういいの。そのことはもう心の整理がついてるから…。だからジェシーは心配しないで、デートに行ってよ。私の分も楽しんできてね "

心の整理がついてるなんて大嘘。ぜんぜん大丈夫じゃないけど今更…。

自分がこんなに引きずるタイプだとは思わなかった。

それほど好きだったのかな…健太郎のこと。

無理に過去形にして自分の気持ちを心の奥のほうへ押し込む。

レッスン開始のブザーが鳴った。

さあ、元気にいってみよう!

 

やっぱりなぁ…ここもそうだよね。

真っ直ぐ家に帰るのが面白くなくて、バイトの帰りにいつものバーに寄ってみた。

皆カップルになっちゃっててさ。

イヴだからってそんなにイチャイチャしなくたっていいんじゃないのよー。

自分に相手が居ないから全てのカップルが憎らしく見える。

そんな中で飲んでても楽しくない!

もう帰ろう。

盛り上がってきたバーを出て駅に向かった。

繁華街を歩きながら健太郎と出逢った頃のことを思い出す。

そう言えば風邪薬とアルコールを混ぜちゃってフラフラしながらここを歩いてた。

そこを健太郎に掴まったんだ…。なんか遠い昔のことに感じるなぁ…。

たった3か月前のことだったのに。

あれっ…どうして。

私、泣いてる…。

もうバカっ。こんなとこで泣いてどうするのよ。

人の波に逆らいながら横道に入る。

拭いても拭いても流れてくる涙で前が見えない。

やっぱり…私…健太郎が好きなんだ…。

好きでたまらない…。

溢れ出る想いが抑えきれず倒れそうになった私の体を誰かが支えた。

「酔ってるの?少し休んでいったほうがいいんじゃないかい?それともまた風邪薬?」

振り返れない…もしこの声の持ち主が別の人だったら…。

その人はそんな私の肩を優しく抱いてゆっくり振り向かせる。

私は思わず閉じてしまっていた目をゆっくり開いた。

そして私の目の中に健太郎の笑顔が飛込んでくる。

信じられなくて言葉が出ない。

「彼女と一緒じゃなかったの?」

やっと口から出た言葉がこんなこと…もう。もっと他に言うことあるのに。

健太郎が私の頬に伝わる涙を指で拭き取る。

「ふられた…」

「ふられたって…そんなことないと思うよ。だって健太郎‥素敵になったし…」

健太郎がふられる理由なんて、そんなの無いって私は思うのに。

「ぜんぜんその気になれなかったんだ。そしたら彼女、怒って帰っちゃった」

もう、そんなの当たり前じゃん。イヴにその気になれないなんて…。

「健太郎、そんなの可哀想だよ。彼女に電話して謝ったほうがいいよ、早く…」

「その気になれなかったことはちゃんと謝ったよ。僕には好きな子がいて、その子じゃないと駄目なんだ…だからって」

「そんなことまで言っちゃったの?それでよく無事に済んだわね」

「いや、平手打ちを食らった。バシッバシッって何度も。かなり痛かったよ。女の子って遠慮ないよね、こういう時って」

飄々と言いながら頬を摩る健太郎の姿に不謹慎にも思わず頬が緩んでしまう。

こういうとこは変わってないのね、健太郎。

「あの子には本当に悪かったと思ってる。無責任にイヴデートなんかしたこと。でも僕は、ナオじゃないと駄目なんだ。他の女の子達と付き合っていてもぜんぜんうれしくなかった。ナオと一緒の時のような気持ちにはなれなかった」

「私…ごめんなさい。初めての時‥」

私が本当のことを言い出そうとした時、健太郎が私の唇を指で押さえた。

「謝るのは僕のほうだよ、ナオ。女の子達の言葉をうのみにしたこと。ナオがそういう子じゃないってことわかってたくせに…ナオだけに怒ったりして」

「でも…私…」

「わかってるよ。ジェシーから全て聞いた。それに…ナオの気持ちも…」

私の気持ちって…。ジェシーから聞いたって…どこで?

あっ…。

不意に体を抱きしめられて、ますます頭の中が混乱する。

「ナオ…好きだよ。僕が欲しいのはナオだけだよ」

健太郎のその言葉を聞いて、頭の中からモヤモヤが消えた。

そして…、心の奥に押し込めたほんとの気持ちが素直に言えた。

「私も健太郎が好き…一緒にいたいのは健太郎だけ…」

それで十分というように私の言葉の続きを待たず、健太郎は私を抱きしめる腕に力を入れた。

息ができないくらい抱きしめられて、ちょっとふらっとした私は体の重みを健太郎に預けた。

「ナオ、少し休んでいこうか。部屋、空いてるみたいだよ」

悪戯っ子の瞳で見つめる先にはあのラブホが。

「今日はもう空いてないって。見間違えだよー。イヴだもん、無理無理」

近くまで行ってみると、健太郎が言ったように一部屋空いていた。

それもあの部屋…。

「これって運命だよ。ナオ!」

うれしそうな顔をして私の手を引っ張る健太郎の後に続いた。

 

「久し振りだよね、ここっ。全てはここから始まったというか…」

懐かしそうに部屋の中を見渡す健太郎の後姿を見つめながら思った。

1番最初は健太郎を置いていったシティホテルなんだけどね。

「ねえ、質問があるんだけど。どこでジェシーに会ったの?」

オーバーを脱ぎながらずっと気になってたそのことを聞いてみた。

「それはね…。怒って帰っちゃった彼女と別れてからブラブラと街を歩いてたんだ。もしかしたらナオに会えるかと思って…。そしたら前からジェシーが歩いてきて…。彼が立ち止まって話があるって。そして言ったんだ、ナオは詳しくは知らなかったよって。他の女の子達のように知っててそんなことしたんじゃないって。僕がじゃあどうしてナオはそう言わなかったのかって聞いたら怒られたよ。ナオはそういう子なんだって。知らなかったとは言え、興味本位だったのは確かだったから。それを誤魔化したりしない…一緒にいてわからなかったのかって…」

ジェシー…。

「僕はナオに酷いこと言ってしまった…。それに知らなかったから…ジェシーがゲイだって。だからナオとジェシーがそういう仲だと思ってたし。でもジェシーにナオのことを聞いてまだ間に合うかもしれないって思って…。ジェシーが教えてくれたバーに行ってたらナオはもう帰った後だった。でもマスターが今出たばかりで、まっすぐ家に帰るようだったって教えてくれたんだ。だから駅までのこの道を走ってきたんだ。そしてナオを見つけた。やっぱり運命的な出逢いなんだよ、僕達は」

そう言えば初めて逢った時も健太郎はそんなこと言ってた。

運命的な出逢いかぁ…。

こんなにたくさんの人が居る中で健太郎のことを好きになるって…やっぱり神様の仕業?

運命でも神様の仕業でも…私は健太郎が好き。

それだけははっきり言える。

「健太郎…、私を抱きしめて…」

「ナオ…」

体全体で健太郎を感じる。

今を生きている。健太郎と一緒に。

明日のことはわからない…。

でも、今この一瞬を健太郎と2人で輝いていたい。

満天の星のように…。

「ねえ、ナオ。イヴの夜にエッチするの、嫌だって言ってたよね。イヴだからって皆がそういうことしてると思うと気持ち悪いって。どうする?」

健太郎にそう言われて時計を見たら真夜中を過ぎていてイヴは終わっていた。

「ナオ、これで大丈夫だよね。もうイヴじゃない…」

まあ…確かにそうなんだけど…。

クリスマスってキリストが生まれた日で、エッチするのとあんまり関係無いような気がするけど…。

「僕達がそうしたいんだ、それでいいんだよ」

そっか、そうだよね。

私達がそうしたいからそうするんだよね。

「ナオ、もう待てないよ」

健太郎が私を抱えてベッドに向かう。

「健太郎…、なんか思い出しちゃう。ここでぐっすりと寝ちゃったんだよね…私。今日はちゃんと起きてないと…」

「風邪薬飲んで無いでしょ、今日は。じゃあ、大丈夫だよ」

そう言って健太郎が私をベッドに横たえた。

そして自分のセーターを脱ぎ捨てて、私が着ているセーターを捲り上げた。

「なんか恥ずかしいよっ。健太郎に脱がされるなんて…自分で脱いでもいい?」

自分で脱ぎ始めた私の腕を健太郎は掴んだ。

「駄目だよ。僕の手でナオを裸にしたい…」

私からセーターを脱がした健太郎の手は次にシャツのボタンを外し始めた。

そして繋ぎとめておくものが無くなった私のシャツの前をゆっくり開く。

健太郎はふーっと溜息をついて私の胸に顔を埋めた。

「ナオ…ここがもう耐えられないくらい…痛いんだ」

自分の心臓のあたりに私の手を添える。

健太郎の心臓の音…、速くて…そしてすごく強い。

「健太郎…」

私は健太郎の柔らかくて、とってもキスが上手になったその唇に自分の唇を重ねた。

そして私達はどうやって脱いだのかわからない服を投げ捨てて抱き合った。

「もう、やんなっちゃう…」

「どうしたの?僕がなにかしたかな…」

「ごめん、健太郎じゃないの…。これっ!」

怪訝そうな顔をしている健太郎に腕時計を振って見せる。

どうしても習慣で見てしまう…。

もうこんなのいらない!

私は腕時計を外して床に投げつけた。

健太郎と私はお互いの顔を見て笑ってしまう。

せっかくのムードも台無し… でも、なんか私達ぽいかも。

「もう必要無いよね、僕達には」

「そうね、じゃあ…健太郎、今までの努力の成果を見せてもらおうかな…」

「言ったね!その言葉、忘れないでよ。朝まで眠らせないから」

健太郎…ほんと素敵になった。

…っていうか元からだったの…私が気付かなかっただけなのかも。

健太郎…You are so delicious!

 

 - The End -