Delicious Dessert 13

Dessert  13

   

健太郎と他人以下の仲になってしまってから何週間が過ぎた。

時間が経てば忘れられるって思ってた…。

なのに…心にポッカリ大きく開いた穴はそのまま。

毎日がモノクロの世界に包まれてしまった。

どうしても心の中から追い出せない。

健太郎を傷つけてしまったこと…。

そして誤解されたままでいることについても…。

私は違うよって、心の中で叫んでる。

でも健太郎には届かない…。

 

「ジェシー、もう泣きたいよぉ」

バイトの後、いつものようにジェシーと休憩室で…。

耐え切れずジェシーに健太郎のことを話した。

正直言って怒られると思った…なにしてるんだって…。

でもジェシーは優しく私の肩を抱いて言った。

「飲みに行こうか。ナオミとデートするのも久し振りだからね」

ジェシーと並んで休憩室を出る。

もう…ジェシー。 知らないよー、今晩はいっぱい飲んじゃうかも。

そしてジェシーのキライな酔っ払いになっちゃうかもしれないんだから。

醜態をさらしても置いてかないでね。

 

いつものバーのカウンターでジェシーに絡む。

「じぇしーってば、聞いてる?ひどいんだよ、健太郎。私が健太郎のこと…笑ってたんだろうって。そりゃね…初めての時にちょっとびっくりしたけど…でも…それが健太郎なんだってわかったから…それで終わりにしようって思って…そのことを人に言いふらしたりなんかしなかった。なのに…。他の女の子達と一緒だって…。顔も見たくないって言うんだよ」

カウンターに平伏して泣き出しそうな私の頭をジェシーが撫でる。

「ナオミはそんな子じゃないよね。時間が経ったら健太郎も解ってくれると思うよ。彼も今はいろいろ在り過ぎただろうから、落ち着いた頃にまた話をしてごらん」

じぇしー。どうしてそう大人なの…私なんかほんと子供だよ…。

「ナオミ、そろそろ帰ろうか。送るよ」

「大丈夫だってば、ちゃんと独りで帰れるって」

椅子から降りて床を踏んだと思った足が縺れた。

「ほらっ、ぜんぜん大丈夫じゃないよ。これじゃあ、ちゃんと家まで送っていかないとね。明日の新聞に載るようなことにでもなったら大変だから…」

ジェシーにしっかりと抱きとめられてその腕の逞しさにちょっとびっくり。

中性的な雰囲気の彼からは想像できないかな。

「じぇしーがこんなに逞しい腕してたなんて知らなかったよぉ…」

クスクス笑いながら答えるジェシー。

「ジムに行ってるんだよ。だから逞しくなったでしょ」

いつの間にジムに通い始めたのかしら…知らなかったよー。

「ナオミには隠せないよなー。実はね…素敵な人に出会ったんだよ。その人に誘われてジム通いを始めたって訳さ」

「それはよかったじゃん、じぇしー。今度紹介してよー。私がチェックしてあげるから。じぇしーを泣かせたりしないような人かどうか、ねっ」

「はいはい、ありがとう。ナオミじゃあ行こうか」

ジェシーに肩を抱きしめられながらお店を出て、駅までの道を歩き出した。

「ねえ、じぇしー!クリスマスの飾り付けが綺麗だね。クリスマスはやっぱり冬かな…。でもたまにオーストラリアの真夏のクリスマスを思い出すよね。暑い中、汗掻きながらクリケットしたり、その後プールに飛込んで真っ青な空を見上げたり…午後はお腹いっぱいで寝ちゃうんだよねー。じぇしーは?クリスマスは帰るの?」

「うん、思い出すよー。でも今年は帰らないと思うから…」

あっ、そっか…。新しい彼と過ごすんだー。

「私、ダディに遊びにおいでって言われてるんだ。でもクリスマスはちょっと無理っぽそうだから新年明けたら行ってみようかなって思ってるの」

「それはいいかもしれない…いろいろあったからね」

ジェシーの胸に顔を埋めてオーストラリアの真夏の太陽の眩しさを思い浮かべたその時…私の肩に置かれたジェシーの手に力が入ったのを感じた。

顔を上げるとそこには女の子と一緒の健太郎がいた。

お互い目を合わせずにすれ違う。

私の体が硬くなったのを感じたのかジェシーが気遣ってくれる。

「健太郎だよね。大丈夫…ナオミ?」

「う、うん。大丈夫だよ、ジェシー」

なんか一瞬にして酔いが冷めちゃった感じ。

ジェシーの胸の中から離れてしっかりと独りで歩く。

さっきまでフラフラしていた足取りも今は大丈夫…ちゃんと歩ける。

「ジェシー、私大丈夫だから。独りで帰れる。もうこの通り…、復活したから…」

ジェシーの前で走って見せる。

「本当に大丈夫なの?いや…やっぱり送っていくよ。心配だから…」

「じゃあ、電車に乗るまで見てて。その先は大丈夫だから…」

電車に乗るまで見届けてくれたジェシーは最後まで私を心配していた。

でも…独りで帰りたかった。

帰らなきゃいけないと思った。

健太郎のことにケジメをつけて、これからちゃんと生きていくためにも。