Love story Chapter one-22

Chapter one -22

  

むうすぐ冬休み~。みんな授業聞いてないって感じだけどね。

省エネのせいで暖房があまり効いてないくて暖房から遠い子たちは寒いんじゃないかな…私の席はちょうどいい感じの距離にヒーターがあるからラッキー。

教室から出たくないよ…次は体育だ…外でサッカーかな… 

窓から見える寒そうな校庭を元気に駆け回っている1年生。

来年の3月が来て今の3年生が卒業してしまったら私達が4月から3年生になるんだなあ。

今までずっと憧れて見てきた上級生がいなくなってしまって、その代わりに私達が後輩から見られる立場になるんだ。

どういう風に見えるんだろう、私達って。

新しく入ってくる1年生に憧れられるような先輩になりたいな。

あっそうだ、クラス分けってどうなってるんだろう。

進学のクラスと就職のクラスに分かれるんだろうけど、ジャックはどうするんだろう。

来年一緒のクラスじゃなかったらちょっと淋しいかも。

そう思ってチラッとジャックの顔を見たらジャックもこちらを向いた。

イジワルそうに細めた目が言ってるような。

"授業中まで見つめるなよな…"

私も同じように眉を片方上げて目を細めた。

"うぬぼれないでよね"

ふっと気がつくとそんなことをしている私達を祐美が仕方無いなーという目で見ていた。

祐美とは私のバースデーパーティーからちょっと気まずい。

祐美がジェイムズのことを好きなのはわかってる、協力しなきゃとも思ってる。

でも祐美はそんな私にイラつきを隠さない。

「ねえ、えりってレストランとかで何か頼む時、いつも時間かかるほうだよね」

「うん、そうだね。じっくり決めたいって感じかなあ」

「でもそれって一緒にいる人をイラっとさせる時もあるよね。特に急いで食事したい時とかさ。側で見てて、さっさと決めなさいよーって言いたくなることもある」

「でも、祐美のように自分の欲しいものがいつもはっきりしてるわけじゃないから、私は」

祐美は私の言葉の意味を理解したようでふっと溜息をついた。

「私ね、嫌な子なんだよ。体育祭の時、えりの借り物競争であの質問を出したの私なの。ジェイムズかジャックか、えりがどっちを選ぶか見たかったから」

「そうだったんだ…」

「それに今、ものすごく嫌なことしてる、親友のえりに」

そんなことないよ。ひどいことしてるのは私のほうだもん。

祐美にはっきり言えないでいる、自分でもよくわからない。

あの2人に対する気持ちが…

そう言うことしか出来ない自分自身が嫌でしょうがない。

「えり、わかってる。もう少し時間がいるんだよね。でも前にも言ったけどえりとジャックにはなにか感じる。運命っていうか、一緒にいて当たり前っていうか。そうなるのが当然って言うか。私がジェイムズを好きだから言うんじゃなくて2人を見てると本当にそう感じるの。でもえりの気持ちが1番大切だから…」

ごめんね、祐美…

 

学期末テストも終わって明日から冬休み。

みんな最後の授業の終了のベルが鳴るのを時計を睨みながら待ってる。

ベルが鳴った途端待ちきれないというように教室から出て行く子や、また来年ねーと声をかけて行く子。

私は祐美と帰りに喫茶店でお茶をしていく予定だった。

「オマエ、帰るのか」

ジャックが声をかけてきた。

「ねえ、ジャックも一緒にお茶しようよ。祐美とこれから2学期無事終了をお祝いしようと思って」

一瞬どうしようという顔をしたジャックが祐美を見て言った。

「俺が一緒でもいいのか、祐美?」

祐美はもちろんオッケーよと言ってジャックの腕を取って歩き出した。

私は前を歩く2人の後に続いて教室を出た。

喫茶店では窓側のボックス席の片方に私と祐美が一緒に座ってその向かいにジャックが座った。

祐美はジャックの前に座ってじっと見た。

「ねえ、ジャックってどんな女の子がタイプなの?気になる子とかいないの?」

祐美の尋問のような質問が続いた。

「カナダでは彼女いたの?」

私は隣で聞いててハラハラしてしまった。ジャックはそういうこと一切話さない人だから。

誕生日にもらった鶴に書いてあったあのメッセージだってどういう意味だったのか聞いて無いし。

ジャックが怒っちゃたらどうしよう。そんな私の心配をよそにジャックは笑って祐美に答えた。

「そうだな、女の子はみんな好きだ。日本でも向こうでも。俺は女好きだからね。祐美も気をつけたほうがいい」

そう言ってコーヒーを飲み干すと伝票を取って行ってしまった。

「逃げられたなあ。本音を聞けるかと思ったのに」

祐美が残念そうな顔をした。私はジャックの態度が気になっていた。

あれってぜんぜんジャックじゃない…

私はジャックを思って祐美との会話に集中できずにいた。

そんな私に気付いたのか祐美が帰ろうかと言い出した。

「うん、そうだね。また休み中に会おうよ」

ごめんね、でもすごく気になるの、ジャックのことが。

喫茶店で祐美と別れて急いでジャックの後を追った。

もう間に合わないかもしれない、でも走らずにいられなかった。

息が続かなくなるくらいまで走って私は立ち止まった。

ここにいて。

 

「俺を追いかけてきたのか?」

ジャックは河原の土手に座っていた。

言葉が出ずただ頷いてジャックの横に座った。

私は家じゃなくて河原に向かって走った。

だってジャックがそこにいるような気がしたから。

そしてジャックはここにいた。

「馬鹿だな、こんなになるまで走って」

そう言ってジャックは私の背中を優しく撫でた。

やっと息が普通にできるようになって話ができるようになった。

「ジャック、祐美悪気無いんだよ。あの子はいつもはっきりしてるから」

「わかってるよ」

ジャックは私の目を見て笑った。

「時々羨ましくなるの、祐美が。自分の欲しいものをはっきリ言えて。私はいつも時間がかかってしまうから」

そう言って私は俯いてしまった。だって本当に羨ましかったから。

「好きだよ。俺はオマエのそういうところが」

ジャックらしくなくちょっとテレながら言った。

私のそういうところが好きって言ってくれた…

そんなこと誰にも言われたこと無かった。

ジャックはちゃんと私のこと見てくれてるんだ…うれしーな。

言ったジャックも言われた私もテレちゃって2人黙って河の流れを見つめていた。

 

そうだった、ジャック達カナダに里帰りしちゃうんだった。

「ねえ、ジャック。あさってカナダに帰るんだよね。クリスマスのお料理って豪華なんでしょ」

「そうだな、いつも食べきれないほどの料理が並ぶ」

「いいなあ、私も食べてみたーい」

「オマエが見たらよだれが出るぞ」

「じゃあ、帰るの楽しみだよね。それにお友達にも会えるしね」

「そうだな…」

言葉とは裏腹にジャックの表情が曇った。

「日本ではね、大晦日にテレビを家族で見て真夜中におそばを食べるんだよ」

「真夜中にそば?」

「そう、年越しそばって言うんだよ。そばって細長いでしょ、だから長生きできるように願いをかけて」

「じゃあ、スパゲティでもいいのか?」

「うーん、ジャックの場合はそれでもいいと思う。そばだと夜中に食べてもお腹に重くないから、そばのほうがいいんだけどね。向こうで試してみる?」

不思議なことをするんだなーって顔をしているジャック。

『元旦はお母さんが作ったお料理をみんなでお腹いっぱい食べながら、お父さんが年賀状を分けるのを見てたりするんだけど。その後はお腹いっぱいになってみんなお昼ねしちゃうんだけどね」

「なんか、のんびりしてていいな」

『お正月はお父さんが単身赴任先から帰ってくるから、家族みんな揃っていつもより賑やかだよ」

「オマエのお父さんにまだ会ったこと無いよな」

そうだった。お父さんはお隣さんにまだ会ったことが無かった。

「オマエのお父さんってどんな人?」

「そうね、ジャックのお父さんのように仕事が忙しくて小さい頃から離れて暮らすほうが長くて。あまり話したことが無いんだけど。静かで怒ったとこ見たこと無いなー。お兄ちゃんの性格はお父さん似だと思う。私達が小さい頃からお父さんいつも言ってた。お父さんが居ない時はお兄ちゃんがお父さんの代わりだって。だからお兄ちゃんの言うことをちゃんと聞くようにって。お兄ちゃんにはお父さんの代わりにお母さんや翔や私を守れって」

ジャックは黙って私の話を聞いている。

「お父さん、着物が好きだからお正月に私とお母さんが着物を着るようにしてたんだけど、この頃着なくなっちゃった。せっかくだからお正月に着てみようかな」

「オマエも着物を着るのか?」

「うん。お母さんが着物好きだから私にも作ってくれるので結構持ってるよ。この前も親戚の結婚披露宴に着て行ったし」

「見てみたいな、オマエの着物姿」

そんな風に言われるとなんか照れちゃう…

でもジャックはお休みいっぱい向こうに行ってる予定だからどうだろう。

「じゃあ、お正月に間に合うように帰って来ないとね」

私は冗談で言ったのにジャックは真面目に考えてる様子。

「冗談、私の着物姿より向こうでお友達と楽しんで来てね」

ジャックは黙って頷くと立ち上がって手を私に差し出した。

「寒くなってきた。さあ、帰るぞ」

私はジャックの手を掴んで立ち上がった。

ジャック達があさって向こうに行ってしまったら淋しくなるなあ…

ジャックの後ろ姿を見てそう思った。