Love story Chapter two-1
Chapter two -1
坊主も走る師走かぁ…
ジャック達はクリスマス休暇でカナダに帰ってしまった…
カーテンが閉まっているジャックの部屋…淋しいなぁ…1日に何回も見てしまう。
今日は朝からお母さんに強要されて年末の大掃除を手伝っていた。
女の子って損!こういう時は決まって私だけなんだもん。
お兄ちゃんや翔はちょっとだけ庭の片付けをしたぐらいで、中のほうは私とお母さんが担当。
お母さんに文句を言うといつも決まってこう。
「そんなんだから彼氏もできないのよー。お嫁に行けなくてもお母さんのせいにしないでよー」
だって、まったく。
そんなお母さんとの会話を聞いていたお兄ちゃんが私を庇ってくれる。
「えり、心配するな。俺がもらってやるから」
「お兄ちゃん、だーいすき」
と言って私はお兄ちゃんに抱きついた。
「小さい頃からお兄ちゃん、言ってたよね。えりをお嫁さんにしてくれるって。私、まだ覚えてるよ」
私がそう言うとお兄ちゃんはそうだった、そうだったと言って私の頭を撫でた。
「本当にお兄ちゃんはえりに甘いんだからもう」
お母さんはそう言ってプンプンしながら部屋を出て行った。
「でも、日本では血の繋がりがあると結婚できないよね。やっぱりちゃんとお嫁さんにしてくれる人探さなきゃ、ね。お兄ちゃん。」
「そ、そんなの当たり前だろ」
私は何気なく言っただけだったのにお兄ちゃんは顔を赤くして怒ったように言って部屋を出て行った。
取り残された私はいまいち何が起こったのか理解できなかった。
自分の部屋を掃除してるとお隣にタクシーが止まったのが見えた。
あれ、お客さんかな…お隣さんはお休みいっぱいカナダに行ってるはずだから。
でもタクシーから降りて来たのはジャックだった。
それも独りで…どうしたんだろう…
私は心配で家に入ろうとしているジャックに声をかけた。
「ジャーック、どうしたの?帰ってくるの早くない?他の皆は?」
「あー、俺だけ帰って来た。ちょっと用事を思い出して。悪いけど疲れてるんだ、ありがとう」
そう言ってジャックは家の中に入って行った。
ふーん、なんか変な感じだなあ…
でも余計なお世話をして前のように気まずくなるのも嫌だし。
でも気になる!うーん。
ジャックがカナダから帰って来て3日目の朝が来た。
相変わらずジャックの部屋のカーテンは閉まったまま。
もう限界!
また怒られてもいいから今日こそは様子を見に行かないと。
そう思ってジャックの家の玄関のベルを鳴らす。
誰も出ない。
もう一度鳴らす。
外出した様子も無かったのに、いないのかなあ…
そう思って帰ろうとした時にドアが開いて、3日前の服のまま髪もボサボサのやつれた顔をしたジャックがかなり辛そうに言った。
「なんかようか?」
「カーテンがずっと閉まったままだから心配で様子見に来たんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。ほっといてくれ」
ジャックはそう言ってドアを閉めようとした。
私はぜんぜん大丈夫ぽくないジャックをこのまま放っておけなかった。
無理矢理ドアの隙間から中に入った私をジャックはどうにでもしろっと言う顔で見た。
その瞬間ジャックの体が前に崩れて玄関のタイルに倒れこんだ。
ジャックは大丈夫だと言って立ち上がろうとしたので私はジャックを支えるように体の前から抱えるようにした。
重たーい。!やっぱり男の子だよー。私は支えきれずに、かえってジャックに潰されそうになった。
「ただの風邪だよ、こんなに近くにいるとオマエもうつるぞ」
そう言いながら辛そうに私から体を起こした。
「だから早く帰れよ」
そう言って階段を上がろうとした時、ジャックがまた倒れ掛かった。
もう危ないよー。
今度はかろうじてジャックの体を支えてやっと2階のジャックの部屋にたどりついた。
ジャックはベッドに倒れこんで仰向けになると目を閉じてそのまま動かなくなってしまった。
私は心配になって目を閉じたまま動かないジャックの顔を覗き込んだ。
突然ジャックの手が私の頬に触れた。
「こんな姿、エリィには見せたくなかったんだ。それに病気までうつしてしまったら…そう思って我慢してきたんだけどもう限界かもしれない…」
ジャックは気だるそうに目を薄く開けて言った。
私の頬に触れているジャックの手が熱い。
私は自分の額をジャックの額にくっつけて熱を測った。
かなり熱い!すぐに冷やさなきゃ。氷は…
それにジャック着替えたほうがいいかも…3日も同じ服着てたら気持ち悪くて気分的に良くないかも。
いろいろ頭の中にやることが浮かぶ。
ジャックを部屋に残してキッチンから氷を入れたサラダボールと偶然見つけた氷枕を持ってきた。
「ねえ、ジャック。服、上だけでもいいから着替えたら?タンス開けてもいい?パジャマ出すから」
ジャックはもうどうでもいいって感じで洋服タンスの1番目を指差した。
私が開けると思いがけず中身がきちんと整理整頓されていてすぐにパジャマをみつけた。
そしてその横にたたんであるジャックの下着が目に入って私は赤面してしまった。
ジャックはシャツのボタンを外すのも辛そうだったので私がボタンを外してシャツを脱がせた。
中に着ていたTシャツもかなり汚れが目立ったので脱がせるとジャックが目をつむったまま言った。
「そんなに俺の裸が見たかったのか?」
「病人は黙って看護婦の言うことを聞くものよ。ジャックのお母さんにいつも頼まれてるんだから。ジャックをよろしくねって。だから約束を守ってるだけ」
私はそう言って無造作にパジャマをジャックに羽織ってボタンを閉めた。
「どうする?自分で下のほうは脱ぐ?それとも看護婦さんにお願いする?」
私は冗談でそう言った。
「俺は看護婦さんにお願いしたいな」
甘えたように言う意外なジャックのリアクションに私はうろたえてしまった。
「冗談に決まってるでしょ。もう早く脱いで」
そう言って後ろを向いてパジャマの下のほうをベッドに置いた。
ゴソゴソと着替える音がしてジャックが脱いだジーンズが床に落ちた。
私は振り返って落ちたジーンズを拾った。
ジャックは不満そうな顔で私を見たけど、氷枕を頭の下に置いてあげたら気持ちよさそうな表情をした。
頭の上にも氷で冷やしたタオルを乗せてあげるとあーっと息をもらした。
「ねえ、ジャック。薬飲んでる?それとなにか食べたいものとかある?」
「薬は家のどこかにあると思うんだけど見つけられなかった。食べたい物は無いけど喉が渇いた」
「それじゃあ、看護婦さんが薬となにか飲み物を持ってくるからちゃんといい子にしていてね」
私はそう言って1階に下りた。
あまりよその家の引き出しとか開けたくなかったけど仕方ないよね、緊急事態だもの。
そう思って薬のありそうな引き出しを開けた。
ビンゴー!
薬らしきものを発見。風邪薬か頭痛薬みたいなのを何種類か取り出した。
飲ませる前にジャックに確認したほうがいいね、念のため。
下剤なんて飲ませちゃったら大変だし。
次は飲みもの。冷蔵庫を開けるとミネラルウォーターとコーラが一本だけ入っていた。
ミネラルウォーターを取り出してジャックの部屋に戻った。
「ごめんね、ちょっとだけ目を開けてね。どっちが風邪薬かなあ?」
私は風邪薬っぽい箱を手に取ってジャックに見せた。
ジャックは私がそうだと思った箱を指差した。
コールドアンドフルータブレット?
これが風邪薬ってことね。箱の注意書きを読むと大人2粒と書いてある。
アルミフォイルをやぶって2粒取り出してジャックの口に入れた。
ミネラルウォーターを口に含ませるとジャックが薬を飲み込んだ。
「もっと水飲む?」
ジャックはいらないと首を振った。
「冷蔵庫にお水とコーラしかなかったから、もし他のがよかったら後で家から持ってくるね」
私がそう言うとジャックは頷いて目を閉じた。
そしてそのうち薬が効いてきたのか軽い寝息をたて始めた。
眠っているジャックの閉じた瞳の長い睫毛1本1本を眺めているうちに、だんだん瞼が重くなってきてしまった…まずいよぉー寝てしまいそう…
なんだろう…誰かが私の髪を撫でてる。それが気持ちよくて私は思わずうーんと声が出た。
それでハッとして目を開けるとジャックが私の髪を撫でていた。
私は慌ててベッドから体を離した。
「ごめんね、寝ちゃった。看病するはずが寝ちゃうなんて私、看護婦さん失格だなあ」
「でも、その看護婦さんのおかげで少し元気がでてきた、ありがとう」
ジャックはそう言って体を起こそうとした。
「駄目だよ、今薬が効いてるから気分がよく感じるだけ。ちゃんと休まなきゃ」
私はそう言ってジャックの頭の上のタオルを氷で冷やしてからまた乗せた。
「わかったよ。看護婦さんの言うこと聞かないとデカイ注射でもされそうだからな」
うれしそうにジャックがそう言うのを聞いて私は無理矢理でも来てよかったと思った。
次の日、ジャックはかなり元気になっていた。
私が持って行ったレモネードをおいしそうに飲んで大きな伸びをした。
でもまだ微熱があるようで体は温かかった。
本人がシャワーを浴びたいと言うので私はその間にベッドのシーツを取り替えて新しいパジャマを出しておいた。
ジャックはシャワーを浴びた後、新しいパジャマを着てシーツを取り替えたばっかりのベッドに気持ち良さそうに横になった。
氷を入れ替えた氷枕をジャックの頭の下に置いた…えっ…私はジャックに腕を取られて抱き寄せられてしまった…顔近いよ…目の前にジャックの顔が…
「さっき、歯磨きもしたからこれでエリィに感謝のキスができるな」
まだ微熱で温かいジャックの肌がすぐそこにある。
パジャマのボタンが途中までしか閉まってなくて隙間から綺麗な鎖骨から胸のラインが見えた。
昨日はぜんぜん意識してなかったのに今日は変。
私が慌てて体を離そうとしてもジャックにキツク抱きしめられているので動けない。
「観念して感謝のキスを受け取ってくれたらどうだい?」
「結構です。感謝してくれるのはうれしいけど、他のことで示してくれてもいいんだけど、キスじゃなくて」
「他のことってこういうこと?!」
ジャックはそう言うと、体を入れ替えて私の上に乗って自分の体を重ねた。
「なにしてんのよー。熱でますます頭おかしくなったんじゃないの?」
ジャックは私をぎゅーっと抱きしめて叫んだ。
「そうかもしれない。熱のせいだ。俺のせいじゃなく。全て風邪が悪い」
「そんなに熱があるんだったら注射するわよ、超痛いやつ」
「注射でもなんでもしてくれー。俺はエリィの希望通り感謝の気持ちを体全体で示してるんだー」
本当に熱で頭がおかしくなっちゃったんじゃないかと私を心配させるくらい今日のジャックは子供のようだった。
「わかったから、どけてよね。もう、とんでもない患者だわ。カナダのお母さんに言いつけてやるぞー」
子供のような表情だったジャックが一瞬で真顔に戻ってしまった…えっ、どうして…
ジャックはそのままベッドから降りてしまって部屋のドアを開けて言った。
「もう大丈夫だから帰っていいよ、ありがとう」
私はジャックの豹変に戸惑った。
「ジャック、私なにか気を悪くすること言ったかなあ」
私はドアの横に立っているジャックのそばによった。
「エリィのせいじゃないよ。俺が悪いんだ。病気だってのを理由にエリィに甘えてしまった。本当にありがとう。エリが心配してくれるのが嬉しかった。日本に帰ってきてよかった」
笑顔に戻ったジャックはそう言って私を抱きしめ頬にキスをした。
私は玄関まで見送ってくれたジャックにまた明日来るからと言って家に帰った。
自分の部屋に戻ってジャックの部屋を見た。
ジャックもこちらを見ていて手を振っていた。
私はなんだか熱っぽい額に手を当てて思った。
ジャックから風邪もらちゃったかな。ちょっと明日はジャックの所にいけないかも…
その夜、思った通りジャックから風邪をもらった私は熱が出てしまってうとうとしていた…
ジャックが風邪で寝込んでいて私が看病してる…熱でうなされている…
なにか言ってるようで耳を近づけてみると誰かの名前を呼んでいる…
"エミリー"
そう言っているようだった。
そこでうとうとしていた意識が戻ったようで私は目を開けた…
エミリーって誰だろう…
そう言えばジャックが眠っていた時にエミリーって言ったような気がしたんだった。
その時は看病するのに忙しくて気にもかけなかったんだけど、でもやっぱり頭の中に残っていて夢に出てきたのかも…
エミリーかあ…私の名前に似てる…
エリとエミリー…