Love story Chapter two-2
Chapter two-2
私は1年の中で大晦日が1番好き。
だって今年1年あったことを思い出したり、新しい年になにかいいことあるかなーって期待したりして…なんかウキウキしちゃう。
風邪なんかで寝てられない!ジャックからもらった風邪も1日で治しちゃった。
「お姉ちゃん、すごい根性だよ。風邪、気力で治しちゃうんだもん」
翔が怪物でも見るような目を私に向ける。
「小さい頃から大晦日好きよね、えりは」
お母さんがお父さんにお茶を淹れながら言った。
「せっかく家族全員揃っての年越しに寝てられないもん、ねっお父さん」
黙って新聞を読みながら家族の会話を聞いてるかどうかわからないお父さんに話を振ってみた。
「そう言えば、隣のジャック君は元気になったのかい?独りで年越しはかわいそうだな。呼んでみたらどうだ?えり」
お父さんが突然ジャックの話題を出したのでびっくりしちゃった。
「元気になったと思うんだけど、後で聞いてみる。でもお父さんいいの?家族水入らずなのに」
「私は構わない、それに彼に会ってみたいからね」
お父さんがジャックに会ってみたいってどういうことだろう。
お父さんはあまり話さないし、余計なことも一切言わない。
そのお父さんがジャックに会いたいなんて言うのはなにかありそうな気がする。
ちらっと家族の顔を見た。みんな、お父さんがそう言うんだったらいいじゃないっていうような顔をしてる。
ふーん、なんだろう。お兄ちゃんは黙ってお父さんのように新聞を読んでる。
でもよかった、ちょっと心配してたから。これでジャックがうちに来てくれたらみんなで楽しく(?)年越しができるかも。
午後になって私はジャックの所に様子を見に行った。
玄関のベルを鳴らそうと思ったらちょうどジャックが出てくるところだった。
「あっ、エリィ。元気になったのか?これからオマエのうちに行って様子を聞こうと思ったんだ」
「うん、ばっちり元気になったよ」
ジャックは私の回復力に驚いたみたい。
「昨日行った時はまだ熱でうなされてるってリョウが言ってたから」
えっ、お兄ちゃんなにも言ってなかった。ジャックが様子見に来てくれたこと。
「様子見に来てくれてありがとね。だからすぐ治っちゃったのかもね」
私はうれしかった。
「それでオマエはなんでうちに来たの?」
「そうそう、お父さんがね、ジャックが独りでいるのはなんだから、うちでみんな一緒に年越しをしないかって。ねえ、おいでよ」
ジャックはなにか考えてるようだった。
「ジャック、一緒に年越ししようよ、ねっ」
私はジャックの腕を取ってジャックの顔を覗き込んだ。
「わかった。お邪魔することにするよ」
「うれしー!お母さんに伝えてくる!夕方になったら迎えに来るからね。じゃあね、ジャック」
私はジャックに手を振って家に戻ってお父さんとお母さんにジャックが来ることを伝えた。
「ねえ、えり。ジャックなんでも食べられるかしら。ちょっと心配だわ」
「生のお魚以外だったら大丈夫だったと思うけど。それに年越しそばのことも話してあるから食べると思う。お母さん、ありがとう。ジャック嬉しいと思う」
それから夕食の手伝いをしていたらあっという間に夕方になってしまった。
「あっ、そろそろジャックを迎えに行かなくちゃ」
私が慌ててエプロンを外そうとしたらお兄ちゃんが俺が行くと言って出て行ってしまった。
それから少ししてお兄ちゃんはジャックを連れて戻ってきた。
ジャックは少し緊張した感じで中に入ってきた。
「ジャック、いらっしゃい」
大丈夫?ジャック…ちょっと心配して見つめた私に大丈夫だって目で合図してくれた。
リビングルームで翔とテレビを見ていたお父さんがジャックを見て立ち上がった。
お兄ちゃんがお父さんにジャックを紹介した。
「ジャックです。よろしくお願いします」
お父さんを真っ直ぐ見てジャックが言った。
「こちらこそ、よろしく」
お父さんはそう言ってジャックと握手した。
「ここに座ったらいい」
お父さんはジャックに自分の真正面に座るように言った。
なんか彼氏が初めて彼女の家に遊びに来たって感じの緊張感が漂ってるような…
なんか息苦しい…うーん。
男4人、ソファーに座って黙ってるのって異様。
目で翔になんか話すように合図するけど翔もなにを話していいのかわからなそうで困ってる。
もう、仕方ないなあ。
「じゃあ、食事前になにか飲み物でもどう?」
私はやけに明るい声でみんなに聞いた。
「そうだな、せっかくだからビールでも飲むか。ジャック君、飲めるだろう」
お父さん、未成年なんだからお酒はまずくない?
私がそう言おうとした時にジャックがいただきますと答えてしまった。
「えり、それじゃビール持ってきてくれないか」
私は心配になって台所にいるお母さんに相談した。
「お父さんがジャックにビール勧めちゃったよ。いいのかなあ」
「大丈夫よ。お兄ちゃんや翔も飲むでしょうから。それに今日は御年越しだし、お父さんがお酒を勧めるなんて特別よ」
お母さんがトレイにビールと人数分のグラスを乗せて私に持って行くように言った。
「はい、お父さん、ビール持ってきたよ」
「じゃあ、えり、みんなについでくれないか」
「はーい」
私はみんなのグラスにビールを注いだ。
みんながそれぞれグラスを取った後、お父さんが乾杯と言ってビールを飲み干した。
そんなイッキに飲まなくても。ジャックもグラスを空にしてお父さんを見た。
「そんなにイッキに飲んだら酔っ払っちゃって年越し蕎麦食べられなくなるんだからー」
私がお蕎麦の心配をしてるのを見てジャックはちょっと笑った。あっやっと笑ってくれた。
私が安心してジャックを見つめているとお父さんが言った。
「えりもここに座って飲みなさい」
私はお父さんの隣に座ってビールの入ったグラスを受け取った。
「お父さん、私、お酒ぜんぜん飲めないよ」
「だから飲んでみるんだよ」
そう言われて少し口に入れてみた。やっぱりおいしくない。
「うーん、子供の私にはお酒はまだいいかも」
そう言って残りをお父さんに渡した。
「そうか、えりにはお酒はまだ早いか」
私の残したビールを飲み干してお父さんが言った。
その時私を呼ぶお母さんの声がしたので私は台所に戻った。
「お父さんにビール飲まされちゃった。もう顔が熱くなってきた感じ。年越し蕎麦食べられなかったらどうしようー」
「大丈夫よ、お水飲みなさい。それにしてもえりにお酒を勧めるなんてお父さんもどうしたのかしらね」
お料理の準備が出来てダイニングルームにみんなが集まった。
お母さんがジャックのために作ってくれた洋風のおかずおいしそう~
ジャックはお母さんにお礼を言っておいしそうに食べてる。よかった。
私はさっきのビールのせいで顔が赤くなってしまった。
火照る顔を押さえながらご飯を食べてると心配そうに私を見るお兄ちゃんと目があった。
「顔が赤くなったなあ、えり」
お父さんが食べながら笑った。
もうお父さんのせいだから、年越し蕎麦食べ損なったら。
食事が済んで私はお母さんと後片付けをしていた。
そこにジャックがやってきていったん家に帰ると言った。
その気持ち、とってもわかる。お父さんにいろいろ聞かれて。きっと息抜きしたいよね。
私はお蕎麦の用意ができたら呼びに行くねと言ってジャックを見送った。
片付けが終わってお蕎麦もゆで終わった。
ひと段落した私とお母さんも、リビングルームにいるみんなと一緒にテレビを見た。
お父さんはイッキ飲みしたビールのせいか目を閉じて寝てしまってるように見える。
もうすぐお年越し、ジャックを呼んでこないと。
「私、ジャックを呼んでくるね」
そう言って私が立ち上がったら、眠っていたと思ったお父さんが目を開けて言った。
「翔、ジャック君を呼んでおいで」
そして私を見てお母さんの手伝いがあるだろうと。
私はちょっと嫌だった。だってお父さん、私をジャックから遠ざけてる感じがする。
そんなことしなくたって私達なにも無いのに…
仕方なくお蕎麦の用意を手伝っていたら、翔がジャックと一緒に戻ってきた。
ジャックは寝てたのかすごく眠そうな顔をしてる。
お蕎麦の用意ができて私達はゆく年、来る年の鐘が鳴るのを待った。
ゴーン、中継最初のお寺の鐘が鳴った。
いただきまーす。皆でお蕎麦をすする。
ジャックは眠そうな目をしながら一緒にお蕎麦を音を立てずに食べている。
ちゃんと胃に届いてるのかなあ。心配になるくらいジャックは眠たそうだった。
無理して来なくてもよかったのに。
でも食べ終わる頃には目が覚めたのか、テレビに映る初詣の人達を見てびっくりしてた。
こんな真夜中にお寺にあんなに人がいるなんてって。
それに女の子は晴れ着を着てるし、すごい体力だねって。
だって新年だもの、元気でるよ。
「ジャックも初詣、行ってみる?これから!」
目を丸くしたジャックを見て笑ってしまった。
「冗談、冗談。でももしよかったら明日、行って見る?午後にでも。それまでゆっくり寝れるでしょ」
ジャックは行ってもいいのかというようにお父さんを見たような気がした。
「行ってきたらいい。日本の文化に触れるのもいいことだよ」
お父さんがジャックに言った。
「じゃあ、僕も行こうかなー」
翔が余計なことを言った。
「それじゃ、お兄ちゃんも行ってきたら?今年の御札とか買ってきてもらえるし」
お母さんまでそんなことを。
ジャックと2人でのんびり行ってきたかったのに。もうこの2人が一緒だとのんびりなんてできない。
私がちょっとがっかりしてるとジャックがみんなと一緒のほうが楽しいだろうと言って笑った。
なんか無理してるって感じ、ジャック。
いつもだったら、めんどーだからオマエらだけで行ってこいとかって言いそうなのに。
無事お蕎麦を食べ終えてじゃあ、そろそろ寝ましょうかということになった。
ジャックも年越し蕎麦を体験して満足したようだし。
「私がジャックを送っていくから」
ちょっと言葉に力が入っちゃった。
だってお父さんにまたなにか言われたらどうしようって構えてたから。
でも意外にお父さんは何も言わなかった。その代わりみんなにおやすみと言って寝室に行ってしまった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
ジャックはお母さんにお蕎麦のお礼を言った後、お兄ちゃんと翔にまた明日と言った。
あー、やっとジャックと2人になれた。本当に気を使っちゃった。
彼氏を連れてきたわけじゃないのにもう。
ジャックもせっかく来てくれたのに、これじゃ独りでのんびりしてたほうがよかったと思ってるかも。私はちょっと心配になった。
「楽しかったから心配するな」
どうしてわかったんだろう!私が不思議な顔をしてジャックを見てると、クスッと笑ってジャックが言った。
「オマエのことは顔を見てればわかるよ」
そうかなあ、そんなに顔に出てるんだー。困ったなあ。うそつけないよ。
「じゃあ、これでなに考えてるかわからないでしょ」
私は手で顔を隠して言った。
「いや、俺にはわかる。2人きりになれてよかったと思ってる」
「違うよー、そんなことぜんぜん思ってないよー。これっぽっちも…」
私は目を手で隠したままジャックの方へ顔を向けた。
突然ジャックは目を隠している私の手を掴んで唇に触れそうなくらい顔を近づけて囁いた。
「違う。オマエはうそをつけない、俺の前では」
ジャックの唇が私の唇に触れた。
そしてその唇が悲しく震えた。
「うそなんかつかないでくれ、エリィ」
「ジャック…私…」
ジャックの震える唇をごめんなさいと言うように自分の唇で包んだ。
だってずっと2人きりになりたいって思ってた。
ジャックと新年を迎えられたらどんなにうれしいだろうってずーっと思ってた。
だからジャックがタクシーから降りて来た時すごくうれしかった。
ジャックと一緒にいられるって思ったから。
でも私はジャックにこの気持ち、言えない。
だって自分がまだわからない。
ジャックのこと、なにも知らない。ジャックは私に自分のこと話してくれない。
まだこの先には進めない…
私は体をジャックから離して、また明日ねと言って家に戻った。
リビングルームではお母さんが独りでテレビを見ていた。
私が帰ったのを見て、寝るわと言って寝室に向かった。
「お母さん、いろいろありがとう。ジャック、楽しかったって」
お母さんは黙って頷いて寝室に入って行った。
もしかするとお母さんも私とジャックのこと、心配してるのかなあ。
誰もなにも言わないけど、なにか感じてるのかも。
みんなに心配かけないようにしないと。気をつけよう。
2階に上がって部屋で明日初詣に行く用意をしていたら翔が部屋にやってきた。
「おねえちゃん、入っていい?」
「どうぞ。どうしたの?早く寝ないと明日、起きられないよ。一緒に初詣行くんでしょ」
めずらしい。翔が私の部屋に来るなんて。
「初詣は午後からでしょ、その頃には起きてるよ」
翔は妙に大人びた顔をして言った。
「お姉ちゃんは不器用だよね。他の子みたいに上手く立ち回れない。見ていて可哀想になるよ、弟として。でもそういうところがいいんだろうけど、彼らには。それとお父さんを大目に見てあげてよね。お姉ちゃんのこと本当にかわいいんだから。お姉ちゃんにお酒飲ませたでしょ。あれってジャックにお姉ちゃんはお父さんにとってまだ子供なんだから変なことするなよって意味だと思うんだ。それはお兄ちゃんも僕も同じ気持ちだけどね」
「ちょっと待ってよ。どうしてみんなは私とジャックの間になにかあるって思ってるの?」
私は焦ってしまった。みんながそういう風に私達を見てたのかって。
「そりゃそうでしょ。家の前でキスなんかしてるんだから」
えっ、見てたの?さっきのこと!
「あれは違うんだって!翔が思ってるようなものじゃなくて…」
焦って言い訳をする私の頭をよしよしと撫でる翔。
「わかったから。でもね、みんな、お姉ちゃんのこと思ってるから。それだけ、じゃあおやすみ」
私は唖然として翔が部屋を出て行くのを見つめた。
まだまだ子供だと思ったらあんなに大人になってた。
私よりぜんぜん大人だよー。私が子供過ぎるのかもしれないけど。
今年は少しでも大人になれるかなあ。みんなに置いていかれないように。
シンシンと窓の外に積もる雪を見ながら思った。
明日、初詣でちゃんとお願いしなくちゃ。
大人になれますようにって。