Love story Chapter two-3

Chapter two -3

  

いい匂いが下から漂ってきてる。これはお雑煮の匂い。

眠い目を擦り擦り台所に入る。お母さんが忙しそうに動いてる。

「ちょっと待っててね。手伝うから」

そう言ってシャワーを浴びにバスルームに入った。

眠くて目を閉じたままだったので翔が先に入っていたのに気がつかなかった。

「お姉ちゃん、僕入ってるよ」

その声にハッとして後ろを向いたけど翔の裸を見ちゃった。

いや、目に入ったの。見たくて見たんじゃない。

「大丈夫、見てないから」

「お姉ちゃんのうそつき。見たでしょ」

じゃあ、正直に言えばいいんですか?弟の裸、しっかり見ましたって。

世の中にはうそついたほうがいい時ってあると思うんだけどなあ。

「うそついたほうがいいなんて思ってるでしょ!それはちゃんとうそがつける人が言うこと。お姉ちゃんは無理なんだから正直に言ったほうがいい」

なんか同じこと言われた様な気がする…もう。

無事シャワーを浴びて目が覚めてきた。

お母さんの手伝いをしてる時にお正月に着物を着ようと思ってたことを思い出した。

「お母さん、今日着物、着てみていいかなあ?」

「あら、どういう風の吹き回しかしら」

「だってお父さん着物好きだし、私もちょっと着てみたいなって思うから」

「じゃあ、お昼ご飯が終わったら着せてあげるから」

「ありがとう、お母さん」

お母さんはしょうがないわねっという顔をしてお料理を続けた。

皆で新年の挨拶をしてお母さんの作ったお雑煮を食べる。

おいしい、私もこのお母さんのお雑煮を覚えていつか作れるようになりたいなあ。

お父さんは郵便配達の人から受け取ったばかりの年賀状を家族のみんなごとに分けている。

もちろん1番多いのはお父さんなんだけど、その次がお兄ちゃんなんだよなあ。

それも女の子からのが多い。ちゃんと返事書いてるのかなあ?どうだか知らないけど。

私と翔はいつも同じくらいで仲の良い友達からがほとんど。

今年は誰から来てるかなあー。

そう思って私の分の年賀状をチェックしてると中に赤い封筒が混ざっていた。

これって超ハデな封筒!!誰からだろうー。あっ、エアメイル、カナダからだ。

差出人の名前は無いけどこの字に見覚えがある。これはジェイムズの字。

開けてみると中にはカナダの綺麗な雪景色のクリスマスカードが入っていた。

メッセージを読もうと思った時にお父さんがお隣からカードが来てるって言った。

お隣の皆からうちの家族へって。

ジェイムズからカードが届いたのは私だけみたい。

こっそりとジェイムズのカードを隠して部屋でメッセージを読んだ。

 

Dear エリ、元気ですか?そちらのお正月はどうですか?こちらはみんな元気だよ。

久し振りに帰って来てのんびりしてるよ。

でもちょっと淋しいんだ、だってエリがいないからね、ここには。

それではまた日本で。体に気をつけてね。(食べ過ぎに注意ってことかな?!うそだよ)

                               ジェイムズ

 

ジェイムズ…向こうに行っても私のこと思ってくれてる。

早く帰って来ないかなあ、私もジェイムズがいなくてちょっと淋しい。

でもこれってジャックが帰って来る前に出してある、だからなにもジャックのこと書いてないんだあ。

でもジャック、どうして早く帰って来たのかなあ。用事があったって言ってたけど。

よっぽど大事な用事だったのかなぁ、だって家族を置いて帰って来るほどなんだもん。

 

午後になって初詣に行く時間になった。

先に用意ができたお兄ちゃんと翔がジャックを迎えに行った。

3人が私を迎えに戻ってきた。

私はやっと足袋と草履を履いて玄関に立って待っていた。

ドアを開けて入ってきたジャックは私を見て息を呑んだ。

なにも言えずに立っているジャックを見て翔が言った。

「お姉ちゃん綺麗でしょ…着物の威力ってハンパ無いよね 」

「なによー、それって。もう、翔!」

「ねっ、大丈夫。中身は同じでしょ」

翔はそう言ってジャックの背中をポンと押した。

「エリィ、綺麗だよ。京都の舞妓さんより」

「それって褒めすぎだよ、ジャック。調子に乗るから、お姉ちゃん。ねえ、お兄ちゃんもそう思うでしょ」

お兄ちゃんは私を見ずにそんなことは無い、綺麗だと言った。

翔は頭を振って、もう行こうと歩いて行ってしまった。

 

私達は歩いて近くの神社に来ていた。

午後だったので人がいっぱいで賑わっていた。

私は雪で滑る足元を見てばっかり歩いてるから3人に置いていかれそうになった。

そんな時ジャックが振り返って私の手を取って自分の腕に絡ませた。

「これだったら転ばないだろう。しっかり掴まれよ」

私はジャックの腕をしっかり掴んで転ばないように歩いた。

無事お参りも済んで、お兄ちゃんも御札を買ったし。

さてこれからどうしようーと思ってたらお兄ちゃんのクラスの女の先輩達がお兄ちゃんを見つけて囲んだ。

「お兄ちゃん、じゃあお先に。お友達ともう1回お参りどーぞ」

翔はそう言って女の子の群れから脱出しようとしているお兄ちゃんを非情にも見捨ててその場を後にした。

「ね、お兄ちゃん大丈夫かな」

私はちょっとかわいそうだなって思って振り返ってお兄ちゃんを見た。

お兄ちゃんはショウガナイという顔をしながらクラスの女の子達と歩いていく。

「あれくらいしないと、お兄ちゃんに彼女なんか出来ないよ、今年も」

そう言って翔はプイプイ言いながら歩いていく。

「ねえ、翔。どうしてお兄ちゃんに彼女できないのかなあ?それってお兄ちゃんの理想が高すぎるからでしょ」

翔はなにもわかってないって顔をして私を見た。

「そうだね。お兄ちゃんには無理な理想があるからね」

そんなにお兄ちゃんの理想って高いんだー。よかった好きな人がお兄ちゃんじゃなくて。

だってそんなんだったら私、絶対に無理だもの

「ねえ、翔。これからどうする?どこか行きたいとこある?高校合格祈願にもう1ヶ所行く?」

「僕はいいよ、真っ直ぐ家に帰るから。お姉ちゃんとジャックがどこか行くんだったら行っておいでよ。お父さんとお母さんにはそう言っておくからさ」

そう言って手を振って翔は行ってしまった。

「アイツ、いい奴だな」

「そう?中学生のくせに生意気なんだよ」

2人だけになってなんかホッとして歩き出した私達。

神社の境内にはいろいろな出店があってジャックは面白そうに見てる。

「面白い?なんか試してみる?」

「いいよ、見てるだけで面白いから。オマエはなにか食べるのか?」

「どうして食べるなの?もう誕生日からちょっと間違って認識されてるみたいで憤慨!」

でも確かにさっきから目が行くのは食べ物屋さんの出店ばっかり。

悔しいけどジャックはいつもお見通しって感じかなあ。

お店の前を通って境内を出る。

家に帰る途中に河原を通った。ここも一面雪景色かあ。

「エリィ、着物姿、綺麗だよ」

「何回も言われると恥ずかしいからもういいよ」

顔が赤くなってしまう、そんなこと何回も言われたら。

ジャックが唇を近づけて私の耳に息をかけるように呟いた。

「脱がせてみたい」

「もう!!冗談やめてよね。エッチなんだから、ジャックは」

私はジャックの腕から手を振り解いていつもの調子で歩いて行こうとしたら雪に滑って転びそうになった。

「危ない、掴まれよ。冗談だからさ。本気にするなんてオマエらしくないな」

「そんなこと冗談でも言わないの!私はそんなに安っぽくないんだから」

私がマジで怒ってるのを見てジャックは反省してる様子。

「エリィ、俺はオマエをそんな風に扱ってるつもりはないけど、オマエがそう感じるだったら止めるよ。悪かった」

なんだかしおらしくてジャックじゃない感じ。

「女の子だったらお姫様のように男の子に扱ってもらいたいもん、ジャックは私のナイトになってくれる?それとも王子様?」

ジャックは真面目な顔をしてはっきり言った。

「俺はナイトにもプリンスにもならない。俺は俺だ」

そしてこれが俺だと言うかのように私を突然抱きしめた。

腰に腕を回してきつく抱きしめてくるジャック。

「苦しいよ、わかったから。ナイトでも王子様でもなくていい。ジャックはジャックのままで」

でもジャックは私を抱きしめ続けたまま離そうとしなかった。

「ねえ、ジャック。聞きたい事があるの。カナダから日本にすごく早く帰ってきたでしょ。その時に私がどうしてって聞いたら、用事を思い出したからってジャック言ったよね。それってどんな用事だったのかなあ?」

ジャックは黙ってる。やっぱり教えてもらえないんだなあ。

ちょっと悲しくなってしまった。こんなにそばにいるのにジャックがすごく遠くに感じる。

「気にしないで、なんでかなって思っただけだから」

ちょっと泣き声になった私をますます強く抱きしめてジャックが言った。

「エリィの着物姿を見たかった」

えっ、そんな。私の着物姿を見るために戻ってきたの?独りで?

私が顔を上げると頬を赤くしたジャックが言ってしまったという顔をしていた。

「ジャック、帰ってきてがっかりしなかった?本当に私、綺麗かな?」

「ああ、他の誰にも見せたくないくらい綺麗だよ。ジェイムズにも」

そう言うとジャックは私の頬に自分の頬をよせた。

 

「ねえ、ジャック。初夢って聞いたことある?」

「いや、聞いたこと無いな」

「今晩から明日の朝にかけて見る夢のことなの。人によっては2日から3日でもいいみたいだけど。新年の1番最初に見た夢は現実になるって言われてるんだけどね。だから今日寝る時は本当になったらうれしいようなことを思って寝るといいかもね」

「じゃあ、エリィのことを思って寝ようかな。」

もう…すぐそういうことを言う。

「ハイ、ハイ。じゃあ、私もジャックのことを思って寝るから。二人で同じ夢なんか見ちゃったらびっくりだよね」

 

私達が家に着いた時にはお兄ちゃんも翔も帰っていた。

お母さんがジャックにご飯を食べていくように勧めたけどジャックは遠慮してか、帰って行った。

2日続けては気を使っちゃうよね。自分の家でのんびりしてるほうが楽だろうし。

でも淋しくないのかなあ、家族のみんなは向こうで親戚や友達と楽しい時間を過ごしてるだろうに。

ここで独りでなにを思ってるんだろう。

私の着物姿を見に帰って来たって言ったけど、それだけじゃないような気がする。

自分の部屋からジャックの部屋を見る。

ジャックが言ったこと。

"エリィのことを思って寝ようかな"

どこまで本当の気持ちなんだろう。ジャックがわからない。