Love story Chapter two-7

Chapter two -7

  

 朝、寒くて目が覚めた。

ジェイムズはまだ寝ている様子。

綺麗に整ったジェイムズの顔。その顔にできた傷。

痕にならないといいんだけど。

そっと指で触れてみた。

あっ、ジェイムズが目を覚まして私を見た。

「ごめんね、起こしちゃった?気分はどう?」

私がジェイムズの額に触れて熱を測っていたら、病室のドアが開いて朝ごはんが運ばれてきた。

病院には電気が戻ってきていたようで、温かい食べ物がトレイに乗っている。

「ジェイムズ、なにか食べたほうがいいよね。でも食欲ある?」

トレイに乗った朝食を寝ているジェイムズのところに持って行った。

ジェイムズはあまり食欲は無いようでいらないと首を振った。

「でも少し水分を取ったほうがいいかも」

私はそう言ってジュースの入ったコップにストローを差してジェイムズの口に運んだ。

ジェイムズはストローを口に含んで少しだけジュースを飲んだ後、痛そうに体を起こした。

「歩けそう?今日退院できるかなあ。でも無理しないでね」

「ちょっと痛いけど体は動きそうだよ」

そこに先生がやってきてジェイムズの体の傷を診て言った。

「退院しても大丈夫ですよ。ただ傷口が化膿しないように気をつけてください」

それは私の仕事かなあ、ちゃんと消毒しないと。

先生から退院してもよいと言われたことをお兄ちゃんに連絡した。

お兄ちゃんに急がずに帰って来るように言われたので、

退院の手続きを済ませて私達はタクシーでお昼前くらいに家に戻った。

お兄ちゃん、翔、ジャック、ジョシュアががんばったようで、3人の家はなんとか寝れるくらいに片付いていてびっくり。

でも電気も水もまだ切れたままだったので、今晩もうちに泊まるようにとお兄ちゃんがみんなに言った。

ジェイムズは何故か自分の家で寝るって言い張ったけど、お兄ちゃんに説得されてうちに泊まることで落ち着いた。

「ジェイムズとなにかあったのかい?」

お兄ちゃんがあとから私に聞いてきた。

「なにかって、例えばどんなこと?」

私はとぼけて言った。

「喧嘩したとか」

お兄ちゃんは私の目を真っ直ぐ見てる。

「そんなことしてないよ。大人のジェイムズと私が喧嘩できるわけないでしょ」

「それならいいけど。いつものジェイムズと様子が違うような気がした…」

私は、怪我した後で体中痛いし、だからだよと誤魔化した。

ジェイムズとキスをしたなんてとても言えない。

それに地震の後で2人ともどうかしてたのかもしれないし。

ジェイムズがなにも言わなければ私もなにも言うつもりは無かった。

私は客間にジェイムズが休めるように布団を敷いた。

ジェイムズは辛そうに布団の上に腰を下ろした。

「ベッドのほうがいいかも。私の部屋のベッドを使って。今、シーツ取り替えてくるから」

ジェイムズはそう言って部屋を出ようとした私を呼び止めた。

「エリ、ここで十分だよ。布団で寝るの問題無いから」

「でも、慣れてないと腰痛くなるし、起き上がるのが大変だもん。やっぱり私の部屋で寝て」

私はそう言って部屋を出て2階に上がった。

私の部屋はほとんど壊れた物も無く、ちょっと机の上に置いてあった物が落ちたくらいだった。

ベッドのシーツと枕カバーを新しいのに交換してジェイムズのところに戻った。

ジェイムズはすでに布団に横になってる。

小さい声で名前を呼んでもジェイムズは目を閉じたまま。

私は本当に寝ちゃったのかなあとジェイムズの顔をジーッと覗き込んだ。

ジェイムズは目を開けて、堪えきれないというかのように笑った。

「エリは時々不思議なことをするよね」

「どうして寝たふりなんかしてたの?そっちのほうがよっぽど変よ」

「僕は変だと言ってないよ。不思議と言っただけ」

「もう、それはいいから。2階の私の部屋に案内するから」

私がそう言っても動かないジェイムズを起こそうと腕を引っ張った。

「いたた。手荒な看護婦さんだなあ、エリは」

ジェイムズはそう言って体を起こして立とうとした。

Ouch!!

ジェイムズは思わず英語で言って腰を撫でた。

「ねっ、言ったでしょ。腰痛くなるって」

「そうだね、エリの言うことを聞いておくべきだった」

私は腰を撫でてるジェイムズを連れて2階に上がった。

「はい、どうぞ。リネンは取り替えておいたから。ベッドが小さいけど布団よりは快適だと思う」

ジェイムズはちょっとためらったようだったけど腰痛には勝てないようで、観念して私のベッドに横になって部屋の中を眺めている。

ちょっと恥ずかしい感じがした。

ジェイムズの部屋を見せてもらった時に私の部屋を見てみたいと言ったジェイムズ。

どう思ってるんだろう、ちょっと複雑。

「ねえ、ジェイムズ。私の部屋を見てみたいって前に言ったよね。どう?いたって普通でしょ」

「女の子の部屋のようでよかった。安心したよ」

「もうそれってなーに。大掃除して綺麗にしておいたんだから。ジェイムズを招待してもいいように」

「僕のために?」

「そうだよ。ジェイムズがお部屋を見たいって言ったから、見られて恥ずかしくないように一生懸命お掃除したんだからでも地震で完璧じゃなくなっちゃったけど」

うれしそうにまた部屋の中を見渡しているジェイムズに、私は着替えやお薬を取ってくると言って部屋を出た。

そしてジェイムズの家に行って着替えを取ってきた。

もうこんな時間…そろそろお昼の準備しないと。

きっとみんなお腹空かせてるはず。ずーっと片付けしてるし。

冷蔵庫にあった残り物でサンドゥィッチを作ってみんなにお昼にしようと声をかけた。

4人ともお腹が空いていたのかすぐに家に入ってきて作りたてのサンドゥィッチを食べ始めた。

私がジェイムズの分のサンドゥィッチとレモネードの入ったコップを乗せたトレイを持って2階に上がろうとした時にお兄ちゃんが声をかけた。

「ジェイムズ、2階に寝てるのかい?1階のほうがよくないか?上り降りしなくて済むし」

「そうだったんだけど、お布団にちょっと横になったら腰が痛くなっちゃったみたいで。それに起き上がるのもベッドより大変だし。それで私の部屋のベッドを使ってもらうことにしたよ」

「それじゃ、えりはどこに寝るんだ?」

「私はどこでも寝れるから。それ特技だもんね」

私はそう言って2階に上がって行った。

「ジェイムズ、お腹空いてる?お昼持ってきたんだけど。それにレモネードも」

ジェイムズが少し体を起こしてトレイを受け取る。

「これ、エリが作ったの?おいしそうだよ」

「あるもので簡単に作ったからどうかなあ。夜はなにか暖かいものを作るからね」

ジェイムズはおいしそうに頬張る。

「ジェイムズが食べてる間に着替えとお薬、下から取ってくるね。お昼持ってきたらそっちのほう、忘れちゃった」

そう言って部屋を出ようとした私の手を掴んでジェイムズが言った。

「もう少しここにいてくれないかい?独りでご飯食べるのって淋しい」

「そうだね。じゃあ、ジェイムズが食べ終わるまでいるね」

私はベッドの横に敷いてあるムートンの上に座った。

お皿の上のサンドゥィッチがあっという間に無くなってしまった。

「ジェイムズ、もっと食べる?ごめんね、足りなかったね」

病人だと思って少なめに持ってきてしまった。

「あー、おいしかった。これで十分だよ。ありがとう。エリは料理が上手なんだね」

「ちゃんとお母さんの手伝いしてるんだから。というか強制的にさせられてるって言うか。それにジェイムズのお母さんにもいろいろ教えてもらってるし」

「そうだったね。あの時のケーキ、本当においしかった。じゃあ夜ご飯楽しみだなあ」

ジェイムズにそう言われてちょっとプレッシャー。

マジで夜ご飯作らなくちゃ。

「じゃあ、お薬と着替え取ってくるから」

私はそう言ってジェイムズからトレイを受け取って部屋を出た。

台所に行くとジャックが使ったお皿を洗っていた。

「ジャック、私がするからいいよ。片付けのほう、お疲れ様」

私はジャックの手からスポンジを取ってジェイムズの分のお皿を洗い始めた。

ジャックは黙って私の横に立っていた。

そして私を見ずに言った。

「ジェイムズのこと、ありがとう。エリィが病院に行ってくれてジェイムズも安心したはず」

「役にたててよかった。ジェイムズも大怪我とかじゃなくてよかったし、ジャックもジョシュアも怪我無かったし。本当によかった」

「リョウにしつこく聞かれた。本当に大丈夫かって。電話で話した時にオマエが俺を心配していたからだって」

「うん。だってジャック、ちゃんと言わないでしょ。具合悪くたって、この前みたいに。だから心配だったの。どこか怪我してたりしたらどうしようって」

私からすすいだお皿を受け取りながらジャックはちらっと2階を見て言った。

「俺も怪我してエリィの部屋のベッドで寝たかったな。それもずーっとエリィが就きっきりで」

「なに言ってるの。怪我なんてしないほうがいいんだから。早く片付けに戻ったほうがいいわよ。早く。早く」

そう言ってジャックを台所から追い出した。

台所を片付けて薬と着替えを2階に持って行った時にはジェイムズはすでに眠っていた。

困ったなあ。お薬の時間だし、消毒もしなくちゃいけないしなあ。

大きい声で突然起こしたら心臓に悪いもんね。

私はジェイムズの耳元で小さく囁いた。

「ジェイムズ。ジェイムズ。」

「うーん、エリ。すごく眠いんだ。気持ちよくて… 」

本当に気持ちよさそうに寝ているジェイムズ。でも、ごめんね。薬だけでも飲んでもらわないと。

「目、開けなくていいから。口だけ開けて。お薬飲んだらいつまででも寝てていいから。お願い」

ジェイムズが目を閉じたまま体をちょっと起こしたので、私はジェイムズの口に薬を入れて水の入ったコップを口にあてた。

ジェイムズは機械的に水で薬を飲み込んでまた寝てしまった。

これは当分起きないかもしれないないなー。

でも男の子の寝顔っていつもとちがって無防備でかわいいなあ。

ジャックも起きてる時は憎たらしいのに病気の時に見た寝顔はかわいかった。

寝てる時みたいにいつもかわいくしてればいいのに。

そう言えばジャックも私の部屋に寝たかったって言ってたなあ。

みんなよっぽどベッドがいいのかしら。

爆睡しているジェイムズに布団を掛けて直して部屋を出た。

夕方になって電話が通じるようになって水が出るようになったけど、電気とガスはまだ止まったままだった。

うーん、この状態でなにが作れるかなあ。

ジェイムズからのプレッシャーもあるし。

冷蔵庫に残ってるものでできるとしたらカレーかなあ。

野菜はあるし、お肉も早く食べないと腐っちゃうし。ご飯は学校で鍋で炊くのを習ったし。

これならなんとかなりそう。今晩はカレーにしよう。

どこかに卓上コンロがあったからそれで調理できるかな。

台所のテーブルの上に材料や道具を並べて調理に取り掛かった。

カレーが出来上がった頃、4人が家に入ってきた。

「カレーの匂いがしたよー。お腹空いたー」

翔が台所に入って来て鍋の蓋を取って中を覗き込んだ。

「カレーはできたのですぐにご飯炊くね。お風呂は入れないからタオルで顔拭いてね。さっきお湯沸かしてタオル暖めておいたから」

そう言って4人分のタオルを翔に渡した。

みんなは顔を拭いたり着替えをしてご飯が炊けるのを待っていた。

そろそろ2階で寝ているジェイムズも起きる頃じゃないかなあー。

そう思った丁度その時、ジャックが台所に入ってきたのでジェイムズの様子を見てきてくれるように頼んだ。

戻ってきたジャックがまだ寝てると言ったのでもう少し寝かせておくことにした。

そうしてるうちにご飯が炊けて夕食の用意ができた。

翔とジョシュアを呼んでお皿とスプーンを持って行ってもらった。

私はダイニングルームで待っているお腹の空いた男の子達の所へご飯とカレーの入った鍋を持って行った。

4人は黙々とカレーライスをたいらげソファーに座ってボーっとしている。

よっぽど疲れたのね。あんなにがんばって片付けしたんだもん。

それでも3人の両親がカナダから帰って来たら驚くだろうなあ。

かなり家の中の様子が変わっちゃったから。

そう言えば明日の朝に成田に着くって言ってた。

部屋で寝れるようになったので明日は家族水入らずでゆっくり休んで欲しいな。

きっと3人の両親、今飛行機の中で心配で寝て無いだろうから。

そんなことを思っていたら横に座っていた翔が1番最初に居眠りをし始めた。

こんなに肉体労働したことなかったもんなあ、今まで。翔がちょっと逞しくなったような気がした。

お兄ちゃんが翔が本気で寝ちゃう前に起こして2階に連れて行く。

ジョシュアが昨日から翔の部屋で寝ていたようで自分も寝ると一緒に上がって行った。

リビングルームには私とジャックだけになっちゃった。

ジャックもかなり疲れた様子で目が開いているより閉じてるほうが長くなっていた。

「ねえ、ジャックも寝たら?昨日はどこで寝たの?」

「このソファーで寝た。だからこのままここで寝るから。毛布だけ貸してくれ」

凄く眠そうに薄く目を開けてジャックがそう言って、その後また目を閉じた。

「体痛くなるよ。布団で寝たら?何枚か敷けば腰痛くならないかもよ」

「そしたらオマエはどこで寝るんだ?」

「私はお兄ちゃんの所にでも押しかけようかな。それか自分の部屋に寝袋で寝てもいいし。ジェイムズに気付かれないようにそーっとね」

私は冗談で言ったのにジャックは怒ったようにソファーから飛び降りて私の手をとって客間に連れて行った。

「オマエはここに寝ろよ。俺は一緒にいてオマエがジェイムズの所に行かないように見張ってる」

そう言うと押入れから布団を取り出してめちゃくちゃに敷き始めた。

「ジェイムズの所には行かないよ。冗談でしょ、もう。それにこんなにぐちゃぐちゃに敷いたら寝れないよ」

私はそう言って布団を直し始めた。

ジャックが寝れるように敷布団を何枚か重ねて敷いた。

「ね。これだったらフカフカでジャックでも大丈夫だよ。ちょっと試しに寝てみて」

私は布団の横に座って、黙って立っているジャックに早く来るように布団を叩いて催促した。

ジャックはその私を布団に押し倒して上に乗って言った。

「この柔らかさだったら寝れるかもしれないな。一緒に寝れば寒くも無いし」

「なにしてるのよ。2階にみんないるんだから」

そう言って私がジャックから体を離した丁度その時に部屋の戸が開いてお兄ちゃんが入ってきた。

「なにしてんだ、2人だけで」

怒った声で聞くお兄ちゃんに私は何も無かったように言った。

「今、ジャックが寝れるように布団を重ねて敷いてたところ。試しにジャックが寝てみたら大丈夫だって言うのでジャックはここで寝るって」

お兄ちゃんは疑いの目で私達を見てる。

「私、お兄ちゃんの部屋で寝てもいい?寝袋持ってくるから」

お兄ちゃんはちょっと機嫌が良くなったようでわかったと言って2階に上がって行った。

「リョウの部屋で寝るのか?」

不機嫌な声でジャックが言った。

「そうする。またジャックに襲われたら大変だもん。じゃあおやすみ」

私はそう言って振り向かず部屋を出た。

ジャックがおとなしく客間で寝てくれればいいんだけどなあ。つむじ曲がりだからソファーで寝てたりして。

後でこっそり様子を見に行かないと。また風邪なんかひいたら大変だもん。

2階に上がってそっとジェイムズの寝ている私の部屋のドアを開けて中の様子を見た。

ジェイムズはまだ寝てるよう。どうしようまた薬飲む時間だし。

ベッドに寝ているジェイムズの顔に自分の顔を近づけた時、突然ジェイムズの大きな目が私を見た。

「わっ、起きてたの?それともまた起こしちゃった?」

ジェイムズは首を振って体を起こした。

「寝すぎたかなあ。今何時?」

時間は8時を過ぎていた。

「みんな、疲れて寝たよ。ジェイムズ、お腹空いてる?カレー作ったんだけど食べる?」

「もう少ししてからでもいいかなあ?まだ寝ぼけてる」

「それじゃ、先に消毒して着替えしようか」

私は机から消毒薬と着替えを取ってベッドの上に乗せた。

「ジェイムズが着替えてる間、外に出てるから。済んだら呼んでね」

そう言って部屋を出た。

隣のお兄ちゃんの部屋に行くとお兄ちゃんはすでに寝袋を用意してくれていた。

私を呼ぶジェイムズの声が聞こえたので、お兄ちゃんに消毒をしてくると言って自分の部屋に戻った。

部屋に入るとジェイムズは着替えを済ませてベッドに腰をかけていた。

早速ジェイムズが風邪なんかひかないように体の傷の消毒を始めた。

お風呂に入れないからちゃんと消毒しないと。

傷は体中にあってなかなか大変。

パジャマのシャツをたくし上げながら背中のほうの傷を消毒していたらジェイムズがシャツを脱いで上半身裸になった。

「寒いでしょ。すぐに終わるから。我慢してね」

私はそう言って急いで済ませた。

打撲のアザは紫色になって痛々しかった。こんなになるまで本棚に挟まれてたんだ、ジェイムズ。

シャツを着たジェイムズに薬を差し出す。ジェイムズは薬を飲み込んでふーっと溜息をついた。

「目が覚めたんだ。エリがさっき部屋に来るちょっと前に。真っ暗なこの部屋で目が覚めた時、僕は無性にエリの顔が見たくなった。独りで寝てるのが恐かった。病院でもふっと目が覚めた時エリが隣にいてくれて僕はうれしかったし、どんなに安心できたか」

「ジェイムズ、私はお兄ちゃんの部屋で寝るからお隣にいるので、なにかあったら声をかけてくれればすぐに飛んでくるから」

「それと安心するおまじない」

私はジェイムズの頬にキスをした。あっ…

その瞬間、私の体はジェイムズの腕の中にあった。

ジェイムズは私を自分の膝の上に乗せて抱きしめた。

「ジェイムズ、苦しい。息できないよ」

私はジェイムズの胸に重なった頬にジェイムズの鼓動を感じていた。

「エリ、僕が病院で言ったこと…」

言葉にならずジェイムズは顔を背けた。

ジェイムズはじっとなにかに耐えるように体を震わせている。

私は背けたジェイムズの顔を両手で包んで自分の顔のほうに向けた。

そしてジェイムズの唇に自分の唇を軽く触れさせた。

ジェイムズの唇がなにかを求めるように開いた。

私を見つめるジェイムズの瞳は苦しいと言っているようだった。

「どうしてそんなに苦しそうな顔をするの。私がジェイムズを苦しめてる?」

私はジェイムズの瞳を真っ直ぐ見つめた。

「私、ジェイムズを苦しめたくないよ。でもどうしたらいいのかわからない」

私は悲しくなって部屋を出た。

どうしてあんなことをしてしまったんだろう!自分で自分がわからなくなっていた。

廊下で立ち尽くしている私を見つけたお兄ちゃんがもう寝ようと言った。

寝袋に潜り込もうとした私にお兄ちゃんはベッドを指差した。

「いいよ、お兄ちゃん。私、寝袋好きだし。お兄ちゃんはちゃんとベッドで寝てよ。肉体労働して疲れてるんだから」

お兄ちゃんは頑として私にベッドに寝るよう言った。

「それじゃ、お兄ちゃんも一緒にベッドで寝て。そうしたら私も黙って寝るから」

お兄ちゃんのベッドはダブルベッドだった。

一瞬ためらったように見えたお兄ちゃんだったけど私が言ったら聞かないのを知ってるのでしぶしぶベッドに入ってきた。

最後にお兄ちゃんと一緒に寝たのはいつだったかなあ。

小さい時はこうしてよくお兄ちゃんのベッドに潜り込んで寝てた。

「ねえ、お兄ちゃん。私、恐い夢見た時とか、悲しいことがあった時いつもこうしてお兄ちゃんのベッドに潜り込んでたよね。なんか懐かしいなあ」

私はそう言ってお兄ちゃんの胸に顔を埋めた。

こうしてると安心できる。

昨日と今日の疲れで私はお兄ちゃんの胸の中で眠りについていた。

眠りに落ちていく中でお兄ちゃんが私の髪を優しく撫でるのを感じていた。

お兄ちゃん…