Love story Chapter two-12
Chapter two -12
「ねえ、えり。大丈夫だった?」
学校で祐美が心配そうに聞いてきた。
「うん、大丈夫。お兄ちゃんにはバレてたけど。うそなんかつかなくてもよかったんだよね。ちゃんと本当のこと言ってもよかった。これからはそうするつもり…祐美にも心配かけてごめんね」
祐美は黙っててなにか考えてる様子。どうしたんだろう。
お昼に体育館の近くを通ると3年生が卒業式の練習をしていた。
「もうすぐいなくなっちゃうね、3年生」
来週は卒業式。お兄ちゃんやジェイムズが行ってしまう。
祐美と2人でしんみりと予行演習をしている3年生を見つめていた。
放課後になって私が校庭の掃除をしているとジェイムズがそばにやってきた。
「エリ、さっき体育館から見かけたよ」
「卒業式の練習してるなーって、見てたの。そしたら悲しくなっちゃった。ジェイムズがいない学校なんて想像できないよ…」
「僕も淋しいよ。エリとあまり会えなくなるからね。それにエリの不思議な行動が見れなくなるのは非常に残念だな」
「不思議な行動ってなーに?もうジェイムズって。イジワル…」
私はジェイムズといつものようにじゃれ合っていた。
「エリ、掃除手伝おうか?」
「ありがとう、でも大丈夫。すぐ終わるから」
「じゃあ、終わったら一緒に帰ろう。ケーキのおいしいお店を見つけたよ。行かないかい?」
「行く、行く。じゃあ、校門で待っててね」
ジェイムズはそれじゃと言って校舎の方に走って行った。
私は急いで掃除を終わらせて、クラスルームにカバンを取りに行こうとした。
その時、突然腕を掴まれた。
「えり、どっちにするのか決めてよ!私、もう待てない!」
祐美が真剣な顔をして立っていた。
「私、見てたよ。ジェイムズといたところ。えりはどっちなの?ジェイムズ?ジャック?」
答えられないでいる私に祐美は叫んだ。
「どっちも好きだなんて言わせない!」
そう言って走って行っていく祐美を私は追いかけた。
追いかけて校庭の隅でやっと祐美をつかまえた。
「祐美、私、どっちも好きだなんて言わないよ…言えない。正直言うとわからないの、どっちが好きだなんて。それに2人とも好きだって言ってくれないし」
「えりは誰かに言ってもらわないと自分の気持ちもわからないの?」
「そうじゃないよ。ただジェイムズもジャックも私の中に自然と入り込んできたから、どっちを好きだとかそういうのってあんまり考えてなかったから」
「でも、ジャックと一晩過ごしたんでしょ。同じベッドで一緒に寝たんでしょ。何も感じなかったの?」
祐美は涙を目に溜めながら言った。
「私、わざとえりに教えなかった。スキーに行く日が変わったこと。えりとジャックがくっついたらいいって…そしたら私にもジェイムズとチャンスあるかなって…でもそんなことしたって駄目なのわかってた。そんなことする自分も嫌いでしょうがない」
祐美…ごめん…私のせい。私がはっきりしないから…祐美を傷つけてる…
「私、卒業式の日にジェイムズに気持ち伝える。ジェイムズが誰かを好きでもそれでいい。自分の気持ちを大事にしたい、ジェイムズを好きっていう気持ち」
そう言うと祐美は走って行ってしまった。私は祐美を追いかけられなかった。祐美の後姿をただ見つめることしか私にはできなかった。
あっ、ジェイムズと約束してた。
こんな気持ちで一緒にケーキなんて食べに行けない。ちゃんと断らないと。
私が門に着くと待たされて嫌な顔もせず笑顔でジェイムズが立っていた。
「ジェイムズ。私、用事ができてしまって。ごめんなさい」
走って横を通り過ぎようとした私の腕を取って、どうして?という顔をするジェイムズ。
祐美の顔が浮かんで黙ってジェイムズの腕を振り払って走って家に帰った。
自分の部屋から窓の外を見るとちょうどジェイムズが門のところでこちらを見上げていた。
辛くなってカーテンを閉めてベッドに潜り込んだ。
夕方、お母さんに頼まれたお使いを済ませて近くのスーパーから小雪がちらつく中、歩いてる。
寒いなー。独りで歩くのってこんなに寒いんだなあ。
思えばいつも誰かと一緒だった。
私っていつも誰かに甘えてたのかもしれない。
周りの人の暖かい腕の中で…
前から誰かが歩いてくる…あれっ、誰だろう。
お兄ちゃん?違う。
ジェイムズ?
近くに来てそれがジェイムズだと気付いた。
「ジェイムズ」
私は学校帰りのことがあったのでうつむいたまま言った。
「エリ、雪が降ってきたよ。傘持ってきたから入って。風邪ひいたら大変だよ」
そう言ってジェイムズは私を自分の傘の中に入れた。
「私のためにわざわざ来てくれたの?」
「エリが出ていくところが見えて…その後雪が降ってきたのに確か傘持ってなかったような気がして…それで来てみたんだ」
私は胸が熱くなった。さっきあんなひどいことしたのにジェイムズはこんなに優しい。
どうしようもなく涙が溢れてきた。
横で突然泣き出した私をジェイムズは優しく抱きしめた。
「なにかあったんだね、エリ。ケーキ食べないで帰っちゃうくらいだからきっとなにかあったんだと思った」
「ジェイムズ、ごめんなさい。黙って帰っちゃって、私…」
言えない。ジェイムズかジャック、選べない私のせいだなんて。
辛くて、辛くてただジェイムズの胸で泣きじゃくる私をジェイムズは黙って抱きしめてくれる。
ジェイムズ、どうしてあなたの胸は大きくて暖かくてなんでも包んでくれるの。
私は甘えてしまう、あなたに。
ジェイムズ、私を好き?
声にならない私の心の叫びはジェイムズに届かない。