Love story Chapter four-8

Chapter four -8

  

これで本当によかったんだろうか…

携帯の画面にある名前を見つめる…

たった今、ジェイムズと話をした。

アイツと話すのも久し振りだった。

えりとジャックの関係が終わって、また転勤でジェイムズ達がカナダに帰ってしまったから。

俺はジェイムズにえりのことで頼みがあった。

今、えりを救えるのはジャックしかいないと…

 

えりがジャックと別れてカナダからボロボロになって帰って来た時、ジェイムズはえりを成田空港に迎えに行ってくれとカナダから電話をしてきた。

えりは飛行機の予約を1日早く帰ってくるように変更したのを俺には連絡してこなかった。

ジェイムズは多くを語らなかったがえりを心配しているのはわかった。

空港でえりを見つけた時、えりは一瞬驚いた表情をしたが、その後すぐにいつもの笑顔で俺にここでなにをしてると聞いた。

辛いのに顔に出さず、自分ひとりで耐えているえり…

そんなえりを見て俺は、ここにジャックがいたらなにをしてたかわからないと思った。

えりは車の中でなにも話さず窓から外を見ているだけだった。

俺もえりになんと言っていいかわからなかったのでなにも話さず家に着いた。

母と翔は親父の所に行っていなかった。

予定ではえりが帰ってくるはずだった明日、2人もそれに合わせてこちらに戻る予定だった。

「あー、ただいまー。やっぱり家はいいなあ」

えりは言葉を詰まらせて言った。

「疲れたから、シャワー浴びてくるね」

えりは泣きそうな顔を俺に見られないように慌てて風呂場に入って行った。

そしてなにも無かったような顔をして風呂から上がってきて、言葉少なく疲れたので寝ると言って2階に上がっていった。

俺はシャワーを浴びた後、自分の部屋で眠れずにいた。

隣でえりがどんな気持ちでいるのかと思うと寝れるわけが無かった。

そんな時、えりがベランダに出る音が聞こえた。

えり…泣いているのか…

低い泣き声が聞こえてくる。

俺はえりが泣いているのを黙って聞いていられなくて思わず声をかけた。

「どうした、えり。眠れないのか」

「うん、たぶん時差ぼけかな…」

「えり…無理しなくていいんだよ、俺の前では…」

「……お兄ちゃん……」

えりは堪えられなくなったのか、俺に抱きついてきた。

そして俺の胸の中で泣いた。

俺はただえりを抱きしめて泣きやむのを待った。

「お兄ちゃん、ジェイムズから聞いたの?」

「ジェイムズからえりの帰りのフライトが替わったって聞いただけだ」

「ごめんなさい。ちゃんと連絡しないで。私…すぐに帰ってきたかったの。だって…もうあそこにはいれなかった。いちゃいけなかったの…」

……

えりは向こうであったことを俺に話してくれた。

そんなことがあったのか。

どんな思いで帰ってきたのか。

俺は怒りで体中の血が噴出しそうなくらいだった。

あんなにえりを泣かすなとジャックに言ったのに。アイツは…

やっぱりあんな奴にえりを渡すべきじゃなかった。

俺がえりを守る、誰にも渡しはしない。

もう誰にもお前を傷つけさせはしない。

えりを抱きしめて俺は思った。

「お兄ちゃん、一緒に寝てもいい?独りになりたくないの。今晩だけは、誰かと一緒にいたいの」

えりはそう言って俺のベッドに潜り込んだ。

そして安心したのかすぐに眠ってしまった。

そのえりの寝顔を見て胸が苦しくなった。

目に涙が残っている。

こんな悲しい思いをして眠るえり。

俺がそばにいる、お前がまた笑えるようになるまでずっと。

俺もえりの寝顔を見ながら眠りに落ちていった。

 

うん…えりが泣いてる?

えりの泣き声で目が覚めた。

向こうでの夢を見てるのだろうか…

夢の中でも泣いているんだお前は…

俺の大事なえり。

小さい頃から俺はえりを守ってきた。

近所のいじめっ子にイタズラされては俺の背中に顔をつけて泣いていたえり。

俺はお前のために自分より大きな奴と喧嘩したこともあったよな。

いつものようにいじめられてお前は転んでしまった時があった。

足を擦りむいて血が流れてた。

それを見て大泣きするお前を背負って家まで帰った。

その時、お前は言ったよな。

"えり、お兄ちゃん大好き。お兄ちゃんとずっと一緒にいる。お兄ちゃんのお嫁さんにしてね"

俺はお前を愛してる。

兄として、そしてそれ以上に…

いつの日からか、俺はえりに妹以上の感情を抱くようになっていた。

俺にはえりしか見えなかった。

いっそ兄妹じゃなかったら…何度そう思ったことか。

えり、愛してる。

言ってはいけないこの一言がずっと俺の胸を焼き尽くしてきた。

もう…この気持ち、抑え切れないよ…えり、苦しいんだ。

俺を救ってくれないか…

夢を見ながら泣いているえりの唇に震える自分の唇を合わせた。

うっ…

カミナリに打たれたかのように息ができず、心臓が止まってしまったかのように苦しい。

このままえりを抱きしめたい、なにもかもを捨ててえりと愛し合いたい…

でも…できないよ…

俺は押し寄せる衝動を抑えるためにベランダに出た。

なにをしてるんだ、俺は…

頭を冷やせ…

 

「お兄ちゃん、どうしたの?目が覚めたら隣にお兄ちゃんがいなかったから…」

そう言ってえりがベランダに出てきた。

「ちょっと目が覚めたからさ。風にあたってたんだよ」

「お兄ちゃん、そばに居て。眠れないの、お兄ちゃんがいないと。ずっとえりのそばにいてね。お兄ちゃん」

「わかったよ、えり。俺はずっとお前のそばにいるよ。兄ちゃんだからな」

「うん。えり、うれしい。お兄ちゃんがいてくれて」

俺はえりと一緒に部屋に戻った。

隣で眠るえりを見て俺は思った。

一生お前を守るよ、兄として。だから安心してお休み、えり。