Love story Chapter four-12

Chapter four -12

  

 ジャックの少し痩せた胸に顔をうずめてジャックの肌のぬくもりを体いっぱいで感じている。

ジャックの心臓の音…

大きくて、でもちょっと繊細さが残る手…

そして、私を抱きしめてくれる腕…

「あっ、どうしたの。この傷…」

ジャックの腕には無数の傷の痕が…

「あー、ちょっと事故ったんだよ。もうなんとも無いから」

でも傷の痕の治り具合が微妙に違う。

それに刃物で切ったような痕。

これは…もしかして…

「ジャック、私にもう隠し事なんてしないで。この傷、事故なんかじゃないよ…」

ジャックは私から体を背けて言った。

「俺も…エリィを忘れようとしたんだ。エミリーとやり直そうとした。エリィに会ってエミリーは変わった。エリィが俺達にしてくれたこと、エリィの気持ちを大事にしたかった。エミリーと一緒に住みながら俺はエリィへの気持ちを俺の心から抹殺するしかなかった。でもどうしてもエリィを忘れるなんてできなかった。気がついたら俺は自分自身を傷つけていた。体の傷の痛みで心の傷の痛みを消せると思った」

そう言って自分の腕を見つめるジャック。

「でも、どんなに傷つけてもエリィを失った心の傷の代わりになんかならなかった。あの日、あのままエリィを帰してしまったことへの罪悪感もあった。どんな思いをしてバンクーバーまで来たのか…そして帰って行ったエリィのことを考えると俺はナイフで自分の心臓を抉り出したくなった。俺はエリィを守るって言ったのに傷つけて、そしてこんな俺と一緒に暮らしているエミリーも不幸にしてる。そう思ったら息が出来なくなって倒れてしまった。そんな俺を見ていてエミリーは嫌気がさしたのかもしれないな」

ジャックが自虐的に言って笑った。

「エミリーはもうおしまいにしようと言ったんだ。もう一度、16歳の時に戻れるかもしれないと思ったって。でもお互い違う道を歩いていてそれはもう交わることは無いって気付いたと。だからこのままこうしていても2人のためにならない。だからこれで終わりにしようと…エミリーも16の時のアイツじゃなくなっていた。それに比べて俺は全然成長してなくてさ…結局、自分のことばっかり考えてたんじゃないかって思ったよ。ホント…情けなくなった…自分自身に。でも…独りになって…もうエリィのことを忘れなくていいんだ、この気持ちを偽らなくても。そう思ったらむしょうにエリィに会いたくなって…わかってるよ…都合良すぎるって、でも止められなかったんだ、エリィへの気持ちを…」

ジャックの瞳から涙がこぼれて腕の傷の上に落ちる。

私はそのジャックの腕を取って落ちた涙を唇で吸った。

こんなになるまで自分を傷つけて私を忘れようとしていたジャック。

そんなことも知らずに…自分の気持ちが楽になれるようにって…エミリーの代わりにされたって…思うようにしてた…でも…でも…そうしなきゃ、ジャックを忘れられなかったから…

私、わかってる…ジャックが私を本当に愛してくれてたのを…そして今も…

「ジャック、もう傷つけたりなんかしないでね。ジャックの痛みは私の痛み。私の腕を傷つけたりしないでしょ。約束してね」

「約束するよ、エリィ」

私は泣いているジャックを抱きしめた。

もうなにも私達を引き裂いたりなんかできない。

私達は一つになったんだから。

 

空港に行く時間が迫ってる。

早くベッドから出て仕度しないといけないのにジャックも私も抱き合ったまま。

「向こうに戻ったら日本の大学に入れるように手続きしてくるよ。そうしたら一緒に大学に行ける。そしてアパート借りて一緒に住むんだったよな」

「ジャック、覚えてたの?うれしい!そう出来たらいいなぁ」

そしていつかジャックのお嫁さんになれたら。きっといつかその日が来る、だって私達はもう離れることはない…産まれる前の一つの円に戻ったんだから…

私はジャックをきつく抱きしめた。

「エリィから離れられないよ。エリィの匂い…この肌の感触…夢で何度も見たんだ…こうやってエリィと愛し合うことを」

ジャックは私の胸に顔をうずめた。

「くすぐったいよ、ジャック」

ジャックが私の左の胸を指で軽く触れたから…

「これも夢に出てきたんだ。エリィの胸にある三角形」

「三角形?そんなのあるの、私の胸に?」

気付かなかった…どこにあるんだろう。

「ほら、ここに。3つのほくろで小さな三角の形に見えるんだ。ちょうど見えづらいところにあるから気付かなかっただろうけど。俺だけのトライアングルさ」

そう言ってジャックは私の胸にあるトライアングルにキスをした。

どうしよう…本当に送れちゃう、空港に行くの…

 

「またすぐ会えるさ。そんな悲しそうな顔するなよ」

そう言ってジャックは私を抱きしめた。

私達は出国手続きの前にある手荷物検査のゲートの前にいる。

私はここから先へは行けない。ここでジャックとお別れ。

飛行機のチェックインにはギリギリ間に合った。

そしてジャックはもうそろそろ出国しないといけない時間のはず。

でもどうしてもジャックを離したくなくて。

あんなに愛し合ったのにもうジャックが恋しくてたまらない。

「ジャック、早く帰って来ないと浮気しちゃうかもよ」

私はジャックを困らせたくて心にも無いことを言った。

私はジャックじゃなきゃ駄目なの…

それをジャックもわかってるから私がそんなことを言っても笑ってる。

「それは困るな。俺が帰るまでちゃんと待っててくれ」

ジャックは人目も気にせずに私を激しく抱きしめてキスをした。

「ジャック、愛してる…」

 

ジャックの乗った飛行機が飛んでいく。

またすぐ会えるよね、ジャック。

私、待ってるから…