Love story Afterwards -9 (Kakeru)

Afterwards -9 (Kakeru)

  

「久し振りだね、元気でやってた?」

ジョシュアとの再会。

なにも言わなくてもお互いの気持ちがわかる。

高1の夏の突然の別れ…ジャックの死…

いろいろなことがあった…

ジョシュアだって強がってるけど辛かったはず。

自分にはなにもできないもどかしさ。

僕と同じなんだ…

泊めてもらってるジョシュアの部屋で懐かしい日本での話しをする。

「あの頃はホント楽しかった。地震とかあったけど、でも皆と一緒だったから」

ジョシュアの言葉の意味の重さに胸が締め付けられる。

「うん、そうだね…一緒だったよね、僕達」

ここにジャックが居てくれたら…

ジャックが逝ってしまったなんて…

朝目が覚めて、何度夢だったらって思ったことか。

「ジャックソン、また成長したみたいだね。前に会った時より言葉もたくさん覚えてるし、子供ってスゴイなぁ」

僕達はいつも一緒だったからあまり感じなかったけど、そうなのかもしれない。

「そうだね…立ち止まるってことを知らないかのように前に、前にって進んで行くようだよね…」

そうだねって頷くジョシュアの顔が淋しそうで、僕の心も哀しくなる。

キマズイ雰囲気の中、ジョシュアが思い切ったように言った。

「エリはどう?」

1歳のバースデーの後、ホッとしたのかジャックのことを想って泣いている。

今まで毎日を生きるのに精一杯で、泣いてるヒマなんか無かった。

「なんか気になるんだよ、お姉ちゃんが空港でジャックを見たなんて言うし…だから。

でもここに来てなんか落ち着いた感じだよ、やっぱり皆と一緒のほうがいいのかなぁ…

ジェイムズやジョシュアの傍のほうが、お姉ちゃんとジャックソンのためには。ちょっと悲しいけど…僕達じゃぁ駄目なのかもしれない…」

「そんなんじゃないよ。エリやジャックソンには僕達だけじゃなくて、リョウやカケル、エリの両親、皆が必要なんだよ。僕達は家族なんだから」

家族か…

「エリのことは皆で考えようよ…心配しないで。きっと…大丈夫だから」

ジョシュア…ホントいいヤツなんだ。

「ところで…カケルは彼女いないの?」

突然なにを言い出すかと思ったら…そうきたか。

「いないよ…」

「カケルは厳しいからなぁ…」

「そう言うジョシュアはどうなんだよ」

「片思いってとこかな…」

ジョシュアが切なそうな顔をして溜息をつく。

「僕も同じだよ…片思い」

エッと嬉しそうに瞳を輝かせて、それで…と体を乗り出すジョシュア。

「もう…僕が先に話すの?言い出したのはジョシュアなのになぁ、次にちゃんと話してよ」

わかったと頷いて、早く話せと催促するジョシュアに溜息が出たけど、僕も誰かに聞いて欲しいって…心の中では思ってた。

「相手は同じ学校の子?あっ、1年の時同じクラスだった子?ちょっとカケルのタイプだったよね」

誰のことだよ。それに僕のタイプってわかってんのかなぁ。

「学校で逢えるんだけどね。生徒じゃない…」

ジョシュアの顔の表情がパッと明るくなった。

「それって先生?!」

「今、教育実習で来てる…。英語を教えてくれてるんだ」

「カケル、やるじゃん、年上かぁ。写真見せてよ」

「そんなの持ってないよ。ただの僕の片思いなんだから。じゃあ、次はジョシュアだよ。ちゃんと話したんだからさ」

ジョシュアはちょっと不満げな顔をしたけど、すぐに自分の話に夢中になった。

嬉しそうなジョシュアを見ていたら、日本の自分の部屋でジョシュアにコクられた時のことを思い出した。

そんなこともあったよな…そう…いろいろなことがあったんだよ…。

隣に外国人が引越して来たって、お姉ちゃんに偵察に行かされた。

あの日、僕はジョシュアに出会った。

クラスは違ったけど同じ学年ですぐに仲良くなった。

皆がお姉ちゃんとジャックのことしか見てなかった時、僕達は2人でいろいろなことを話した。

でも…ジャックの過去のことになるとジョシュアの顔が暗くなってしまうので、僕はあえてそのことには触れないようにしていた。

なんとなく、ジョシュアが僕に友達以上の感情を持ってるんじゃないかって気付いてた。

僕は驚かなかった。同性同士、好きになるのが悪いかどうかなんて簡単に言えない。

兄さんだって…他にいっぱい女の子…いるのに。

どうして…どうしてお姉ちゃんなのかって…わかんなくて僕なりに悩んだ時もあった。

でも…今、いろいろなことがあった後で一つ言えることがある…

人を好きになるって理屈じゃない…

ジェイムズだってジャックのためにお姉ちゃんを諦めた…

兄さんもジェイムズも、報われない想いを抱えて生きてる…

どうして…こう辛いものなんだろう…人を好きになるって。

ジョシュアの話によると、片思いの彼とはバイト先のカフェで知り合ったらしい。

年上で頼りになって、いつもお世話になってるうちに恋心が芽生えたって。

僕は嬉しそうに話してくれるジョシュアを見つめていた。

「カケル…カケルにはフラれたけど、こうして友達でいられることがうれしいよ。

人を好きになるってうれしくて、楽しいこともあるけど辛くて悲しいこともあるよね。

でも…人を好きになるのって…素敵なことだと思うんだ」

そう言ってジョシュアは携帯を取り出した。

そして見せてくれたのはプリクラの写真。

日本に居る時に皆で映画を見に行って、その後にボウリング場で撮ったんだった。

ジェイムズ、ジャック、ジョシュア、兄さん、僕…そしてお姉ちゃんが楽しそうに笑って写ってる…

「忘れられなくて…楽しかった思い出だからさ」

画面を切なそうに見つめるジョシュアの気持ちが痛いほど伝わってくる。

「ジョシュア、僕も…その写真…携帯に入れて持ってるんだ。大事な宝物だから…」

「ほんと…おしいよなぁ。僕とカケルだったらすごくいいカップルになれると思うんだけどなぁ…なんてさ」

ジョシュアの淋しそうな笑顔…ごめん、僕には答えられないよ…ジョシュアの気持ちに。

「聞いてもいいかい?ジョシュアっていつ頃から…そうだって気がついたの?」

「もとからそうじゃないかって感じてた。だけど…ジャックとエミリーのことがあってから…女の子を見る目が変わってしまった。かわいいとかっていうよりもコワイって感じで…あの頃からかなぁ」

そうだったんだ…ジョシュアもジャックのことで辛い思いをしてきたんだよね。

僕がカナダに来た理由…

「ジョシュア…僕ね…ここに来て、ジョシュアに会えて話ができてホントによかったよ。僕の存在を無視しないで欲しかったんだ…僕も辛かったんだ…いろいろなことがあって。でも…家族の皆は僕のことなんか目に入らないようで…とても…哀しかったんだ」

「僕も同じだよ。ジャックのことがあってから1番下の僕はいつも子供扱いで、カケルと同じように疎外感を抱えていたよ。お互い境遇が似てるよな。でも…ホント、カケルの家族や僕の家族にも感謝されるべきだよな…僕達。だってさ、グレもせず、こうやってこの状況に対応してるんだからさ。普通だったら性格ゆがむって…」

「確かに…ジョシュアの言う通りだよ」

2人で大きな声で笑った。

 

 カナダに来て、お姉ちゃんのスリープウォークは止まった。

その後なにも無い日が続いて、僕達は普通に観光をしたりして毎日を楽しんだ。

そろそろ帰らないと…僕も学校のことがちょっと心配になってきていた。

兄さんもここで僕達ができることはもう無いって感じたようだった。

そして、僕と兄さんはお姉ちゃんをジェイムズやジョシュアに頼んで日本に帰ることにした。

「大丈夫かなぁ…お姉ちゃん」

「信じるしかないだろう…」

日本に帰る飛行機の中で兄さんと2人…

兄さん…兄さんと一緒に来れてよかった。

僕達…兄弟だけど、兄さんのこと…今までずっと遠くに感じてた。

でも…この旅行のおかげで兄さんと心が近くなったような気がする。

「翔…趣味がいいな…あの香水。母さんにって感じじゃないけどな」

本を読んでいた兄さんが僕を見て言った。

空港の免税店で香水を買った。

教育実習の先生に…

見てたんだな…兄さん。

僕がこっそり店員さんに、先生くらいの大人の女性が好きそうな香水を聞いていたのを。

「好きな人がいるんだ…その人にって買ったんだ」

僕は正直に言った。

なにも隠すことも無いし、兄さんには話したいと思ったから…僕の好きな人のことを…

「そうか…がんばれよ…」

それだけ言って、本に視線を戻した兄さん。

兄さん…ありがとう。

きっと…兄さんにも素敵な人が待ってるって…僕は思えるんだ。

いつか…