Delicious   Entree 1

Entree 1

   

私にとって男の子と過ごす時間はDeliciousじゃなくてはいけない。

だから私は食する前に素材を十分吟味する。

その選ばれたものが喉元を通り過ぎ、胃の中で分解されて腸で栄養となって私の体に吸収されていく。

そして、すべてが最高の味で私に至福の時を与えてくれる。

それが私の命の源。

うーん、So Delicious !

……………なはずがー。

マジ!

うそでしょ!

こんなのってあり?

カップヌードルを作る時間より短いなんて、信じられない。

私の体の上で息が切れ切れになってるこの男!

私と同じ大学の学生。

これじゃ、今時の高校生のほうがよっぽどマシよ。

まったく、早くどけて欲しいんだけど、おたくの体!

私の首に息を吐きながら顔を寄せてくる。

「君とこんなことになるなんて思ってもみなかったよ。でも…やっぱりしてみないとわからないよなー、体の相性は…。 なんか僕と君はすごくあってると思うんだけどね。君はどうだった?」

 はぁー!なにを言ってんのよー。

 私に乗っかてるこの男の体を振り落として、ベッドから突き落としたくなる衝動を抑えて言った。

 「うーん。私、あんまりそういうのよくわからないからぁー」

まったく、どうでもいいから早くどけてくれぇー。 

私は帰りたいのよ。まさに時間の無駄!

「そういうもんだよね、最初は。それじゃ、これから僕が君にいろいろ教えてあげるよ」

 なにを言ってんのよ、このカップヌードル男!

 なにもわかってないのはそっちのほう!うーっ、もう耐えられない。

 「私、遅くなると親に怒られちゃうから帰るわ」

 そう言って私は脱いだ服を拾い上げてバスルームに逃げ込んだ。

 もちろん、内から鍵をかけるのを忘れずに。

 ここに入ってこられてもう1回なんてまっぴらごめん。

 シャワーを浴びてる時にドアノブをガチャガチャまわす音が聞こえた。

 やっぱり!鍵をかけておいてよかった。

 さっさとシャワーを済ませて急いで服を着る。

 バスルームから出るとまだ裸のままの男がベッドの上に横になっていた。

 「なんだよ、鍵なんてかけるんだもんな。2人でお風呂にでも入ってさっきの続きをしようと思ったのに…」

外国人の父親を持つこの男は、やっぱりハーフだと思わせる整った綺麗な顔をしていた。

私もこの綺麗な顔に惹かれて今の状況に至ってるんだけど。

まずい、見惚れてる場合じゃない。さっさとバイバイしないと。

ラッキーにも向こうは服を着て無いから追いかけてはこれない。

「それじゃ、私はこれで。ごめんねー、急いでるから…」

そう言ってドアに向かって歩き出した私の後ろで、モゴモゴなにか言ってる男を無視して部屋を出た。

あー、失敗、失敗。

家に帰ってからもう1度お風呂に入った。

あんなのと寝たのかと思うと体が痒くなってきた。

"なんか僕と君はすごくあってると思うんだけどね。君はどうだった…"

なーにが、君はどうだったってー!冗談じゃないわ。

あんなひどいのは今までの経験上ありませんよーだ。

私は食事も男の子もグルメ嗜好。

 Deliciousじゃなきゃ嫌。

もう…急いで入ったレストランでまずいランチを食べてしまった時や、フルプライスで見た映画がぜんぜん面白くなくて、ちょっとーお金返してーって思った時のほうが心が穏やかだった。

 まったく、私としたことが。あの顔について行ってしまった。

 でも確かめたいこともあったから…。

あの容姿だからモテル。 頭も悪く無いし、性格も勘違いなところを除けば悪いってことは無いと思うんだけど…

だからいつも綺麗な彼女ができるのにすぐ別れちゃう。

周りではあの男が飽きて女の子を振ってるって思ってる。

でも…私は違うと思った。

だって、感じるんだもん。

あの男の元カノ達から発せられる電波。

それはなにか共通の秘密を電波として飛ばしあってる雰囲気。

それにあの目。これはなにかある、なにがあるのか知りたい!

私がそう思って行動に移るのに時間はたいしてかからなかった。

思った通り、まさにそういうことだったのねー。

まだ100%じゃないけど、たぶん私の勘に間違いはないと思う。

要するに女の子達に遊ばれてるんじゃないかってこと。

でも…あの男はそんなこと知らないんだろうなー。

明日になればまた違う子があの男の横にいるはず…そして…。

それってちょっと可哀想すぎるかも…

でもー、いくら鈍い男でもそろそろ気付くでしょー。いや、あれは難しいかもなぁ。

駄目、駄目、もう忘れよう。私とはもう関係ないこと。

お風呂上りにコーラを飲みながら今日のことをメモリーからDeleteしてるところに母親が帰ってきた。

うちは母子家庭で母親が働いている。

父親は生きてるけどもう会うことはないと思う。

私は言ってみれば帰国子女。

母親が、若気の至りで結婚したオーストラリア人の父親と離婚。

父親の浮気が原因だったのでちょっとばっかりの慰謝料をもらって、オーストラリアから2人で日本に戻ってきたわけ。

母親の両親は他所様に恥ずかしいとかなんとか言って他人のフリ。

まあ、ほとんど会ったことも無い人たちだったから私にはどうでもいいんだけど。

でも母親の気持ちを考えるとちょっと可哀想かなって思う。

せっかく日本に帰って来たのに、これじゃ向こうに居たほうがぜんぜん楽だったんじゃないかって。

それに私が大学に受かっちゃったから家計はますます大変。

私もバイトしてるけど母親はいつも遅くまで働いている。

大学を卒業して就職できたら、いつか楽をさせてあげたいとは思ってる。

だからちゃんと勉強しなくちゃ。明日も講義が詰まってる。

でも今日は生気をあの男に吸い取られたような感じで疲れきってしまった。

早起きして、明日の朝勉強しよーっと。

そしてカップヌードル男のことを綺麗サッパリ忘れ去って心地よい眠りについた。