Delicious Main 8
Main 8
母親と久し振りにショッピングや食事を楽しんだ。
一緒に出かけてよかった…。
このところすれ違いが多くてゆっくり話すことなんて無かったから。
新しい彼氏のことも聞いたし…でも…うれしそうだったなぁ…彼氏のこと話してる時。
幸せになって欲しい…。
しかし!いろんなことがあったウィークエンドだったなあ。
あの電車の彼と過ごした夜… 一緒に見た朝日…。
未だによく思い出せないんだけど…あの夜のこと…。
まあ、思い出さないほうがいいのかも… そういうことにしておこう!
今日から新しい週が始まる。
月曜日はキライって言う人が多いけど私は好きなほう。
だって、週末にいっぱいエネルギーを充電して気分もリフレッシュ。
自然とがんばろーって思えちゃうから。
でも…
大学に着いてそのV8エンジンを積んだような私の元気は急に減速していった。
そう、健太郎のこと… すっかり忘れてたよー、メールするの。
" やったー、5分達成 "メールくれたのに無視しちゃったかたち。
健太郎の顔を見つけて声をかけた。
「おはよー、健太郎…。ごめんねー、週末いろいろあって」
あれれー…無視?怒ってる…。
「健太郎…、機嫌なおしてよぉ…」
いつものように健太郎の顔を覗き込んだ。
「…じゃあ…」
じゃあって健太郎ー、それだけで行っちゃった。
健太郎…めちゃめちゃ怒ってる…。
後でまた声をかけてみよう、機嫌直ってるかもしれないし…。
でも…講義が終わった後に健太郎を探したけど見つけられなかった。
取り合えずバイトに行かなきゃ。終わったらメールしてみよう…。
「ねえ、ジェシー。どう思う?やっぱり私が悪いんだよね、これって」
英会話学校の休憩室で週末の出来事をジェシーに聞いてもらう。
2人とも今日の授業が終わって、ちょっとだけのつもりが話し込んでしまってる。
「そうだね、健太郎にしてみればナオミが1番喜んでくれると思ったんだろうね。それがなんの連絡も無くてがっかりしたんだろうけど…」
「私、すごく喜んでるよ。でも…言い訳になっちゃうけど、マジでいろいろあったから…」
わかってるってー。ちょっと無責任だった!トレーナーなんだもん。ジェシー、そんな顔で見ないでよー。
「そうそう、電車の彼…。名前知らないんだ。ミステリアスだよね」
何よー、突然。今度はそのこと…。
名前を聞くなんて野暮なこと…というよりそんなこと気にする暇も無かった…。
いつ眠っちゃったのかすらも覚えてないんだから…。
" 他の男のことを考えてるって顔してたよ。心外だなぁ…僕といる時に。ちょっと本気にならないとね、君がそんなことをできないように…"
健太郎にメール出さなきゃって考えてた時だった。
ほんと、なんにも考えられないくらい本気出されちゃった。
「なにを思い出してるの?ちょっと顔の筋肉が緩んでるけど…そんなによかったんだ、彼…」
そんなこと顔に出しちゃってるの?違うってば…。
「それでナオミはどうするの、その彼と…」
わかんないよ…それはまだ…でも…。
「別れる時、また会いたいって言われた…」
「それでナオミはなんて言ったの?」
「また電車でって言った…」
ふーんとジェシーが不服そうに鼻を鳴らした。
「また会いたいってナオミを思わせるくらいイイ男だったんだ…。僕もそんな人と出会いたいよ」
でも…携帯の番号も知らないし、いつまた会えるのかわからない…
「そんな顔しなくてもいいよ。きっとまた会えるから…」
ジェシーが優しく髪を撫でてくれる。
「でもナオミ…健太郎は大丈夫なのかなぁ?」
エッ?健太郎?どうして?
「私達はそんなんじゃなくて、そうそうビジネス上の関係だから…」
そうそう…と自分で頷いて納得してる私を首を傾げて見つめるジェシー。
「そうだといいけど。この頃いつも一緒でしょ、健太郎と。僕が妬いちゃうくらいだからね」
確かにこの頃一緒にいることが多いけどそれはそれ…。
「大学での健太郎のリアクション、メールのことだけじゃないような気がするよ…」
そんなー、ジェシーってするどいから…。
ブ・ブ・ブー。マナーモードにしてる携帯を取り出してみると健太郎からメール…
「噂の彼じゃないか…なんだって?」
覗き込むジェシーから携帯の画面を隠して健太郎からのメールを読む…。
" ナオ、会いたい…"
健太郎、なにがあったの!?
私は英会話学校の入ったビルを飛び出していた。
" ナオ、会いたい…"
突然会いたいなんて…どうしたの、健太郎。
" ここで待ってる…ナオが来るまで…"
健太郎のメールにあったラブホに駆け込んだ。
えっと部屋番号は…ここだっ。
ドアの前で肩で息をしながらどうしようか迷ってしまう。
もし…健太郎がバカなことでもしてたら…どうしよう…。
メール返さなかっただけで血迷ったことするワケ無いと思うけど…。
もう…コン、コン。
思い切ってドアをノックした。
少し間があってからドアがゆっくり開いた。
「健太郎…どうしたの?メール読んだよ…もう心配したんだから…」
私を部屋に入れてくれると健太郎は俯いたままベッドの上に腰をかけた。
「健太郎…こっちを向いて…私に顔を見せて…」
健太郎の横に腰を降ろして健太郎の乱れた前髪を指でかきあげた。
唇を噛みしめて泣かないように我慢してる健太郎の横顔…。
よく見るとベッドが乱れてる。まさか…。
「そうだよ、大学の子と寝た…」
「寝たって…?それってトレーニングの一環か何かで?」
黙ってる健太郎…。
「まあそれでどうだった?うまくいった?…ダメだった…とか…?」
健太郎がイラついた様子で声を上げた。
「7分超えたよ…。もう…そんなことはどうでもよくて、ナオは僕が他の子と寝てもなにも感じないの?」
それは…。だって私達、表向き付き合ってることにはなってるけど、ほんとはビジネスだけの関係で恋愛感情は無いでしょう…それより7分は凄いじゃん…でもぜんぜん嬉しそうじゃないねー。
私が無反応なのを見て健太郎は溜息をついた。
「僕は嫌だった。クラスの女の子からナオが外国人の男とホテルに入っていくのを見たって聞いた時。僕には関係の無いことだってわかってる。ナオのプライベートに立ち入るつもりも無いよ。でも…ちょっと淋しかった。ナオにメールを出して返事が来なかったことも…。きっと一緒に喜んでくれると思ったから…。返事が来なかったのは男とホテルにいたからだって思ったらムシャクシャしてしまって…。それで誘っちゃったんだ」
…その件は謝ったじゃん…悪かったって…トレーナーとして。
「それに…」
まだなんかあるの…。もうイッキに吐き出してくれればいいのに…。
女の子に言われた…ちょっとはマシになったって…。彼女、笑ってそう言ったんだ」
そっか…そうだったんだ。
自信がついたら女の子達を見返してやるって言ってたもんね…。
「それだけじゃないんだ…僕が悔しいのは…。僕のことだけだったら我慢できた。
でも…ナオのことまで言われて…。怒鳴っちゃったんだ、その子に…出てけって」
なんか想像つく…それで置いていかれちゃったわけね…。
「部屋を出て行く時にその子が言ったんだ、" 下手なのにバカみたい "って。僕ってそんなに下手なのかなぁ…わからなくなってきたよ…ナオ」
男の子も大変なのねー…女の子はあーだ、こーだって指摘するだけでいいけど。
「愛し合うって相手があってのことだからお互いを思い合ってするべきだと思うんだけど…。独りよがりじゃなくて…お互い相手の求めるものを与え合う。そういうもんじゃないのかなぁ…。健太郎の場合は経験値がアップすれば大丈夫だと思うよ。余裕ができれば自然と相手の女の子の求めているものを感じられるはず…。日本の男の子は俺が満足させてやるーってがんばってくれるけど、私は2人で一緒にって風がいいけどね」
「ナオ…」
突然健太郎に抱きつかれてびっくり…。
「…ナオ…、またがんばるよ…」
ハイハイ。がんばりましょう…。
「じゃあー、ご飯食べに行こうか?健太郎お腹空いてる?」
ウンと頷く健太郎に早くシャワーを浴びてくるように催促する。
ベッドから飛び降りてバスルームに駆け込む健太郎の後姿を見て口元が緩む。
ほんと、かわいいんだから…。
まぁ…ちょっと手がかかるけどね…。
またがんばろうよ、健太郎…。