Love story Chapter one-16
Chapter one -16
午前中の部が終了してランチタイムになった。
朝からこのために張り切って作ったお弁当をお母さんが広げる。
お隣のお母さんも洋風のお弁当を持ってきた。
私達は両方のお弁当を食べながら、1年生の余興のダンスを見て笑った。
翔とジョシュアも私達の学校を受験する予定なので興味深くダンスを見ていた。
そうよ、来年入ってきたらこれよりすごいダンスを躍らせるからね。
翔とジョシュアは私が1人でニヤニヤしてるのを見て気持ち悪がってるけど、楽しみ、楽しみ。
もうひとつおにぎりを食べようとしたら放送で次のレースの案内があったので諦めて席をたった。
次は私が出る借り物レース。
どうか簡単なのに当たりますように。だって去年なんてとんでもないのに当たってしまってビリになっちゃったんだもん。
私の番が来た。神様、どうか超、超、簡単なのにしてください。
パンという音に耳を塞ぎながら私は走り出した。
借り物をする場所で紙を拾って恐る恐る中身を読んだ。
なんだこれ、クリスマスを一緒に過ごしたい人!赤ペンで相手チームからって!
クリスマスなんてまだ先のことでそんなこと考えて無いよー。
誰にしよう…誰か選ばなきゃ。
私は焦って赤組の前に立った。
皆が借り物はなんだーと聞いてくる。
「人です」
「どんな人なんだよー」
困っている私を見てジェイムズとジャックが近寄ってきた。
この2人だったら皆クリスマスを過ごしたいと思うようなあ。
そう思って私は2人を交互に見た。
でもどっちも選べず立ち尽くしてしまった。
そんな時、他の子がジャックの名前を呼んでジャックの手を取って引っ張った。
ジャックはその子に引っ張られながら走り出した。
目の前からいきなりジャックが消えてしまってジェイムズが1人で立っている。
「ジェイムズ、私と走って」
私はジェイムズの手を取って走り出した。途中からはジェイムズに引っ張られながら。
がんばって走ってなんとかビリは免れたけど違う意味で心臓に悪いレースだった。
「ジェイムズ、ごめんね。せっかく一緒に走ってくれたのに1位じゃなくて」
「エリと一緒に走れたのが嬉しいよ。でも紙にはなんて書いてあったの?どうして僕なのか知りたいな」
私が握り締めている紙を見てジェイムズは言った。
「それは…」
ジェイムズは私の手を優しく開いてその中から紙を取り出して読んだ。
「それで僕を選んでくれたのかい?うれしいな」
そう言うジェイムズの頬が少し赤くなったような気がした。
「皆、ジェイムズを選ぶだろうなって、私思って…だから…」
照れ隠しに言い訳っぽいことを言う私。ジェイムズが少し俯いて言う。
「でも、ジャックが他の子に連れて行かれなかったらどうしてた?」
私が迷っていたのを気付かれてたのかなあ。どちらも選べなかった私。
もしあの子がジャックを連れて行かなかったら私はずっと2人の前に立ち尽くしていたのだろうか。
ジェイムズが私の目を真っ直ぐ見つめなおして答えを待っている。
「もちろん、2人一緒に引っ張って行ってたよ!
と、ごまかした私を見てジェイムズは寂しく笑った。
「次は二人三脚です。参加する生徒はテント前に集合してください」
このレースに祐美とジェイムズがペアで出る。
祐美は足首をジェイムズと結ばれてジェイムズの体に腕を回してスタートラインに立っている。
ジェイムズを好きな祐美、がんばってね。
そう思う気持ちと裏腹にジェイムズに全てを預けるようにして寄り添う祐美を見てチクッと胸が痛んだ。
レースが始まって2人は息もぴったりで1位でゴールした。
祐美が喜ぶ姿が見える。私は手を振ってガッツポーズをした。
お似合いだと思うあの2人。
複雑な気持ちを隠しながら喜んでジェイムズと抱き合う祐美を見つめた。
午後の競技も中盤に差し掛かった。
次は何故か女子のみ全学年混ざっての騎馬戦。
これが超怖い。
ドサクサに紛れて髪は引っ張られるは、蹴られるは…
私達が1年生の時は怖くて逃げ回ってるだけだった。
ところが今年の1年生は私達みたいにおどおどしてなくて、やってやるみたいな雰囲気。
私達2年生は1年生と3年生相手に戦わなきゃいけないみたい。
「えり、気をつけなよ。赤組の3年生が狙ってるよ」
祐美が3年生のほうを見て言った。
「えりは白組キャプテンの妹、それに借り物レースでジェイムズを選んじゃったりして。浅はかだなあ」
確かに3年生のほうから不気味な視線を感じる。
怖いよー、今から棄権しまーす、離してよー。
逃げようとしたけど皆に引きずられてそのまま騎馬の上に乗せられてしまった。
位置に着いて、パパーン。
騎馬戦が始まった。怒涛のごとく女の子達が走り回るこの光景は傍で見てたらちょっと異様かもしれない。
でも体育祭で1番盛り上がる。
いつも大人しそにしてる子が髪の毛を振り乱して相手の鉢巻を掴んで雄叫びを上げたり、素に戻ってしまって全校生徒の前でとんでもない失態を見せてしまったりする。
だから普通は皆、馬になりたがる。
なるべく目立たないようにして時間が過ぎるのを待つ。
私もそのつもりだったのに祐美の陰謀で馬に乗る羽目になってしまった。
「先輩達が突っ込んでくるー」
祐美の悲鳴のような声と共に先輩達の声が。
「えりー!ただじゃおかないわよー」
逃げまくる私達を追い掛け回す赤組3年女子。
ギャラリーの皆さんには先輩達の声が聞こえてないみたいで私達がただじゃれ合っているように見えるのかも。
もっとやれと盛り上がっていた。
最初、お兄ちゃんが見ているのを知ってる3年女子は手加減をしてたけど、そのうち興奮してきてすっかりそんなこと忘れちゃったみたい。
逃げまくってる間も私は髪の毛を引っ張られたり、ひっかかれたり、ボロボロになっていた。
馬になってる子達の体力が限界に達して私達はバラバラに崩れた。
そして上に乗っていた私はまっ逆さまに落ちて、ひざまずいていた所を皆の足で踏まれて動けなくなっていた。
パン、パン。競技終了の合図がした。
体のあちこちが痛くてすぐに動けないでいた私の腕を誰かが掴んで皆の足元から引っ張り出した。
ヘロヘロになって朦朧とした私がやっと頭を上げるとそこにお兄ちゃんが立っていた。
「大丈夫か」
お兄ちゃんはそう言うと赤組3年女子のほうを睨んだ。
「私達はなにもしてないよ。この子達が勝手にこけたんだから」
でもお兄ちゃんの手前、3年女子は私に大丈夫か聞いてきた。
「大丈夫です。騎馬戦って興奮しちゃいますね」
私はボサボサになった髪を整えながら言った。
そこへジェイムズとジャックがやってきた。
「エリ、大丈夫!?あー良かった生きてる。でも顔にひっかき傷が…日本の女の子も意外と過激なことをするんだね」
ジェイムズが新しい発見をしたという顔をして言った。
「どこの国の女も同じだ」
とジャックは表情を変えずに言った。
お兄ちゃんは私の体についた土や埃を掃いながら微笑んだ。
「心配ばかりかけるよな、俺のえりは」
独り言のように呟いたお兄ちゃんの言葉が何故か私の心に残った。
次は全校生徒全員参加の綱引き。
長い一本の綱を全員でひっぱるこの競技は私達の学校の伝統競技。
学年もなんにも関係なく皆で引っ張る。
この競技のお陰で体育祭の後は学年の垣根が無くなって皆仲良くなれる。
今年の赤組の気合の入りようはすごい。
白組の私達も綱を握る手に力が入る。
1回目は不意をつかれて赤組に負けてしまった。
次は負けるもんか。
白組の意地を見せて校庭の端まで赤組を引きずっていった。
これが最後の勝負。
お兄ちゃんとする綱引きもこれで最後。
お兄ちゃんの背中を見ていて涙が出そうになるのをこらえて綱を力いっぱい引っ張った。
綱は真ん中で止まったまま動かない。
ずっとこのままかと思ったら綱が私達のほうに傾いた。
赤組が力尽きたようでその後、白組に引きずられて赤組の皆は綱につかまったまま校庭の上を滑った。
「やったー!!白組の勝ち!」
皆、先輩、後輩関係無く抱き合って勝ったのを喜んでいる。
お兄ちゃんが振り返って私を抱きしめる。いつもクールなお兄ちゃんが顔をこんなにくしゃくしゃにして喜んでる。
「えり、今年の体育祭は最高だよ」
綱引きで最高潮を迎えた体育祭も最後の競技になってしまった。
赤白対抗のリレーが始まる。
全校生徒がトラックの周りをぐるっと囲んでレースを盛り上げる。
ピストルの音がなって赤白代表の1年女子が走り出す。
女子はほとんど同時に1年男子にバトンを渡した。
赤組の男の子がすごく速くて白組は少し遅れを取った。
バトンは2年女子に渡されて赤組がそのまま差をつけるかと思ったら、2年男子の陸上部の子の活躍で白組が赤組に追いついた。
そして3年女子が健闘して勝敗の行方はアンカーの3年男子の手に委ねられた。
スタートラインで後ろを見ながら走る準備をしているのはお兄ちゃんとジェイムズ。
2人の一騎打ちだ。
3年女子がほとんど同時にバトンを2人に渡した。
皆の大声援の中、2人は走った。
第1,2,3コーナーをほぼ同時に曲がって2人は第4コーナーに差し掛かった。
皆は声が枯れるくらい2人を応援した。
ゴールの側に立っていた私は2人が走ってくるのを見て胸が熱くなった。
居ても立っても居られなくて手を振って2人の名前を呼んだ。
ゴール前でジェイムズが最後の力を振り絞ってお兄ちゃんを引き離してゴールした。
赤組の皆は大喜びでジェイムズを取り囲んだ。
お兄ちゃんは肩で息をしながらちょっと悔しそうな顔をしたけど、その後ジェイムズの所に行ってジェイムズの勝利を讃えて抱き合った。
その姿を見て白組も赤組も無く皆で抱き合って両チームの健闘を讃えあった。